
1993年から上海在住のライターでメイクアップアーティストでもあるヒキタミワさんの連載「水玉上海」は、ファッションやビューティの最新トレンドや人気のグルメ&ライフスタイル情報をベテランの業界人目線でお届けします。今回は3月25日〜4月2日に開催された「2026−27年秋冬上海ファッション・ウィーク」について。「コム・モア」「スーザン・ファン」の2ブランドを軸にリポートします。
スーパーモデル出身の吕燕が手がける「コム・モア」
3月25日から4月2日にかけて開催された上海ファッションウィーク。期間中、市内各所では70近いショーが行われ、さらに展示会やショールームイベントも加わり、街全体がファッションウィーク一色となった。限られた時間の中で足を運べた会場は多くはなかったが、その中でも特に印象に残ったのが、世界的スーパーモデル吕燕(ルー・イェン)が手がける「コム・モア(Comme Moi)」のショーだった。
1981年生まれの吕燕は、1999年に中国でファッション界デビューし、2000年には世界スーパー・モデル・コンテストで準優勝。モデル、女優として活躍する一方、2013年には自身のブランド「コム・モア」を立ち上げた。建築的なテーラリングと自然体のエレガンスをあわせ持つウィメンズウェアで支持を集め、2016年にはBoF 500にも選出。中国ファッション界を代表する存在の一人として、確かな地位を築いている。
ブランド名の「Comme Moi」は、フランス語で「私のように」を意味する。今回発表された2026年春夏コレクション「牧游心」では、ナポリやポンペイの古代壁画、ジョージア地方の遊牧文化をインスピレーション源に、自然染色や複雑なニット、サテンとオーガンジー、シフォンなど、異なる素材を重ねていた。土や壁画の色褪せを思わせる落ち着いた色合いと、身体に沿いながらもほどよく空気を含んだシルエットが印象的で、歴史や自然から着想を得た要素が、現代的な服として丁寧に表現されていた。アクセサリーにはアルゼンチンの陶芸家コニー・ヴァレーゼ(Conie Vallese)の作品が取り入れられ、コレクションに独特の質感を添えていた。
中国やカナダで育ち、英セント・マーチンズ出身の「スーザン・ファン」
一方、展示会ベースで強く惹かれたのが、ロンドンを拠点とする中国人デザイナー、スーザン・ファン(Susan Fang)による「スーザン・ファン(SUSAN FANG)」だ。中国、カナダ、アメリカ、イギリスで育ったマルチカルチャーな背景を持ち、ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ校(Central Saint Martins)を卒業。クラフトとテクノロジーを行き来する独自の表現で知られ、「ナイキ(Nike)」「メリッサ(Melissa)」「ザラ(ZARA)」などとの協業でも注目を集めてきた。
AW26コレクション「Air Infinity」では、蝶結びやリボンを軸にした、軽やかで幻想的な世界観を見せた。半透明の花モチーフ、浮遊感のあるシルエット、ほのかな光を帯びた色彩によって、甘さの中にある強さや繊細さが丁寧に表現していた。
ブラジル発のシューズブランド「メリッサ」とのコラボレーションによるシューズも印象的で、桃花をモチーフにした立体的なフォルムや、クリスタルのような透明感をもつ素材使いが、シューズにまでその世界観を反映していた。さらに、オランダのインテリアブランド「モーイ(Moooi)」との協業による「Digital Gardens」では、ASCIIコードを花園のような柄へと変換したカーペットを通じて、服だけでなく空間にもその世界観を表現した。
欧州や中国の新進ブランドを集めた「オータムショー」
また、上海・外灘の歴史的建築「外灘老市府」4階では、3月25日から30日まで合同展「オータムショールーム」も開催。英国ネオクラシカルとバロック様式が融合する旧市庁舎を舞台に、「カタルツィ1910(CATARZI 1910)」や「ドロゲリアクリベリーニ(Drogheria Crivellini)」(ともにイタリア)、「オーガニックベイシックス(Organic Basics、デンマーク)」など、各国のブランドが集結した。DJとバーカウンターを備えた会場には、ショールームでありながら、どこかパーティのような高揚感もあり、26日のアフターパーティーには約150名が来場。今季はバイヤーマッチングの精度も高く、中国の「ピッチ(PITSCHI)」や韓国の「アンバ(UMBA)」といった新進ブランドにも注目が集まっていた。
華やかなショーだけでなく、展示会やショールームを含めた多層的な発信が印象に残った今季の上海ファッションウィーク。上海という都市の感度とスピード感を、あらためて強く感じるシーズンだった。