LVMHプライズ2025グランプリの大月壮士が手掛ける「ソウシオオツキ(SOSHIOTSUKI)」が15日、ピッティ・イマージネ・ウオモのスペシャルゲストとして、欧州では初のランウエイショー形式で2026-27年秋冬コレクションを披露した。
大月が同賞で評価されたのは、日本独自の土着的なカルチャーや精神性を、ファッションの世界共通言語であるテーラリング技術を用いて、説得力を持って表現する力だ。これまで主にルックブック形式での発表を続けてきた「ソウシオオツキ」にとって、今回のピッティでの初のショーは、その評価が間違いではないことを世界に証明する場となった。
テーマは「IN FLORENCE(フィレンツェにて)」。80〜90年代のバブル期、イタリア製スーツが熱狂的に受け入れられた時代からガラパゴス的に進化した日本のテーラリングを、本場イタリアへ「逆輸入」する試みだ。
ショーミュージックは、久石譲による楽曲「Drifter... in LAX」。北野武監督の映画「BROTHER」の劇中歌でもあるその旋律は、見る者(日本人に限ってかもしれないが)をバブル期の高揚感と、そこにある種の哀愁へと誘う。会場のライティングは、直視できないほどに眩い。それはフィレンツェの太陽のようでもあり、かつて東京の夜を照らしたネオンのフラッシュのようでもある。
テーラリングの細部の操作と、身体との関係性を探究
眩しい光の中で、「ソウシオオツキ」のテーラリングの真価が晒された。今季のクリエイションが焦点を当てたのは、テーラリングにおける細部の操作と、そこから生まれる身体との関係性だ。
重厚な尾州産ウールなどを用いたジャケットは、バブル期を思わせるボクシーなシルエット。ラペルや襟先は、パターン操作とアイロンワークによって人為的にカールを与え、静的な構造にわずかな揺らぎを加える。オックスフォードシャツはバイアスカットで仕立て、タックイン時に生まれるドレープを意図的に強調。着用時の動きによって初めて完成する表情を設計した。
“実験”とも呼べるコラボレーションも登場。「プロレタ リ アート(PROLETA RE ART)」や「アシックス スポーツスタイル(ASICS Sportstyle)」との協業によって、端正なスーツ地とコントラストのあるボロやべロア調のテクスチャーを衝突させた。
終盤、タバコを片手に気崩したスーツで歩くモデルたちの姿は、映画「BROTHER」のアウトローと重なる。ドカジャンを思わせる襟ボアのブルゾンや、哀愁漂うコーデュロイのセットアップも、大月にとっては日本的な“正装“の範疇にあるに違いない。
ドレスクロージングの本場で
自身のクリエイションを見つめ直す

「極東の島国で育った自分が、テーラリングの聖地で何ができるか」。大月はテーラーで学んだわけでも、海外で専門教育を受けたわけでもない。実際には経験していないバブル期の情景や、当時のイタリア製スーツになぜ懐かしさを覚えるのか。今回は“本場”でショーを行うことで、その理由を彼なりに理解し、再解釈し直すという大月自身の進化のための試みでもあった。
日本の土着的な記憶や文化をノイズとして混入させ、日本の精神性をドレスクロージングの文脈で語り直す大月のクリエイション。ルックブックでは伝わりきらない、ショーで見せるからこそ伝わる「作為的」で「動的」な違和感を取り入れる試みによって、さらなる深みへ到達したように思えた。日本人デザイナーが見せた既存のスーチングスタイルへの静かなる反抗は、メンズドレスの聖地・ピッティで鮮烈に刻まれたはずだ。