ファッション
連載 小島健輔リポート

2022年はOMOで店舗回帰せよ【小島健輔リポート】

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 ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。2年におよぶコロナ下のファッション市場ではEC(ネット通販)の利用がますます広がり、オフライン(店舗)とオンライン(EC)の融合をさす「OMO」が業界の合言葉になった。OMOを確立する上での具体的な課題は何なのか、詳しく考えてみた。

 コロナ禍ではアパレル業界の救世主となったECだが、EC比率が3割、4割ともなると弊害も無視できなくなる。OMO※1.と言ってもECが主役なのか店舗が主役なのかで在庫の運用も組織体制も真逆になるから、PLM(プロダクトライフサイクルマネジメント)※2.視点で先を見据える必要がある。コロナが収束して店舗に顧客が本格的に回帰してくる明日に備え、顧客利便第一のOMO体制確立を急ぐべきだろう。

※1.OMO(Online Merges with Offline)…ネットと店舗の垣根を超えた連携を意味し、ウェブルーミングから店取り置き、EC注文品の店受け取りや店出荷で顧客利便と在庫効率を高め物流コストを圧縮するリテール戦略

※2.PLM(Product Lifecycle Management)…商品ライフサイクル管理。商品の企画・開発から生産・物流、流通・販売、二次流通、廃棄までライフサイクル全体の流れを戦略的に管理・運用して品質とブランド価値、利益とキャッシュフローを最大化するマネジメント体系

EC拡大でOMO格差が広がった

 オーバーストアと過剰供給で店舗販売の効率が悪化してコスト倒れとなり、格段に人件費など固定費の軽いECへシフトを急いでいたところをコロナ禍が襲い、雪崩打つようにEC拡大に突き進んだアパレル業界だが、そろそろ頭を冷やして次の局面に備えるべきではないか。

 経済産業省の電子商取引統計によれば、コロナ禍の2020年は衣服・服飾雑貨のEC売り上げが16.25%(19年は7.74%)も伸びて2兆2203億円に達し、EC比率も19.44%(同13.87%)と大きく伸びた。大手アパレルの直近本決算EC売り上げも、21年8月期の国内ユニクロが前期から17.9%増の 1269.2億円(EC比率15.1%)、ベイクルーズが6.9%増の545億円(同推定48%)、21年2月期のアダストリアが23.4%増の538億円(同30.6%)、TSIが11.9%増の406.8億円(同30.3%)、21年3月期のワールドが15.4%増の389.1億円(同21.9%)、ユナイテッドアローズが11.7%増の326.3億円(同32.0%)と伸びたが、EC比率(各社とも国内売り上げベース)は格差が開いた。

 グローバルSPAでも20年11月決算でH&Mが39%増の520億SEK(EC比率27.8%)、21年1月決算で「ザラ(ZARA)」を運営するインディテックス(INDITEX)が77%増の66億ユーロ(同32.3%)と、店舗の多くが休業を強いられる中、ECが急伸してEC比率も大きく伸びたが、両社の格差は一段と広がった。H&Mの21年11月期全社売上は6%増(速報)でECは第3四半期までで17%増(同期間の全社売り上げは13%増)だったのに対し、インディテックスの22年1月期全社売り上げは第3四半期までで37%増、ECは上半期で36%増(19年比は137%増)と、コロナ禍からようやく回復しつつある今期も全社売り上げ、EC売り上げとも両社の格差はさらに広がっている。

 国内大手各社の格差もインディテックスとH&Mの格差も、店受け取り・店出荷を軸としたOMO体制の格差を反映したものと思われる。有明自動倉庫からの出荷にこだわった国内ユニクロのEC比率はコロナ禍で急伸しても15%強にとどまるが(21年10月8日からようやく店在庫引き当ての店受け取りを開始)、先んじて店在庫引き当てのOMO体制を確立した中国ユニクロは25%に達している。倉庫からの出荷から店舗在庫引き当ての店受け取り・店出荷に全面的に切り替えたインディテックスに対し、H&Mは各国の倉庫に在庫を積んで出荷する旧態なEC体制を脱していない。

 倉庫在庫出荷のECと店舗在庫出荷・店受け取りのOMOでは、顧客利便も在庫効率も物流コストも圧倒的な格差がある。倉庫在庫出荷で宅配利便を高めようとすれば各消費地に倉庫を配置せざるを得ず、在庫が分散して在庫効率が悪化し、物流コスト削減のメリットも相殺されてしまう。もう答えは明確に出ているのだ。

(注釈)顧客利便の格差…国内ユニクロは倉庫出荷では注文から店受け取りまで3〜7日も要していたのが、店在庫引き当てで最短2時間に短縮された

OMO体制を欠くEC肥大の弊害

 店舗拠点OMO体制に転換しないままECを拡大するとさまざまな弊害が広がり、EC拡大のメリットを食い潰してしまう。それは以下の5点だ。

(1)在庫の分散と店舗品ぞろえの弱体化

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