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10%を1000万円プレイヤーに、ゾゾ子会社が新人事制度で目指すもの

 「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」を手掛けるスタートトゥデイの子会社アラタナが新卒給与の改定や副業の解禁などを含む新人事制度を発表した。9月1日に制度を一斉導入し、2018年4月1日入社の新卒社員も最低賃金を18万円から25万円に改定する。宮崎に拠点を置く会社としてこれほど大幅な制度改革は珍しく、業界でも大きな話題を呼んだ。現在も宮崎と東京・千葉(親会社スタートトゥデイの拠点)を行き来する濵渦(はまうず)伸次・社長に新制度導入の狙いを聞いた。

WWDジャパン(以下、WWD):なぜ、宮崎県に拠点を置くのか?

濵渦伸次・社長(以下、濵渦):狙ってここに本社を置いたのではなく、宮崎出身で、会社を作った場所が地元だった。現在の社員も、別の場所から移り住んだI・Jターン社員は3割程度で、宮崎出身のUターン社員が4割、ずっと宮崎にいる社員が3割ほど。社員分布も宮崎に120人、東京に10人ほどで、宮崎に根付いた企業になっている。また、当社はブランドECに特化していることと宮崎好きな社員が多いことがあって、エンジニアの離職率が非常に低い。ブランドの自社EC開発には長期を要するので、これも非常にメリットに感じている。

WWD:あらためて、現在のアラタナの主要事業は?

濵渦:自社EC支援、特に構築とマーケティングを中心にサービスを提供している。スタートトゥデイ傘下に入ってからはアパレル企業のクライアントが増えた。今はファッション系が3割で、ユナイテッドアローズやサザビーリーグなどの自社ECを担当している。

WWD:スタートトゥデイとの連携はあるか。

濵渦:自社ECの在庫を「ゾゾタウン」と連携することができるようになった。アパレル業界が自社ECを強化する流れの中で、自社ECに在庫を積むことができるのはメリットになるはず。もちろん、ささげ(撮影・採寸・原稿)も「ゾゾタウン」のために専用で用意するものを自社ECに使用することができる。

WWD:どうして新人事制度の導入に至ったのか。

濵渦:6月に社長に復帰して、まずは人事制度改革をやりたかった。宮崎でも東京と同じ仕事ができるのに、地方だからといって給料が安いのはおかしい。レベルの高いエンジニアを誘致したいこともあり、東京と同じ水準を実現したいと考えた。宮崎は生活コストが安いので、このストレスフリーな環境で高待遇で面白い仕事ができるのは幸せだと思う。まずは第1弾として全体の水準をあげるための制度を発表した。将来的には全社員の10%を1000万円プレイヤーにしていきたい。

WWD:フレックスタイム制といった多様な働き方も需要があるのか?

濵渦:当社は女性社員が4割くらい。これまで、産休明けに復帰してくれる社員も多かったが、子どもの送り迎えなどを考えると時短勤務という働き方しかなかった。彼女らに聞くと、朝早くてもいいという意見が多く、その分早く帰宅できるようにして社員と同じ待遇を受けられるようにしたかった。

WWD:副業を認めた狙いとは?

濵渦:当社には優秀なエンジニアが多いが、どうしてもECに特化した開発が多い。何かに特化することでエンジニアとしての視野が狭まってしまうことが問題だと感じていた。そのために、副業を認め、休みの日に別のプロジェクトに参加してもらい、視野を広げるべきだと考えた。

WWD:副業の解禁は、会社にとってどういった効果があるのか。

濵渦:いろいろなプロジェクトに関わることで、社員の視野が広がるはず。筋トレのようなものだと位置付けている。NPOでもいいし、会社のお手伝いだったり、もちろん、起業をしてもいい。あくまで、生活のための副業ではなく、視野を広げるための副業。副業解禁とともに給料を上げるのは、副業の価値軸を変える狙いがある。フレックス制度の導入も、社員が自由に使える時間を与えることが目的で、全てを同時に開始することに意味があった。

WWD:新制度の導入はいいことばかりなのか?

濵渦:もちろん厳しい面もある。今回の新制度はベーシックインカムのようなもの。これまで年功序列だったが、全員のベースの給与が上がる一方で、今後の昇給は努力次第ということになる。自分の仕事が周りに評価されなければ給料が今後変わらないこともありうる。

WWD:発表後の反響はどうか?

濵渦:社内でも緊張感は出ている。単純に「給料が上がってラッキー」と考える人はいないはず。すでに何かにチャレンジしたいといった会話も増えたし、新卒からも「起業したい」という声があった。加えて、仕事をしたいという企業からのお声掛けも増えた。自社も社員もパートナーも、全てを大事にするというハッピートライアングルが大切だと思うので、まずは社員が楽しく、いい環境で仕事をできるようにしたい。

WWD:新卒採用について具体的にどういった活動を行っているのか。

濵渦:学生を直接スカウトすることもすれば、インターンシップの人数を増やすなど、いろいろなトライアルをしている。今年も8人の新入社員が入ったが、宮崎に優秀な学生エンジニアを誘致できるよう、今年は講演会などへも積極的に参加したいと考えている。エンジニア1人で会社は大きく変わる。だからこそ、きちんと人材を見極める必要がある。

WWD:地方創生を目指しているのか?

濵渦:われわれは地域活性化のための仕事をしているわけではない。自分たちの会社を大きくして、いいサービスを作る、これに尽きる。結果として利益が出て、雇用が出れば地方にとっていいことだが、地方創生が目的になってはいけない。もちろん、宮崎を愛しているので、結果として雇用が増えて地方が活性化することはとてもうれしい。

WWD:今後の会社としてのあり方について考えていることはあるか?

濵渦:自社EC支援を中心に、スタートトゥデイとさらに連携したサービスをやっていきたい。前澤(友作スタートトゥデイ社長)は非常におもしろい人物。感覚で動いてそうに見えるが、頭が切れて数字にも強い。豪快なところも素晴らしく、彼ともっと仕事をしたいと思う。グループには他にも面白い人がたくさんいる。起業して11年目だが、今が一番楽しいと感じている。

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