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「生活の中にサステナブルを実現するヒントはある」大量廃棄社会にどう向き合うか ファッションスタディーズがトークイベント

 ファッションスタディーズとワールドは11月7日、トークイベントシリーズ「さすてなぶるファッション」の第7回、「大量廃棄社会にどうファッション産業は向き合っていくのか?を考えたい」を開催した。登壇者には朝日新聞記者で書籍「大量廃棄社会 アパレルとコンビニの不都合な真実」(光文社新書)の著者、仲村和代と藤田さつきを迎え、モデレーターを山口大人が務めた。まず第1部では、仲村記者と藤田記者が同著執筆に至るまでの経緯や取材の裏話について語った。続いて第2部では、アパレル関係者から専門学生など幅広い年齢層の参加者から寄せられたコメントをもとにディスカッションが行われた。

第1部 “1年間に廃棄される新品の服約10億点”にたどり着くまで

藤田さつき(以下、藤田):まず私たち2人から書籍について話したいと思います。私たちは2017年から「2030 SDGsで変える」というキャンペーン報道を始めました。食品ロスの問題やジェンダー問題など、読者の方が自分ごと化しやすいトピックを取り上げ、これまでに80本ほどの課題解決型の記事を書きました。

仲村和代(以下、仲村):SDGs(持続可能な開発目標)の認知を広げていくために、できるだけ読者が暮らしの中で感じていることを拾い上げるような企画にしようと思いました。そこで出てきたのがアパレルの問題です。アパレル廃棄問題は以前から耳にしていましたが、実態の報道はされていない印象があったので取材を始めました。

藤田:私たちは18年7月に「新品の服、売れずに廃棄『年10億点』 人気ブランドも」という記事を一面に報じたんです。ここでは、大量廃棄の裏にある労働問題にも踏み込んで取材しています。

仲村:それをさらに深掘りして書いたのが「大量廃棄社会 アパレルとコンビニの不都合な真実」なんです。

藤田:実はこの10億着という数字を出すまでにも多くの壁があったんです。まず、国や業界による公式な統計が全くなかった……。断片的な情報を頼りに廃棄の現場を訪ねても、「それについては知りませんね」と回答されるような状況が続いて。取材に協力してくれたリサイクル業者の方に取引先を聞いても、「契約で厳しく守秘義務が課せられているからそれは絶対に言えません」と断られました。なぜここまで廃棄の実態が隠されているのだろう、これはいろんな意味で“不都合な真実”なのだなと思いました。そこでわれわれは、服の供給量と消費量から独自で廃棄量10億着の数字にたどり着いたのです。

仲村:10億というのは多すぎるのではないかと私たちも驚いた数字です。きちんと統計がないものを新聞の一面に出してもいいのだろうかと最後の最後まで悩みましたが、アパレル関係者の方々に伺うと現場感覚としては全然ズレていないと言われ、やはり事実なんだと思いました。

大量生産の裏に隠された縫製工場における深刻な労働問題

藤田:なぜこのようなことが起こるかというと、供給量がバブル期の倍に増えているのに対し、消費量がほぼ横ばい。消費しきれない大量の余剰が廃棄されているのです。売れる分だけ作ればいいと考える方も多いと思いますが、安さを実現するためには拠点を海外へ移し、安い単価で大量に作る必要があったのだと思います。この大規模な生産のもう一つの問題が、縫製工場における労働問題です。

仲村:いくら服の値段を安くするからといっても、洋服の複雑な工程自体を省くことはできません。バングラデシュでは、誰でも作業に入れるように工程を極力細分化・単純化し、安い単価で多くの人を雇用しています。発注側は、初めから半分くらいは売れないだろうなと思ってもコストとしてはそちらの方が抑えられる。現地では主に農村出身者の女性たちが月給4000~5000円(賃金はアジア最安水準)で働いています。縫製業によって雇用が増えたこと自体は評価できるものの、労働環境は決して芳しくない。また、作業が簡易的なためにキャリアアップも望めません。13年のラナプラザ事件では、縫製工場が崩壊し1000人以上が亡くなりました。このときは世界的に大きく報道されましたが、現地を知っている人によればこのような事故は決して珍しくないそうです。そして、現在もそのような事故が続いていると聞きます。

藤田:それは海外だけでなく、日本でも起きていることなんです。そこで、岐阜や愛知などの縫製工場で働くベトナム出身の技能実習生の女性を取材することにしたんです。取材したベトナム女性は、日本に来て縫製の技術を身につけたあと、ベトナムに帰って自分で商売を起こすことを目指していました。日本に来るときには約70万円の保証金を求められたそうです。この保証金とは、厳しい労働環境から逃げられないようにするために技能実習の期間を満了したときに返却するというものです。彼女らは借金をしてそのお金を作ったといいます。日本で働き始めればすぐ返せるだろうと思ったからです。けれども、実際は土日もなく深夜まで働く日々が続いたとか。それにもかかわらず時給が240円足らず。しかも、その給料も払われないまま会社がつぶれてしまったそうです。中には2回会社がつぶれ、3回も勤務先を変更している人もいました。技能実習生を雇っている工場には零細な工場が多く、厳しい経営状況に置かれています。メーカーなどの発注主も、このような状況を知らずに発注を続けている。これは、アパレル業界全体の構造的な問題なのだと思いました。

地に足のついた生活の中にサステナビリティを実現するヒントがある

仲村:本を出したあと多くの方から反響がありました。現場の方々は今まで問題に気付いていても、なかなか方策が見出せなかったのだと思います。また食品に比べて、アパレルの廃棄に関してはもったいないという感覚を持てる人と持てない人の差が大きいと思います。

藤田:リサイクルされているからいいじゃないかという意見もあり、リサイクルが免罪符のようになっているとも感じました。実際にリサイクル工場に取材に行くと、そこでは処理しきれない量の服が積まれていました。最近増えている化学繊維が交ざった服はリサイクルが難しく、ウエス(雑巾)としても使えない。リサイクルできない服は工場側がさらにお金を払ってRPF化(廃棄物固形燃料化)していました。こんな商売はうまくいかないと現場の人が嘆いていたのが印象的です。

仲村:古着を海外に売るという手段もありますが、それが現地の産業を圧迫している現状もあります。古着の輸入を規制する動きも始まっています。

藤田:私たちが10億着廃棄を報道した半月後、「バーバリー(BURBERRY)」の廃棄問題が明るみになりました。それ以降、世界中で問題意識が高まっています。フランスは今年6月、衣料や家電の廃棄を禁止する法律を再来年までに施行すると表明しました。しかし、高級ブランド品には特別措置が適用されるなどの話もあり、引き続き状況を見ていく必要があると感じています。

仲村:私が今日履いている靴下は2000円ほどの少し値段の張るものなのですが、破れたら交換ができる“永久交換保証”をうたうものです。東京・上野に店を構えるこの靴下店はたくさんの商品を置かずセールをしない。1年かけて売り切ることを徹底していて、商品が品薄になった8月には従業員たちの夏休みを設けたそうです。たくさん売ることを目的としないこの靴下店のやり方に、今後業界が目指すべきヒントがあると思いました。ここ20年新聞記者として社会を見てきて、豊かさのためにみんなすごく頑張って働いて疲れ切っていました。これではいけないとわかっていても正解が見えないという悪循環を見ているような気分でした。地に足のついた生活の中にサステナブルを実現するヒントはあると思います。

第2部 参加者と考える、私たちにできることは何か

山口大人(以下山口):ここからは参加者の方からのコメントをもとに、会場のみなさんと一緒に私たちにできることは何か考えたいと思います。お二人は参加者からのコメントで何か気になるものはありましたか?

仲村:買う側もみんなが高品質・高価格なものを買えるわけではない、という問題提起があります。その通りだなと思います。以前講演をしたときに、非正規雇用で働く人から「生活が苦しい私にできることは何でしょうか?」と聞かれました。そのように声を上げてくださることに意味があると思います。生活が苦しい理由は必ずしも、当事者に責任があるわけではありません。周りの人がそのことに気がつくために、消費者も作り手も自分の話には価値がないと思わずに発信することが大切だと思います。

山口:僕が気になったのは、「このようなファッションの悪循環は誰が動けば変わると思いますか?」というコメントです。お2人はどうお考えですか?

藤田:この問題はアパレル企業だけ、消費者だけという“どこかだけ”では解決できないと思います。制度が変わることによって意識が変わることも、その逆もあります。消費者の力も決して弱くはありません。消費者として何かがおかしいと思ったら、企業や行政に働きかけることも変化の一歩になります。

仲村:本の後半ではコンビニの問題に言及しています。最近ではSNSなどの消費者の力によってこれまで全く見向きもされなかった問題が注目されるようになりました。メディアの力を後押ししているのも消費者の方々です。私が個人的に実践していることは、いいなと思ったことを発信することです。いいなと思った企業に電話をかけたり、SNSを使って発信するなどポジティブなやり方で変化をもたらせたらいいなと願っています。

山口:僕は“ローカル”がキーワードになると思います。例えば、縫製業の女性の平均給料は年間202万円程度。男女比では92.4%が女性です。低所得の女性が地方で働いて暮らしていく現状に向き合い、アパレル産業だけでなく土地の自治体を含めた他の産業も巻き込んだ動きが必要だと思います。最後に一言ずつお願いします。

仲村:今回は参加者のみなさんの思いに圧倒されました。このようにたくさんの人と問題意識を共有した先に答えはあるのではないかと思います。

藤田:問題は全てつながっています。みなさん一人一人が何かができると思って、行動し始めていただけたらうれしいなと思います。

 ファッションスタディーズはさまざまな角度からサステナブルなファッション産業のあり方を考える場を提供している。次回の「さすてなぶるファッション」第8回は12月19日、「ファッション産業のロスをどう解決するのか?」をテーマに、オフプライスストアの可能性について取り上げる予定だ。

◾️さすてなぶるファッション第8回 「ファッション産業のロスをどう解決するのか? 『オフプライスストア』の可能性」
日程:12月19日
時間:19:00〜21:00
場所:ワールド北青山ビル2階
住所:東京都港区北青山3-5-10