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「ディオール」がパリコレで森を再現した理由 マリア・グラツィア・キウリが考えるサステイナビリティーとは

 「ディオール(DIOR)」の2020年春夏パリ・コレクションは、ロンシャン競馬場(LONGCHAMP RACECOURSE)に設置したテント内に種類が異なる164本の木々を配し、森を再現した中で開催された。園地栽培に取り組むアーティスト集団アトリエ コロコ(COLOCO)と協業したもので、ショーの後で木々は移設されてパリの街造りに生かされることになっている。

 マリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)「ディオール」アーティスティック・ディレクターによれば、今回のコレクションは「ディオール」のアーカイブ、中でもクリスチャン・ディオール(Christian Dior)の妹であるカトリーヌ・ディオール(Catherine Dior)の写真に着想を得たという。兄と同様に花を愛し、園芸家でもあったカトリーヌが手入れをしていたディオール家の庭園をヒントにしつつ、それをいかに現代の気候変動問題と結び付けるかを考えたと語る。「“ガーデン”という概念をサステイナビリティーの実現に向けた具体的な行動に落とし込むにはどうすればいいかを、コロコと共に考えた。そこで、ショーで使用した木々を移設して街に庭や緑を増やす支援プロジェクトとすることを思いついた」。

 木々の種類が異なるのは、気候変動への対応策としてさまざまな植物があることが大切だと啓発するためだ。「木は自然への投資を象徴する重要な存在。未来のために植樹することは、とても前向きな行動だ」とマリア・グラツィアは話す。また、ショーで来場者が座っていたベンチも非営利団体に寄付される。コロコと長期的に提携し、今後もショーのセットをリサイクルしたいと考えているという。

 16年に「ディオール」のアーティスティック・ディレクターに就任して以来、マリア・グラツィアはフェミニズムや文化の盗用など非常に今日的なテーマでコレクションを発表し、社会問題に関心が高いミレニアル世代を引き付けてきた。今回、そうした若年層が注目する話題の一つであるサステイナビリティーをテーマに選んでいるが、同ブランドを擁するLVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)も環境保護に関する取り組みに本腰を入れてきており、ちょうどいいタイミングだと言えるだろう。しかも、コレクションが開催される何日か前には気候変動の危機を訴える「グローバル気候マーチ(Global Climate Strike)」が世界各地で行われたが、これは全くの偶然だという。「誰も信じてくれないと思うけれど、本当に偶然。南米アマゾンの熱帯雨林で発生した大規模な火災の写真を見たときには、あまりにショッキングで、コレクションのテーマを変更しようかと思った。サステイナビリティーをテーマにしているのに、服自体がサステイナブルではないと批判されることが容易に想像できたが、サステイナブルなコレクションはすぐに作れるものではないし、それでは信用できるものなど作れない」と経緯を説明する。

 そもそも、“サステイナブル”とは何を指すのか。そう疑問を抱いたマリア・グラツィアは、より深く理解するためにサステイナビリティーの専門家を招いて話を聴いたが、万能の解決策はないという結論に至ったという。「化学製品を使わないこと、効率重視の生産工程ではないことなどさまざまな面があり、一概には言い切れない複雑さがある。また、皆で協力し合わなければ実現できないことも分かった。サステイナビリティーは『ここまでやったらもう大丈夫』というものではなく、自分たちができることから始めて継続していくしかない」。

 「ディオール」は、LVMHが掲げている二酸化炭素排出量の削減目標などを達成することに加えて、サプライヤーにも類似の数値目標を設定することを求めている。ほかの取り組みとしては、シーズンごとに買い替える必要のないタイムレスなアイテムの品ぞろえを強化しており、ブランドを象徴する“バー”ジャケットやチュールのスカート、Tシャツ、セーターなどで構成されたカプセルコレクション、“30モンターニュ(30 MONTAIGNE)”を発表した。マリア・グラツィアは、「ファッションブランドとしてシーズンごとに服を作ることは大事だが、こうしたタイムレスなアイテムを提供することも同じぐらい重要だ」と話した。

 サステイナビリティーについて語るのであれば、「グローバル気候マーチ」が行われるきっかけとなった16歳の環境活動家、グレタ・トゥーンベリ(Greta Thunberg)の話題は避けて通れないだろう。その言動が過激すぎると眉をひそめる向きもあるが、マリア・グラツィアは、「確かに過激かもしれないが、若い世代は過激であるべきだと思う。どのように協力し合えるか、共に何を成し遂げられるかを考えるために、若者たちと対話するべきだ」とコメントした。

 何か新しいことを始めるときには、批判やリスクが付きものだ。「リスクを冒さず安全地帯に居続けるのか、批判される覚悟で新しい一歩を踏み出すのか。私は批判される覚悟で前に進むことにした。とはいえ、あまり激しく批判されないといいなと思っている」とマリア・グラツィアは心情を吐露する。「美しくて魅力的な、身に着けると気分がよくなる服を作りたいと思っているが、好きなプロジェクトを実現するためにも、まずビジネス面でしっかりしないといけない。試行錯誤の日々ではあるものの、幸い経営陣は私のことを理解してサポートしてくれている。全ては庭造りみたいなものだと思う。美しい庭を造るには、未来を見据えて、やるべきことを一つずつ実行していくしかない」。