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空からドレスが降ってきた! 「イッセイ ミヤケ」新デザイナー近藤悟史が振り返るデビューショー

 「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」ウィメンズの新デザイナーに、近藤悟史が就任した。デビューショーとなった2020年春夏は、パリ市内の公共の芸術センターを会場に、ダンスやスケートボードによるパフォーマンスをミックスしたショーを実施し、三宅一生が追求してきた“一枚の布”というコンセプトをハッピーなムードで伝えた。これまで、「プリーツ プリーズ イッセイ ミヤケ(PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE、以下プリーツ プリーズ)」などに携わってきた近藤に、新チームで表現していきたいことや、20年春夏のショーの手応えを聞いた。

WWD:ショー後の囲み取材で「『イッセイ ミヤケ』イズムとは?」と聞かれ、「人種や性別を超え、あらゆる人に届けるエネルギーのこと」とはっきりと答えていたのが印象的でした。

近藤悟史(以下、近藤):興奮していたので言葉をうまくつなげたか思い出せないですが、この会社に入社して三宅(一生)にいろんなことを教わりました。他の会社がどうかは僕には分かりませんけど、(三宅の)間近でさまざまなことを経験させてもらった。そういった経験をもとに、僕なりに考える「イッセイ ミヤケ」らしさを新しいチームで表現したい。現代の女性に向けて、ブランドが新しいスタートをポジティブに切ったということを伝えるショーができたと思います。

WWD:ベテランジャーナリストからは、「一生さん自身がかつて行っていたショーのようだった」といった声も聞かれました。

近藤:原点回帰のつもりはありません。ただ、僕も過去の資料などはこれまで色々見てきているし、三宅と田中一光さんのプロジェクトの企画も担当してきましたので、どこかそういう部分が出ているのかもしれません。いろいろ学ばせてもらったうえで、純粋に僕の好きな「イッセイ ミヤケ」を表現しました。それは“一枚の布”という考え方を持った服作りであったり、堂々としたカッティングであったり。そして世の中に前向きなメッセージを送ることができる点もそうです。自分自身楽しんで生地と向き合いましたが、デビューシーズンの今シーズンは特に、(ブランドの根幹の考え方である)四角い布と向き合うことを意識しました。

WWD:囲み取材では「この会社では、社会と向き合うことも重要だ」とも話していました。

近藤:世の中で何が起こっているかはやはり理解しないといけない。かといって、世の中に対して口を出したいわけじゃない。単純に東京に住んでいるだけで5年前とは全然状況は違います。海外から日本への観光客が増えて、「イッセイ ミヤケ」でも客層の国籍や年齢は広がっている。そういう人たちに着心地のいいかっこいい服だということを伝えていかないといけない。気候もどんどん変わっているので、素材や肌の見せ方も変わります。だから、社会問題に取り組むというよりも、純粋に世の中の動きと向き合うという意味です。

WWD:ショーではきれいな色使いも印象的でした。

近藤:この数年で僕自身も明るい色を着たいと思うようになりました。きれいな色を着ると内面から明るくなります。太陽のもとできれいな花が咲いた、それがとても多様性に富んだ花だというイメージを今回のショーでは表現したかった。それで、最初はベージュトーンから始まり、青いパートで曇っていた空が晴れ渡って、そこから花開いていくという構成にしました。ダンスを取り入れたのは身体と向き合うコレクションにしたかったから。コートなどにプリントしたのは、2人の人が寄り添って抱き合っている柄です。それも身体と向き合うという意味ですし、同時に、(デビューショーなので)「初めまして」の挨拶として相手とハグするようなイメージも込めました。

WWD:天井から吊るされていたドレスがモデルのもとに降ってくるなど、楽しい演出がたくさん詰まったショーでした。

近藤:1つのコレクションを、物語性を持たせて表現したかったんです。そうすることで、抽象的ではあっても服って楽しいというメッセージやエネルギーが伝わればいいなと考えました。天井から服が降りてくる演出は、朝起きて、すてきな服が空から降ってきたら楽しいだろうなと思って(笑)。単に服をデザインするだけでなく、しっかりムードをデザインしたい。そのうえで服1点1点を見ると、ディナーに行けたり、海に行けたりとさまざまなシーンに対応できるものでありたいと思っています。演出担当のダニエル(ダニエル・エズラロウ=Daniel Ezralow)とは、6月に行った「オム プリッセ イッセイ ミヤケ(HOMME PLISSE ISSEY MIYAKE、以下オム プリッセ)」のショーでも組んでいます。“えがく”“かさなる”“ゆれる”など、言葉のムードボードを作って、考えを共有しました。

WWD:素材開発もブランドとは切っても切り離せない要素です。

近藤:確かにそうですが、今回は素材を細かく語るというよりも、絞りなどの伝統的な素材から最新素材までをミックスすることの方が大事だと考えました。人種や年齢を超え、いろんな人にいろんな服を着せようとすると、その中に天然素材が好きな人も機能素材が好きな人もいる。でも、どんな素材であれ「イッセイ ミヤケ」のカッティングで見せるとかっこいいというのを表現したかった。今までは「プリーツ プリーズ」を担当していたので、プリーツという1つの素材と向き合っていましたが、その制約がなくなったのでいろんな素材に挑戦していきたい。ただ、今回のショーの後半はプリーツ中心でしたが、それはやはり僕の得意分野だから、というのはあるかもしれません。空から降ってきたドレスは、プリーツをまず横にかけ、その後扇状にかけることで、動きに合わせてはずむようにしました。プリーツによって、四角い布を放射状にしたドレスなどもあります。

WWD:一生さんからは何を期待されていると思いますか。

近藤:それは三宅に聞いてもらわないと分からないですけど、(三宅と)コミュニケーションはいつも取っていたので、「君らしく、君のユーモアをブランドにのせなさい」とは言われています。会社の中で任された仕事に一つ一つ真摯に取り組んできたら、少しずつステップアップして、いつの間にかこうなった(「イッセイ ミヤケ」に抜擢された)という感じです。

WWD:新チームとしてブランドで目指すことは。

近藤:見ている人をワクワクさせたい、驚かせたいというのはあります。ただ、同じことをやるとワクワクしなくなるから、その時々で振り切ったコレクションをしていきたいですね。テーマやムードによっては、一切色を使わないコレクションだってやるかもしれません。驚かす方法は色だけではないですから。毎シーズン自分なりのテーマをもって作っていきたいです。これまで担当していた「プリーツ プリーズ」や「オム プリッセ」は、コンテンポラリーダンスなどの公演などに行くと着ている方を必ず見かけますし、結婚式でも見ます。元々はスポーティーな服なのに、着用シーンが広がっていて若いお客さんも増えている。「イッセイ ミヤケ」ももっと幅広い人に着てもらえるようにしていければと思っています。