ファッション

攻撃的なライブを行うGEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーに見る、混乱をも愛する“優しさ”

 聴く人に挑むように、攻撃的とも言えるライブを行うバンドGEZAN。そのボーカルのマヒトゥ・ザ・ピーポー(以下、マヒト)は今年2枚のソロアルバムをリリースし、自身初の小説も発表するなど注目を集めている。また、GEZANが「フジロックフェスティバル’19」に出演した際にはマヒトの衣装を高橋盾「アンダーカバー(UNDERCOVER)」デザイナーが手掛けるなど、他業界からも注目される存在だ。そして9〜10月には、GEZAN主催の投げ銭式(無料)の音楽フェス「全感覚祭」を大阪と東京で開催するが、2014年から毎年開催している中で、今年は無謀とも言えるフードフリー(投げ銭式)に挑戦する。彼はなぜ生き急ぐように行動し、そして多くの人を引きつけるのか。既存の社会構造に中指を立てるようなマヒトの鋭い視線の裏には、この世界を生き抜くための“優しさ”がある。

WWD:今年はソロアルバムを2枚リリースしているが、制作においてGEZANとはどのような違いがあるのか?

マヒト:ソロはGEZANで走り終わった後に、呼吸を整える時間というか、一人でいるときのため息に近い感覚です。2枚出したのは、単純に曲がいっぱいできたからというのもありますね。

WWD:マヒトさんは平成元年生まれ。2作品を平成が終わるまでにリリースすることは意識したのか?

マヒト:そこまで意識してはいなかったんですが、きっかけにはなりました。きっかけがないと曲があっても表に出せないけど、自分を奮い立たせるためのフックにもなりましたし。でもあまりにも“平成の終わり”が騒がれてたから、途中から言いたくなくなりましたね。“平成最後”って1億回くらい聞きましたもん。

WWD:5月には初の小説「銀河で一番静かな革命」を出版した。小説を書いたきっかけは何だったのか?

マヒト:よくライブに来てくれる作家の吉本ばななさんが自分の言葉を褒めてくれたのもあって、書いてみようかなって。書きためていたこともなかったし、結局完成までに1年半くらいかかりました。でも毎日小説の世界と向き合う時間ができたことは新鮮でしたし、嫌じゃなかったです。普段の自分は朝起きる時間も場所も遊ぶ友だちもバラバラで軸がなくて、自分の生活の中で毎日同じように起きることがほとんどないので。

WWD:書く内容はすぐ決まった?

マヒト:そんなこともないかな。どういうゴールに向かっていくのかも想定せずに、最初の1章を書き始めました。こう書いていこうという主観的な感じよりは、全体を俯瞰しているというか。意図してストーリーを進めていくというよりは、登場人物が勝手に動いているのを書くのに近い感じです。

WWD:作品には特別な主人公がいるわけでもなく、登場人物は普通の人ばかりだったのが印象的だ。

マヒト:自分も含めてですけど、ほとんどの時間ってただの余白みたいなものじゃないですか。特別な時間の方が少ないし、全員自分の平凡さからは逃げられない。俺は基本的に自分から逃げたいんですよ。自分探しの旅をする人がいるけど、マジで分からない。だって24時間365日何10年もずっと自分とは一緒にいなきゃいけないわけだし。だから映画や音楽には、他人の視点に触れられる喜びがあると思うんですよ。人の目を借りて町を歩くと、救われる気持ちにもなる。今回の小説でも、自分と違う人生を集中して見たかったというのもありますね。

WWD:文章を書くことは、自分と向き合うことにもつながると思うが?

マヒト:向き合うというよりは、文章を書くことで自分を全部追い出したい気持ちの方が強いですね。自分の感覚やセンスみたいなものを使い切って、空っぽになりたい。(水曜日のカンパネラの)コムアイも、オリジナルになるよりも個性的なものを追い出して自分じゃない何者でもないものになりたいって、同じようなことを言ってたんですよ。だいたい“マヒトゥ・ザ・ピーポー”って自分じゃない感覚もあるし、褒められてもいまだに自分のことじゃないみたい。ある意味、戦隊ものの着ぐるみに近いんだと思う。

「全感覚祭」ではフードフリーに挑む

昨年大阪で開催された「全感覚祭」のライブ

WWD:今年は東京と大阪の2都市で「全感覚祭」を開催する。その「全感覚祭」についてマヒトさんは“自分たちの街”と表現しているが、そこにはどういう思いが込められている?

マヒト:自分は時代が求めている法律や常識、倫理観とかをすくい取れない感覚があるんですけど、それは“想像力”を駆使すれば補えるはず。例えばボールペンが自分の方に転がってきたら拾って手渡せるけど、それは“想像力”や“思いやり”でできることでどこのルールブックにも書いてない。どの空間でもある程度のケアができるわけじゃないですか。圧力的なルールで縛るんじゃなくて、もともとそういうものが用意されている“日本”とかとは違う、新しい場所という意味での“街”ですね。違う言い方をすれば自治区かな。

WWD:入場料だけでなくフードも無料の中で、参加者に求める最低限のことはあるのか?

マヒト:これもさっきの“想像力”と同じで、一つのハードルというか空気ができていると思う。だから遊びに来る理由がどうであれ、その場所で何も感じなかったらそれも正解。お客さんがポイ捨てしていいやと思ったら、それはポイ捨てしていい空気になったからだろうし、フードを食べてお金入れずに帰ろうとするなら、それもそういう空気だったという証明だと思う。その中で自分たちができることは、一つ一つのものに何が起きているかをクリアに見える状態にすること。

WWD:それは具体的にどういうことなのか?

マヒト:この前カルロス(GEZANのベース担当カルロス・尾崎・サンタナ)が周防大島に行って、農家をしている銀杏BOYZの元メンバーの中村明珍さんに「全感覚祭」のフードのために梅をもらってきたんだけど、その梅は勝手に湧いて出てきたものじゃなくて、作った人の生きた時間と集中力がかかっている。音楽も一緒で、完成するまでにアーティストの孤独の時間がある。お金が間に入ることで、半自動的に成立するとされていることがいっぱいあるんですよ。あらゆるものが当たり前のようにこの場所に来るんじゃないってことや、普段実感のないものを感じられる日になればいいと思います。それは食べ物だけじゃなくて、生き物に対してのリスペクトにもなる。かと言って自分たちだけでは実現できないので、ボランティアも募集しています。

WWD:普段意識されないものや、ないとされているものを扱うことはGEZANにも共通していると感じる。アルバム「Silence Will Speak」の「優陽」にも、「この気持ちにはまだ名前がついてない」という歌詞がある。

マヒト:本当は曖昧なものはたくさんあるんですけど、扱いにくいとか利益に転換しにくいとかでないものと蓋をされてしまう。感情でいえば喜怒哀楽のざっくり4つだけみたいな。だけどそれ以外の曖昧な感情を踏み倒されていては人間の稼働が止まっちゃうから、俺は喜怒哀楽以外の感情も同じように認めることが大事な気がしているんです。

これは少し次元の違う話になるけど、本当は人の個性にはめちゃくちゃ段階があって、一人一人の中にいろんな人格があるのに、それを「あいつはああいうやつだよな」ってカテゴリー分けすることはすごくアホらしい。それでは生き物とか存在することにリスペクトがあるとは言えない。自分の中にある“意味の分からなさ”とか曖昧さをちゃんと認めることが大事じゃないかな。そうすると混乱しますけど、そもそも生きていること自体が相当特殊なことじゃないですか。とにかく混乱を受け入れてそれも愛せることが、優しさに近づくことだという気がするな。

WWD:その中でGEZANはどのような立ち位置になるのか?

マヒト:自分たちだって達観しているわけじゃないし、明確なメッセージを発信しているというよりも、こういうサンプルもあるぞという気持ちが強い。あり得ないくらいの情報が飛び交う中で全てにピントを合わせるなんて絶対無理で、自分が気づいている範囲でしか動くことはできないじゃないですか。それにネットニュースとかは普段は響かないことが多いけど、友だちがその立場になった瞬間に自分の中に感情が湧き上がってくる。だからこそいろんな場所でいろんな友だちをつくることが重要だと思っていて、俺たちはその中の一つでしかない。だから信用すべきじゃないというか、「平気で間違えるからよろしく」って。

「NO GOD」のMV

WWD:「NO GOD」の歌詞「Make your new god by yourself」もそれに近いように感じる。

マヒト:圧倒的なカリスマや神様が象徴する時代は終わったと思っていて。そもそもみんな生きてきた年数とか見てきた景色も違うのに、“日本”とか“神様”と一括りにするのは無理がある。だからこそ人でも概念でも、自分自身で“神様”を見つける方がよっぽど重要な気がするんですよね。俺はコーヒーカップを集めるのが好きで、部屋は散らかってるんですけど、コーヒーカップを並べているゾーンだけはめっちゃきれいなんですよ。集めても何の得もないけど、コーヒーを飲むときくらいは好きなカップで飲みたいし、俺にとってきれいに並んでいる様子の方がよっぽど“神様”に近いんです。そういうものに出合うことでサバイブできるんじゃないかと思うし、今は「主人公は自分なんだ」と全員が思って、一人一人がオリジナルに生きていくのがいいんじゃないかな。

WWD:ちなみに音楽でもっと売れたいという気持ちはある?

マヒト:いやー、俺らの場合は全くイメージができないですね。Mステで何を演奏すればいいんですか(笑)。よく思うんですけど、ミュージシャンに今の音楽業界が最高かと聞いたら、「うーん」って顔するわけじゃないですか。でも、同時にその構造の中で評価されたいという願望も持っている。そういう環境に歩み寄らないといけない矛盾を、俺は気持ち悪いし、本当に嫌なら好きな仲間と好きな空気をつくればいいと思っているんですよ。もちろん自分よりも大切な人がいるとか、家族がいるからメジャーやめられないということもあるかもしれないけど、だからって言い訳にはならない。

WWD:GEZANが自主レーベル「十三月」をやっているのも、全部自分たちでやりたいという意思からか?

マヒト:そんなこともないけど、自分たちがやりたいことは自分たちが一番分かっているっていうシンプルな理由。もちろん大きい事務所とかレーベルの必要性も感じますけどね。「全感覚祭」みたいな、悩んだことを形にできる場があるのは幸せですよね。

WWD:一方でフォトグラファーやアーティストなど他業種とのつながりも多い。

マヒト:めちゃくちゃ遊んでますね、俺(笑)。毎日どこかしらへ遊びに行っているっていう……。どちらかが歩み寄るというよりかは、自然とつながっていく感じはあるかもしれないです。基本的に世の中の9割5分は闇で、嫌だなと思っていると一筋の光みたいな人がスーッと現れる。やっぱり何かを作っている人は、面白いものに飢えてるんじゃないかな。

ファッションへのこだわりは赤?

WWD:ファッションはとにかく赤のイメージが強いが、こだわりはある?

マヒト:別にこだわりはないんですけど、とにかく赤が好きなんですかね。気付いたときにはって感じかな。小さい頃から夕焼けとか好きで、小学校の職場見学とかも消防署行ったし、単純に引かれるんでしょうね。赤じゃない服着て街歩いていると、元気ないと自分で気付くときがあって。でもたぶんそれは赤い服を着ていないから元気がないんじゃなくて、元気がないから赤い服を着られないんだと思う。やっぱり赤って、人を駆り立てる強い色なんじゃないですか。

WWD:一方でタワーレコードの“NO MUSIC, NO LIFE.”のキャンペーンポスターで、高橋盾「アンダーカバー」デザイナーが即興で作ったという衣装は白だった。

マヒト:単純に白黒写真だから赤が伝わらないってのもあるけど(笑)、白も結構好きですよ。白の中に一点だけ赤い点あるとすごく際立つという意味でも好きですね。

WWD:インスタグラムの画像も赤いものが多いが、SNSはどのように使っているのか?

マヒト:何も考えてないな……。でも女の子のブレスレットとかイヤリングとかを入れる箱みたいに、赤いものを見たら収集しているという感じかもしれない。たまに見返して、「赤いな、キラキラしてるな……」って思うみたいな。

ただSNSはいい使い方をしないと、自分が壊れると思いますね。言葉は使い方次第でどこまでも人を追い詰めるし、無防備な状態でSNSを開いたら何かしらの争いが目に入って来る。それが自分に向けられていなくても、触れ続けるのは精神的にギリギリなことだし、相当異常なことじゃないですか。それに、そこにはもっと“いいね”されたいっていう、承認欲求を枯らさない構造がある。そういう欲求があることは理解できるけど、それが生活に侵食してきたらいつ休まるのと思うし、それって本当は生きていることと関係ないと思う。自分らしさとか言ってるなら、絶対SNSやめた方がいいと思いますよ。

WWD:最後に、12年に大阪から東京に活動拠点を移して7年が経過したが、生活スピードは速いと感じる?

マヒト:むしろちょうどいい。大阪は遅すぎて逆に合わなかったもん。大阪はいい意味でも悪い意味でもコミュニティーができやすいし、地元愛みたいなものもすごいあるから、その分だけなんか窮屈な面もあった。大阪に戻りたいとかもないかな。でも温泉好きだから、いつかは別府に引っ越したいな(笑)。

■「全感覚祭 19 -NEW AGE STEP-」
日程:9月21日
場所:堺ROUTE26周辺
住所:大阪府堺市堺区戎島町5-3

日程:10月12日
場所:印旛日本医大 HEAVY DUTY
住所:千葉県印西市鎌苅672-6

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