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アート・建築・ファッションが交差するプラダの最新施設、ミラノの”タワー“を徹底解析

 「不規則な幾何学形状」――4月20日に一般公開されたイタリア・ミラノにあるプラダ財団(Fondazione Prada)の新施設“タワー(Torre)”の特徴を表現した言葉だが、公開されたタワーの写真は一見するとシンプルで直線的。だがよく見ると、窓は上階に向かうほど大きくなっている。しかし、写真と言葉だけでは“不規則な幾何学形状“だということがまったく想像ができず、好奇心が駆り立てられた。ミラノに行く機会があったので行ってみることにした。場所はミラノ中心部から車で10~15分程度だ。

フロアは長方形とくさび形を交互に配置

 9階建ての施設を前に、パトロールすることにした。1階はトイレのみのフロアで2階から9階の各階に展示室がある(6階はレストラン、7階はトイレ)。入り口は、フロアによって異なり、展示室自体の形も異なる。さらに、フロアごとに展示室の大きさは違うように感じられた。展示物はビンテージカーのような大きなものから小さな家具までと、そのスケールがフロアによって異なるため、その違和感が助長される。天井の高さも異なる。実際階段のステップ数が異なるので、天井高の違いは明らかだった。私は構造物や音楽などの規則性に落ち着きを覚える性分のため、それが崩されると方向性というかバランス感覚を失い、その分、新しいフロアに行くと不思議と新鮮な気持ちになった。

 パトロールを終えて、別棟にあるミュージアムショップに行くとタワーの模型が置いてあり、そのバランス感覚の“喪失”に合点がいった。構造は、フロアは長方形とくさび形が交互に配置されていて、窓の配置も異なる。窓の共通点は北側のパノラマビューで、東と西の窓は、フロアごとに交互に配置されている。天井高は上階に行くにつれ高くなるという設計だ。

 この構造について、設計を担当したレム・コールハース(Rem Koolkaas)は、「一連の規則的な変化を取り入れた。こうした変化が相まって、シンプルな建物に劇的な多様性をもたらし、空間と各イベントやアート作品との相互作用によって無限の可能性を生み出す」とコメントを発表している。だからフロアごとに新鮮な気持ちでアートに向き合うことができたのだろう。

 この建物自体がアトラクション的要素を持つが、フロアごとに置かれている展示物も全く異なるため、見る人によってさまざまな発見がある。デミアン・ハースト(Damien Hirst)やジェフ・クーンズ(Jeff Koons)のような広く知られるアーティストの展示だけではなく、ハッと気づかせてくれる展示も多い。アートに造詣が深く、社会的、政治的な問題意識も高いミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)らしいアプローチもあり、それが、時にショッキングで、度肝を抜かれる。

これまで経験したことのないような衝撃を受けた作品

 すでにプラダ財団での公開は終わったが(17年6月7日~18年1月15日)、プラダ財団が出資した作品、メキシコの映画監督、アレハンドロ・G・イニャリトゥ(Alejandro G. Inarritu)によるヴァーチャル・インスタレーション「CARNE Y ARENA」は、私自身体験したことがないような衝撃を受けた。

 見たというよりも体験したと表現すべきこのVRインスタレーションは、6分半の作品を、砂が敷かれただだっ広い空間で一人で体験するものだ。VR用のゴーグルを装着すると、砂漠にワープする。その中に、メキシコから中央アメリカへ国境突破を試みる難民グループが現れる。そしてハプニングが起こる――ハプニングをきっかけに、難民を観察するというよりは、彼らとの境界があいまいになり、自分自身もその一員となり、彼らがたどったパーソナルな旅を追体験することになる。4度のアカデミー賞受賞歴を持つイニャリトゥは、4年をかけて構想を温め、実際に難民に会い、インタビューを重ねてこの作品を制作したという。実話に基づいているため、その追体験は心に重くのしかかる。

 このVRインスタレーションは世界を巡回している。これから体験する人もいるかもしれないから詳細は割愛するが、VR技術がとにかく高く、リアルじゃないとわかっていても、感情が揺さぶられる恐怖体験だった。イニャリトゥは「VR技術を駆使して人間の実態を探ることが狙い。物事を観察するだけのフレームという概念を打ち破り、訪れた人が直接、移民の足で歩き、移民の肌で感じ、移民の立場になって考えることのできる空間にしたかった」と述べている。

 かつて、ミウッチャ・プラダは難民を想起させるアウトフィットのコレクションを発表したことがあるが、イタリアもまた、難民が多い国であり大きな問題になっている。

 プラダ財団の施設は建築事務所OMAのレム・コールハースとクリス・ヴァン・ドゥイン(Chris Van Dujin)、フェデリコ・ポンピニョーリ(Federico Pompignoli)の設計で、2015年に初公開され、この“タワー”の完成で全施設が完成した。