ファッション
連載 自遊人の嗜み

“伝統と革新”がテーマの舞踊家のファッション対談 隠れた部分へのこだわりが和装の“粋”〜坂東玉三郎編〜

 クラシックバレエから歌舞伎の世界を経て、舞踊家へ。梅川壱ノ介は“舞う”ことにこだわり、情熱の赴くままに異色ともいえる道を歩んできた。舞台では、古典演目にクラシック音楽から現代アート、Jポップまでを組み合わせ、斬新な表現を繰り広げる。自身が掲げる人生のテーマは“伝統と革新”だ。そんな梅川が彼自身と同様に“伝統と革新”を掲げるクラシコイタリアを巡る対談企画「自遊人の嗜み」。第1回は演者としての師匠であり、舞踊家に転身した今さえ“伝統と革新”の体現を応援する、歌舞伎俳優の坂東玉三郎が登場。歌舞伎界において近代的な美的感性を持つ女形の頂点、玉三郎が語る和装の“粋”とは?

梅川壱ノ介(以下、梅川):今回から「WWDジャパン」の対談企画といたしまして、私の連載が始まります。記念すべき第1回のゲストは坂東玉三郎先生です。先生との出会いは、歌舞伎俳優養成所に先生が講師としていらしたときでした。

坂東玉三郎(以下、坂東):国立劇場の養成所で行っていたものですね。梅川さんは歌舞伎役者として5年間修行した後に独立、そして舞踊家に転身し1周年を迎えられた。世界各国に招かれ、思いもよらない国で日本舞踊を披露し現地の人々に受け入れられている姿を見てうれしく思いました。

梅川:ありがとうございます。今回はファッションメディアでの連載ということで、和装のおしゃれ、“粋”についてお話を伺いたいと思います。ちなみに私が今日着ている袴や着付け、羽織は先生が作ってくださいました。みなさまには初めて披露します。

坂東:ここまで背が高いと、羽二重の幅がないものですよね(笑)。女形の私は裄の長い羽二重を持っていたので、記念公演のためにと贈ったものです。私の世代から背が高い役者が増え、それまでの和装は窮屈に思う人も増えたのですが、この袴は京丹後を訪れたとき、特別に織っていただいた生地を使用しています。普通の女性用でしたら幅は1尺ですが、今では最高1尺2寸の反物が織れますので、男性でも着られるんですね。

梅川:この羽二重を最初に拝見したのは先生のご自宅で、まだ、染めていない真っ白な状態でした。和装における染色の技術は高く、黒も一種類ではないと聞きます。

坂東:黒く染める前に赤く染めたりします。そうすると濃く深い黒が表現できるんですよ。

梅川:染めの他にも羽織の裏地など、見えない部分のこだわりは和装におけるおしゃれの楽しみ方ですよね。

坂東:奢侈禁止令により江戸時代のおしゃれは、根付や小物などの見えないところでしか楽しむことができませんでした。こうして、隠れた部分のぜいたくが“粋”と言われるようになったんです。羽織の裏に絵を描いたりして楽しんだようですよ。

梅川:先生からいただいた羽織の裏地にも龍の絵が描かれています。隠れたおしゃれはスーツの裏地や靴下にこだわるなど、現代にも受け継がれていますね。

坂東:その通りですね。

梅川:私のテーマは“伝統と革新”です。日本舞踊という伝統芸能に携わりながら、少しづつ革新的な要素を加えているのですが、先生も歌舞伎の世界にとどまらない活躍をされてきました。先生にとって“革新”とは何でしょうか?

坂東:意識して革新的なことをしようとは思っていません。むしろ、古典を演じたときに感じた疑問を解決していくことが、多様な物の見方につながったんだと思います。服装で例えるならば今、日本の和装は紋付きが正装とされていますが、そもそもいつからなのか。明治時代はイギリスの文化を色濃く反映したためにモーニングが正装ともいわれました。つまり時代によって価値観は大きく変化してきた。能の正装は裃で昔は長袴でしたが、今は裃の袴が切れています。昔は、御殿の中で殿様に対して刃物を抜き動き回ることを防ぐため、裃が長かったんです。でも結局、歩きづらいという理由で切ってしまった。固定観念を壊した点で革新的ですよね。

梅川:おっしゃる通りです。

坂東:私の場合は自分が革新的なのではなく、いろいろなことを掘り下げて考えた結果が、みなさまに目新しく映ったのではないでしょうか。芸術の価値は“新しさ”と捉えられがちですが、基本となる古典を学ばなければ、何が新しいのかも理解できませんから。

梅川:“新しさ”でいうと先生は、モーリス・ベジャール(Maurice Bejart)さんやヨーヨー・マ(Yo Yo Ma)さんの演奏で踊ってらっしゃったこともありますね。

坂東:モーリス・ベジャールさんは古典バレエを経て自身でソリストになられた。パリ・オペラ座と同じようでは、モーリス・ベジャールバレエ団は評価されなかったでしょう。彼はバレエの基本をしっかりと学んだあと、世界を旅行し、多様なエッセンスや文化を取り入れて新しいバレエを作った。その核は古典なのだと思います。継承と発展の繰り返しですね。

梅川:過去と現在、未来がつながります。ヨーヨー・マさんとはどんなお話をされましたか?

坂東:ヨーヨー・マさんはフランス生まれの中国人ですが、中国語は話せない。フランスで教育を受けたけれど活動拠点はアメリカ。そのためか自分がどこにいて、何者なのかを常に考えています。初めて会ったときに「あなたはいいですね。自分の国の芸能を自分の国で演じられるのだから」と言われたんですが、最初は理解できませんでした。しかし、母国語を話さず、異国で活躍する彼のスタンスは結局、自分の根底にある“中国”を求めているような気がしました。彼のチェロを聞くとヨーロッパと中国を結ぶシルクロードが思い浮かぶのは、その影響なのかと思うことがあります。

梅川:1年前は先生と同じ舞台に立ったり、ましてやお話ができるとは思いませんでした。いつもありがたく勉強させていただいています。

坂東:褒めることは舞台人にとって一番の毒ですが、私は貶すこともしません。模索の道に一生を終えるからこそ、人生は素晴らしいのではないでしょうか。

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