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「着る人、作る人、売る人、すべてを幸せにしたい」 「ザ・イノウエ・ブラザーズ」の挑戦 

 「どこかで、誰かが、苦しまなければならないビジネスなんてもういらない」。エシカル(倫理的な)ファッションに取り組んでいる「ザ・イノウエ・ブラザーズ(THE INOUE BROTHERS...)」をご存知だろうか。デンマークで生まれ育った日系二世の井上聡(1978年生まれ)とその弟、清史(80年生まれ)が手掛けるユニセックスのニットウエアブランドだ。南米ボリビアやペルーの先住民が飼育する高品質のアルパカやビキューナを用いたニットアイテムが、伊勢丹メンズ館やインターナショナルギャラリー ビームス(International Gallery Beams)、エディション(Edition)などの売り場で、ラグジュアリー・ブランドと並んで販売されている。アルパカ製品の中心価格帯は4万~6万円程度。同等の品質のものは通常なら10万円の値が付くが、彼らは、中央アンデスの牧畜民から直接原毛を買い、現地で製品を生産している。つまり、牧畜民から売り場まで余分なコストを上乗せしないダイレクトトレードを行う仕組みを構築し、適正価格のニットウエアを提供している。

 2010-11年秋冬に、日本で初めて買い付けたインターナショナルギャラリー ビームスの山崎勇次ディレクターは「彼らの本物を追求する姿勢、ファッションの可能性を追求する姿勢がモノ作りに反映されている。彼らはアートをはじめ社会情勢などいろいろなジャンルから情報収集をしていながら、情報に流されず、納得するまで探求する心がある。また、南米やアフリカなどさまざまな国とコミットしていく彼らの活動は、日系人らしい人種や国籍の壁を越えたもの。日本で教育を受けていないのにもかかわらず、日本のことを学び、日本人であることを強みに転換していく強さもある」と語る。店頭では顧客やインバウンドを中心に支持を集め、ファンも持つ。2月にビームスで行われた彼らの著書「僕たちはファッションの力で世界を変える」(PHP出版)の出版記念イベントでは彼らのニットを着用して集まるファンの姿が多く見られた。

 エディションで2012-13年秋冬から買い付けている竹田英史トゥモローランド・商品部バイイングマネージャーは「別のブランドのバイイング目的で訪れたショールームでたまたま見つけ、プロダクトの良さに惹かれた。さらに、モノ作りの背景を聞いて、とにかく彼らのピュアな姿勢に共感し、応援したいという気持ちも芽生えた。毎回、ベーシックアイテムもリブが長め、リブがゆるめなど細かなディテールの変化があり、時代性を捉えながら進化している点もいい。買い付け額は年々増えていて、プロパー消化率はほぼ100%と店頭でも好調だ」と話す。

 現在の取り扱い店舗は日本が45店舗、海外が10店舗程度。兄の聡はコペンハーゲンでグラフィックデザイナーとして、弟の清史はロンドンでヘアスタイリストとしても活躍するが、その稼ぎの大半をブランド運営のためにつぎ込んできた。そして、会社設立の2004年から実に13年目の2017年、ようやくこのビジネスで自分たちの給料を稼ぐことができたという。そもそもなぜ、エシカル・ファッションに着目したのか。また彼らが考える新しいラグジュアリーとは何か?3月5日に行われた「僕たちはファッションの力で世界を変える」の出版記念講演では、告知が直前だったのにもかかわらずTSUTAYA六本店は立ち見が出るほどの盛況ぶりだった。駆け付けた客の多くは若者だったことも印象深い。来日した兄の聡に話を聞いた。