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時を経ても色あせないジル・サンダーの美学

 ドイツ・フランクフルトには、マイン川沿いに数多くのミュージアムが集まるエリアがある。その中にある応用工芸博物館(Museum Angewandte Kunst)では現在、ジル・サンダー(Jil Sander)初の単独展覧会「JIL SANDER. PRESENT TENSE」が開催されている(会期は2018年5月6日まで)。真っ白な壁とガラスを組み合わせた同館のデザインは、アメリカ人建築家のリチャード・マイヤー(Richard Meier)が1980年代に手掛けたもの。そのモダンなたたずまいは、「ジル・サンダー(JIL SANDER)」のショールームや旗艦店のデザインにも通じるところがあり、展覧会にぴったりのロケーションだ。

 40年以上デザイナーとして活躍しているサンダーにとって「人生の集大成のようなもの」であるという今回の展覧会は、過去のコレクションを時系列やテーマに分けて紹介するような一般的な“回顧展”とは趣を異にし、さまざまな面から彼女の美学や感性に迫るものだ。そして、かつて語った「もしあなたが『ジル・サンダー』の服を着るなら、それはファッショナブルなのではない。モダンなの」という言葉に象徴されるように、常に“今”を意識してきたデザイナーの思いが反映されている。

 3000平方メートルを超える会場に展示されているのは、3つの巨大なスクリーンで流す過去のショー映像に始まり、バックステージ写真や、360度どこから見ても美しいラインを描く服を着たマネキン、著名写真家が撮影した広告ビジュアル、デザイン画やインスピレーションボード、バッグやシューズ、店舗デザイン、アートとのつながり、ビューティ製品のボトルやパッケージデザイン、そして、緑あふれる庭園のデザインまで多岐にわたる。会場のデザインはいたってシンプルだが、新鮮だったのは視覚だけではなく聴覚にも訴える構成になっていたこと。各セクションの壁に埋め込まれたスピーカーからは、「ジル・サンダー」のショーにも携わるサウンドアーティストのフレデリック・サンチェス(Frederic Sanchez)によるBGMが流れ、それぞれのセクションに異なるムードが漂う。
 
 また、多面的な展示からは“ミニマリスト”として知られるサンダーの美学の背景にドイツ人らしい考え方の影響があることがうかがえる。1つは、デザインにおける機能主義や合理主義を提唱したバウハウス・ムーブメントに見られた「形態は機能に従う(Forms follow function)」という考え方。そして、もう1つは“時代精神”を意味する「ツァイトガイスト(Zeitgeist)」だ。彼女のデザインの核である立体裁断による造形美やあくなき素材の探求、装飾を削ぎ落とすアプローチは、いずれもこれらの考え方につながっているように思う。同展では、そんな彼女の美学が十二分に表現されていると同時に、過去の作品で構成されているにもかかわらず、時を経ても色あせない魅力があることを感じさせるものだ。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。