PROFILE: モナ・イェンセン / 「 トム ウッド」創業者兼クリエイティブディレクター

ノルウェー発ジュエリーブランド「トム ウッド(TOM WOOD)」は、日本における直営店出店を加速している。同ブランドが日本に上陸したのは2015年。セレクトショップの卸や自社EC展開をしていたが、23年に青山旗艦店をオープンした。今年3月には、渋谷店、6月には心斎橋パルコ内に関西初の直営店を出店。大阪店出店を機に来日したモナ・イェンセン創業者兼クリエイティブ・ディレクターに話を聞いた。
3月にオープンした渋谷店についてイェンセンは、「非常に好調に推移している。われわれの投資への判断は正しかった」と話す。青山や渋谷は、多くの若年層や訪日客がショッピングする場所。距離的にも、あまり離れていない。多くのジュエラーが路面を構えるのは表参道と銀座だ。敢えて渋谷を選んだ理由について聞くと、「青山と渋谷は異なるエネルギーを持つ街。青山店は隠れ家的なロケーション。渋谷店は、さまざまな人々が行き交う活気に満ちた場所で、新しい顧客層とのタッチポイントになる」と話す。裏通りにある青山店は、「トム ウッド」を知っている顧客が多い旗艦店であるのに対し、渋谷店は、より幅広い層や観光客との接点になる。
青山店はフラッグシップ、渋谷店はラボの役割
青山と渋谷は距離的にも近いが、店舗の役割を明確に分けている。青山店は、ブランドの世界観を体験できる旗艦店としてワークショップやイベントも行う。一方で、渋谷店にはラボを設置し、商品の修理やメンテナンスを提供する。イェンセンは、「青山店は、日本全国からファンが訪れる。渋谷店は、ジュエリーを長く使ってもらうためのアフターサービスを提供する」と話す。大きなポイントは、ラボをショップから見えるようにした点だ。また、ラボ専属の職人も採用。来店客は、ガラス越しにどのように商品に磨きがかけられ、修理されるかを見ることができる。通常のアフターサービスは裏方の仕事だ。しかし、それを来店客に敢えて見せることで「トム ウッド」のモノづくりおよび、サステナブルな姿勢をアピールする。「同じ顧客に対しても、店舗によって異なる体験を届けたい」とイェンセン。ブランド体験を商品の販売だけで終わらせず、アフターサービスを通して顧客との長期的な関係性の構築へと発展させる狙いがある。
大阪店はファッションビル内の“小さな家”
関西初の旗艦店は、以前から続けていたパルコとの対話の中で実現した。イェンセンは、「大阪は独自の文化と消費動向が見られる興味深いマーケット。出店の可能性を探っていたが、パルコと組めることができて幸運だ」と話す。店舗デザインは、渋谷店を手掛けた建築設計事務所トラフ建築設計事務所が担当。渋谷店と共通の素材も使用しながら、大阪独自の空間を作った。重視したのは、トラフィックの多いファッションビル内でありながらも、プライベート感を持たせることだ。店舗は館内の動線が交差する場所でありながら、落ち着いた空間に仕上がっている。イェンセンは、「店内に一歩足を踏み入れると、外とは異なる静かな時間が流れるような空間にしたかった。イメージしたのは、パルコの中にある"小さな家”」と話す。
市場への理解こそがビジネス拡大につながる
日本市場は「トム ウッド」にとって極めて重要な市場だ。長年、日本市場に投資してきた結果が出店加速と業績好調につながっている。他、好調な市場は、米国、英国、中国、韓国だという。韓国では、BTS などセレブリティーの着用やメディアの露出により人気が拡大。一方で中国は、現地バイヤー主導で認知が広がりつつあり、商品の魅力そのもので市場が形成されつつあるという。日本以外の好調国での戦略についてイェンセンは、「いずれの市場も、われわれが現地に赴き、市場を十分理解する必要がある」と話す。現地で代理店などを探すよりも、自ら市場について学びながら、本格的な進出を図っていくようだ。
目標は“透明性のあるラグジュアリー”
性別、年齢を問わず着用できるシンプルなジュエリーを提供する「トム ウッド」。コンテンポラリー・ラグジュアリーやアフォーダブル・ラグジュアリーの代表格として挙げられることが多い。イェンセンは、「私たちが目指すのは、トランスペアレント・ラグジュアリー(透明性のあるラグジュアリー)。使用する素材から製造工程、完成品まで責任を持ち、適正価格で届けることに意味がある」と話す。同ブランドでは18年から、原料調達から生産工程を開示し、カーボン排出量の可視化などを通してサプライチェーン全体のトレーサビリティーを推進。今後の成長についてイェンセンは、「100年続くためには、トレンドに左右されないブランドであり続けることが大切」と語る。そのためには、時代を超越する素材、デザイン、品質が必要だ。「トム ウッド」の出店加速は、単なる販路拡大ではなく、店舗ごとに異なるブランド体験を届け、ブランドの背後にある価値を伝える接点作りのようだ。