ファッション

「ローレン マヌーギアン」の静かな躍進 ペルー、NY、日本の美意識が交差するクラフト

左から、「ローレン マヌーギアン」のローレン・マヌーギアンとクリス・ファイヤオブド。マヌーギアンはミズーリ州セントルイス出身、ファイヤオブドはペンシルベニア州フィラデルフィア出身。2008年からニューヨークを拠点に、共同で「ローレン マヌーギアン」を手がける。クリエイティブディレクションとデザインにおいて共通のアプローチを持つ二人の制作は、一貫性を保ちながらも常に進化し続けるテキスタイルの表現に焦点を当てている PHOTO:DAISUKE TAKEDA

「ローレン マヌーギアン(LAUREN MANOOGIAN)」は、ニューヨークとペルーを拠点に、上質な天然素材と無染色のやさしい風合い、そして手仕事を生かしたモノ作りに定評がある。近年は“クワイエット・ラグジュアリー”を体現するブランドの一つとしても注目され、同じくニューヨーク発の「ザ ロウ(THE ROW)」や「ケイト(KHAITE)」と並んで語られることも多い。しかし、その魅力は一過性のトレンドではなく、長い時間をかけて培われてきたクラフトの美学にある。

背景にあるのは、ペルーの厳選された産地や工房と協働しながら、透明性を重視したサステナブルな生産体制だ。ブランドを象徴するニットウエアやコートは、アルパカやウールの極上の柔らかさと、洗練された彫刻的なシルエットが特徴的だ。世界各国の有力セレクトショップで取り扱われ、25年にはドーバー ストリート マーケット パリでの展開がスタート。26年春にはドーバー ストリート マーケット ギンザでインスタレーションも開催された。

来日したローレン・マヌーギアン(Lauren Manoogian)とクリス・ファイヤオブド(Chris Fireoved)に、これまでの18年の歩みから、日本との意外な接点、そして今後の展望までを聞いた。

居場所を見つけた、ペルーへの旅

デザインスクールを卒業後、ニットウエアデザイナーとしてキャリアをスタートさせたマヌーギアン。ブランドの原点は、意外にもジュエリー制作だった。「自分の手で何かを作り、それを通して人とつながることが好きだった」という彼女にとって、大きな転機となったのがペルーへの旅だ。

リサーチのために訪れた首都リマで、自身のスタジオと同じ機械や技術を持つ職人たちと出会い、「『ここが私の居場所だ』と感じた。初日に出会った人たちとは、今でも一緒に仕事をしている」と振り返る。その出会いからアクセサリーやコートを中心とした小さなコレクションが生まれ、ほどなくしてパートナーのクリス・ファイヤオブドとともにブランドを本格的に動かし始めた。

インディペンデントブランドとしての着実な成長

現在も二人は数週間おきにペルーを訪れる。リマのオフィスを拠点に、市内の工房や、南部の山岳地帯で織りやかぎ針編みを手掛ける職人たちと協働している。オフィスは数年前から使い続けている古い建物の中にあり、もともとは一部屋からスタートしたが、入居者が退去するたびに少しずつスペースを広げ、今ではフロア全体が拠点となった。サンプル制作の設備も整い、ブランドのものづくりを支える重要な場所となっている。「ペルーの光は柔らかくて本当に美しい。天窓もあって、屋外スペースもある。訪れるたびにインスピレーションをもらえる」とファイヤオブドは語る。

ブランドの歩みを振り返り、二人は急成長よりも地道な積み重ねを重視してきたという。「シーズンごとに一貫性を大切にしてきた。ゆっくり進んできたインディペンデントブランドとしての姿勢が、デザインにも、コレクションの見せ方にもつながっている」とファイヤオブド。

ローレンが一つの節目として挙げるのは2012年だ。「アクセサリー中心の構成から、トップスやボトムス、セーターコートを含む本格的なニットウエアコレクションを初めて発表した年。あのとき生まれたアイデアが、形を変えながら今のコレクションにも反映されている」。

ブランドに根づく“日本の感性”

実は、「ローレン マヌーギアン」のチームには日本人メンバーが多い。ニューヨークとペルーを合わせた約40人のスタッフのうち、7人が日本人だという。「計画的に増やした訳ではなく、自然とそうなった」とファイヤオブドは笑う。小さなチームだからこそ、長く一緒に働くことを大切にしている。「ブランドはローレンと僕だけで成り立っているわけじゃない。人がすぐ入れ替わるような組織ではなく、それぞれが自分の仕事に誇りを持ち、一人一人がブランドの個性になってほしい」。

マヌーギアンは日本の美意識に深い影響を受けてきたという。「日本の伝統的な美学や哲学に触れたとき、『すごく共感できる』と腑に落ちる感覚がありました。自然や素材への向き合い方、クラフトを意外なかたちで生かす発想。それ以上に、素材や手仕事に対する考え方そのものに深くインスピレーションを受けています」。一方、ファイヤオブドは日本人の細部への眼差しに親しみを感じている。「日本のお客さまは、本当に細かな部分まで見てくれる。僕たちが大切にしていることにきちんと気付いてくれるのがうれしいですね」。

ニューヨークの旗艦店出店で見えた新章

また24年にニューヨーク・ソーホーに路面旗艦店をオープンしたことは、ブランドを次のフェーズへと進める大きな一歩となった。店舗を持つことで世界観をより多角的に表現できるようになり、実際に顧客と向き合う中で成長を実感しているという。「どんな空間にするか、どんな香りにするか、どんな体験を届けるか。空間全体でブランドの世界をつくれるようになったんです」とファイヤオブドは語る。

店舗には20代から80代まで幅広い客層が訪れる。その顧客に共通する感覚を「センシティブ(繊細)」という言葉で表現する。「一つ一つのアイテムには物語があるが、それを押しつけがましく説明したいとは思っていない。ラックから手に取った理由が“ただ好きだから”でいい。そのあとに僕たちが伝えられることがあり、そこから関係が深まり、大切に長く使ってもらえる。それは消費を減らすことにもつながる」。

20年を目前にした、今後の展望

今後について尋ねると、二人は新店舗やメンズライン、ホームグッズなど、少しずつブランドの世界を広げていきたいと語る。「ずっと刺激を受けながら、わくわくして働き続けたい。忙しくなると、目的を見失ってしまうこともある。だからこそ、モノ作りとそのプロセスに新鮮な気持ちで向き合い続けたい。その姿勢は、ブランドが生み出すすべてに自然と表れるはずだから」とマヌーギアン。

そして2年後にはブランドは20周年を迎える。「20周年って言葉にすると大きく聞こえるけれど、実感はまだない。僕らはインディペンデントブランドで、後ろに大きな会社がいるわけではない。20年間、自分たちのやりたいことを続けてこられて、多くの人に支持してもらえたことに感謝している」とファイヤオブド。「20周年には『クリスとローレンは休暇中です』とSNSに投稿するだけにしようかな(笑)」。そう言って笑う二人の表情には、のびのびとモノ作りを続けてきた自然体の姿があった。

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