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三池崇史が語る映画「殺し屋1」制作秘話 “反社会的”と呼ばれた映画はいかにして伝説になったのか

PROFILE: 三池崇史/映画監督

PROFILE: (みいけ・たかし)1960年、大阪府生まれ。米国アカデミー会員。CAA所属。横浜放送映画専門学院(現・日本映画大学)で学び、1991年にビデオ作品で監督デビュー。劇場映画デビューは「新宿黒社会 チャイナ・マフィア戦争」(95)。「スキヤキ・ウエスタン・ジャンゴ」(07)と「十三人の刺客」(10)がヴェネチア国際映画祭、「一命」(11)と「藁の楯」(13)がカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選出され、海外でも高い評価を受けている。主な作品にクローズZERO』シ」リーズ(07・09)、「ヤッターマン」(09)、「悪の教典」(12)、「土竜の唄」シリーズ(14・16・21)、「初恋」(20)、「怪物の木こり」(23)、「でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男」(25)などがある。

クエンティン・タランティーノをはじめ、海外の監督やクリエイターにファンが多い映画監督、三池崇史。海外での人気を決定づけた代表作、映画「殺し屋1」(2001)が4Kでリバイバル公開中だ。本作は山本英夫の人気コミックの映画化。新宿・歌舞伎町を舞台にして、マゾヒストの残虐なヤクザ、垣原(浅野忠信)と、泣きながらターゲットを切り刻む殺し屋、イチ(大森南朋)との壮絶な闘いが描かれて、スクリーンをセックスと暴力が吹き荒れる。衣装を北村道子、音楽を山本精一を中心にしたユニット、Karera Musicationが担当するなど、気鋭のクリエイターが参加した本作は、その過激な内容のために映倫が「反社会的な映画」としてR18に指定。しかし、海外では熱狂的なファンを生み出し、映画学校の授業で上映されるほど高い評価を得た。国内外で賛否両論を巻き起こした「伝説」の舞台裏を三池監督に訊いた。

「暴力が本作のテーマではない」

——当時、原作のコミックは過激な内容と強烈なキャラクターで話題を集めていましたが、監督は原作のどんなところに惹かれたのでしょうか。

三池崇史(以下、三池):主人公のわけの分からなさですね。イチのように理解されることを拒否している主人公を、これまで見たことがなかった。イチは自分のことをほとんど語らないじゃないですか。イチがどういう人物かを、物語で語っていくところが面白いと思ったんです。

——イチには自主性がないし、何か目的を持っているわけでもない。正体不明のジジイ(映画では塚本晋也が演じた)に操られているだけですからね。

三池:キャラクターがそれぞれ独立して存在しているところも面白かったですね。それぞれバラバラでわかりあうことがない。キャラクターの接点から生まれる人間ドラマを否定しているようなところがあるんです。そこに読者が参加するという、ほかの漫画では味わったことがない世界で、山本英夫という作家の不思議な魅力というか、漫画の自由さを感じて、それに比べて映画って不自由だなって思ったんです。だから「この作品を映画化するということは映画から解放されていいんだよな?」って。そんな自由を与えてくれる原作でしたね。

——本作にはヤクザ映画の常識にとらわれない自由さがありますし、劇中の暴力描写も爽快なくらい遠慮なくやってますね。

三池:キャラクターが映画のために無理やりやっている暴力じゃないんですよ。こういうキャラクターだから、これだけ暴れても仕方ない。逆に遠慮しているというか。「映画だからこれくらいの描写でやめておくか」っていう感じが出るといいなと思ってました。

——それだけ原作のキャラクターの存在感が大きかった?

三池:キャラクターが言ってくるわけですよ。「俺たちが本気出したら映画にできないぞ」って。でも、結果的に暴力という形になってますけど、暴力が本作のテーマというわけじゃない。バイオレンスとセックスって似たようなものですからね。

——無意識のサディスト、イチと究極のマゾヒストの垣原の関係ってラブストーリーのようでもありますね。イチの存在を知ってから、垣原はイチと出会うことをずっと期待している。

三池:お互いに求めあっているんですよ。人は自分の中にないものを埋めてくれる者を求めている。差し障りなく生きている人は自分の欲望を押し殺して生きているけど、この映画に出てくる連中はみんな解放されているんです。

——自分を押し殺して生きている人は、本作のようなやりたい放題の映画を観て、束の間、解放されるんでしょうね。

三池:Vシネマを撮ってるとヤクザを主人公にすることが多くなるじゃないですか。昔はヤクザに直接取材することもあったんですよ。彼らの話を訊いていると面白かったですね。どうしてヤクザという生き方を選んだのか、気になって訊くと「えっ?」って意外な顔をするんです。「極道になれない奴がカタギやってんじゃねえの?」って。彼らは自分が欲しいと思うものを力と度胸で手に入れてきた。みんな武将なんですよ。そういう話を聞いていると自分はなんて不自由なんだろうって思いますね。

浅野忠信の起用

——そういったヤクザ社会の中でも異彩を放つ垣原役を、浅野忠信さんが演じたのは驚きました。監督のアイデアだったのでしょうか。

三池:はっきりと覚えてないんですけど、自分が監督をすることになった時、もう浅野さんで進んでいたと思います。というのも、僕は役者を口説くのって苦手なんですよ。口説かないといけないんだったら諦める(笑)。

——諦めますか(笑)。浅野さんの芝居は独特ですね。他の役者のテンションや空気感と全然違う。素のようでいて。ちゃんとキャラクターになっています。

三池:浅野さんの芝居は今も変わらないですね。彼は役者という生き方は好きだけど、役者のような演技をするのが嫌いなんじゃないかな。そこが一つの個性になっている。でも、自分らしさを出そうとして、ああいう演技をやっている風には見えない。そうとしかできない風に見える。そこがカッコいいというか。彼は主役でありながら映画の中に異物として存在しているんです。

——映画の中のヤクザはスゴんだり、大声を張り上げたりしますが、浅野さんは淡々としゃべっている。それが逆に不気味です。

三池:面白いよね。あの頃、録音技術がデジタル化されて、役者がワイヤレスマイクをつけるようになったんです。それまでは役者は、ある程度の音量を出さないうといけないという約束事があったけど、それを気にしなくてよくなったので表現の自由度が増した。映画のヤクザってやたら滑舌がいいでしょ? そんな滑舌のいいヤクザいないからね(笑)。(本作にヤクザ役で出演した)菅田(俊)さんなんかは怒鳴ると何を言ってるか分からない。でも、その方が伝わるんですよ。そういう役者さんが好きで、子役もしゃべりが下手な方がいい。劇団で教えられたような芝居は現場で修正するんです。

北村道子の衣装

——本作はヤクザ映画の常識を覆した作品ですが、北村道子さんの衣装が果たした役割は大きいですね。あの衣装をヤクザが着ることで、映画の世界観がより濃くなった気がします。

三池:北村さんは原作は読んでないらしく、脚本からイメージした垣原組は、ああいう感じだったんですよ。こういうキャラクターが新宿でヤクザの組をやっているんだったら、絶対このファッションだって。北村さんは脚本を読んで頭の中に浮かんでくるイメージを形にする。脚本を読んで何も浮かばない時は何も作れない人なんです。直感が大事。だから、北村さんが本気で暴れられる現場は絶対面白くなる。

——あの衣装を着こなしている役者もすごいですね。

三池:初めて衣装を見た時は「えっ」と思うんですよ。ヤクザが着るスーツとは全然違うから。でも、役者っていうのは不思議な力を持っていて、袖を通した瞬間に「俺の服だ」って感じる。寸法はぴったりだし、作り手の想いが詰まっているのがわかる。そこで自分が演じるキャラクターになるんです。そして、北村さんの衣装を着たら普通のヤクザじゃないことがわかるから、そこで役者はヤクザのイメージから解放されるんです。

——衣装が果たす役割は大きいんですね。

三池:役者は衣装を通じて、皮膚で役を感じるんです。理屈を超えたところでね。そして、衣装が決まると、その衣装が合う美術はどんなものがいいか、その衣装が合う土の色はどうするのか、いろいろと考える。そうやって影響を与えあって映画の世界が出来上がっていく。人間の内面を描く、と言いながら、結局、映画に映るのは外側ですからね。

音楽とエンドロール

——そうやって生まれた映像に音楽が加わるわけですが、サントラを手掛けたのはKarera Musication。山本精一さんをはじめボアダムスのメンバー(yoshimi P-we、ATR、HILAH)が中心になったユニットですが、本作のために結成されたユニットですか?

三池:そうです。プロデューサーから薦められたんだと思いますが、僕ら関西人からしたらボアダムスはメジャーな存在なんでうれしかったですね。山本さんとは一回だけ打ち合わせしたのかな。あとは自由に作ってもらいました。とにかく膨大な量の曲が送られてくるんですよ。脚本を読んで思いついた曲とか、映像を見ながら即興で作った曲とか。聴くだけで大変なんですけど、その音源を僕と音楽監督がスタジオでミックスしてシーンにあてていくんです。彼らはどんな風にミックスされても、どのシーンに使われても大丈夫という感じでした。あとで彼らがサントラをリリースしましたが、映画で使われている音楽と全然違うんですよ。

——監督みずからミックス作業に立ち会われたんですね。

三池:彼らの音楽をミックスしていると面白いんですよ。ものすごいトラック数で、無音のようでも分解してみると音が詰まっていて、お互いに音をぶつけ合って無音状態にしていたりする。そういう音源をいじっているうちに、普通のエンドロールじゃつまらないと思えてきて。普通は名前が一人一人出るじゃないですか。そうではなく、名前を全部つなげてみようと思ったんです。そうすると文字がひたすら並んでいるだけで人の名前が消えてしまう。

海外での評価

——どこからどこまでが名前が分からない。そういう文字の羅列が上下左右に流れてくるエンドロールは音楽からの刺激だったんですね。それにしても、日本で「反社会的」と言われR18に指定された本作が、海外で高く評価されているというのも面白いですね。

三池:この映画は、東洋の役者の魅力、衣装や美術の魅力。いろんな魅力がナチュラルに表現されているんじゃないでしょうか。アメリカでの映画学校では授業で「殺し屋1」を観せているみたい。そういえば、ザ・ウィークエンド(The Weeknd)っていうミュージシャンがいるでしょ? 彼から突然連絡があったんですよ。

——ザ・ウィークエンドがアメリカで「殺し屋1」をリメイクするという話がありましたね。ポール・シュレイダーを脚本に雇って。

三池:本人は垣原をやりたいって言ってたよ。

スタッフ:イチって言ってませんでした?

三池:そうだっけ? イチをやりたいなんて珍しいな(笑)。この映画を観た人は、ストーリー以上にキャラクターを楽しんでいるんじゃないでしょうか。キャラクターを理解するというより、キャラクターに出会う。そういう映画的な体験が。この作品が好かれている理由なんじゃないかと思います。

——そして、本作を通じて監督の名前が世界に広がりました。監督のキャリアにおいて重要な作品ですね。

三池:おかげでバイオレンスを描く監督だと思われて、今もこういう作品を期待されるんだけど、この時はいろんな状況が重なって撮れたのであって、もう一度、再現しろと言われても無理(苦笑)。でも、この作品を若い頃に観て影響を受けた人が、今ではいっぱしの地位についていているおかげで仕事がやりやすいのは助かってます。思えば当時は今みたいにコンプライアンスがうるさくなかったし、みんな変な作品を作ろうとしてた。 インディーズにそういう熱気があった時代なんです。

PHOTOS:MASASHI URA

映画「殺し屋1 4K」

映画「殺し屋1 4K」
2026年5月15日から新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開中
出演:浅野忠信 大森南朋 塚本晋也 Alien Sun寺島進 菅田俊 手塚とおる 有薗芳記 KEE 新妻聡
松尾スズキ 國村隼 SABU
監督:三池崇史
原作:山本英夫
エグゼクティブプロデューサー: 横濱豊行、三宅澄二、Albert Yeung
プロデューサー:宮崎大、船津昌子
脚本:佐藤佐吉
音楽:KARERA MUSICATION(山本精一、yoshimi P-we、ATR、HILAH)
撮影:山本英夫
照明:小野晃
録音:小原善哉
美術:佐々木尚
衣裳:北村道子
イチスーツ制作:川上登・高野裕子(JAP工房)
CGIプロデューサー:坂美佐子
特殊メイク:松井祐一
音響効果:柴崎憲治
編集: 島村泰司
製作:オメガ・プロジェクト オメガ・ミコット
共同製作:EMG・STARMAX・スパイク・ アルファグループ
製作協力:エクセレントフィルム
配給:鈴正、weber CINEMA CLUB
2001年/日本・香港・韓国/128分/ヴィスタ/カラー/DCP/5.1ch)
©山本英夫/小学館「殺し屋1」製作委員会2001
https://koroshiya1.jp/

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