オンワードホールディングス傘下の英「ジョゼフ(JOSEPH)」が、新たなステージに踏み出す。
昨年8月に、クリエイティブのトップが交代。数々の世界的メゾンで経験を積み、直近では「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」でレディ・トゥ・ウェアやアクセサリー、ランウェイ部門のプロダクト&デザインディレクターを務めたマリオ・アリーナがクリエイティブ・ディレクターに就任し、タイムレスでオーセンティックな「ジョゼフ」のワードローブに新たな息吹をもたらしている。来年2月には26-27年秋冬ロンドン・ファッション・ウイークにカムバックし、18年春夏コレクション以来となるランウエイショーを行う。
また、日本ビジネスにおいても体制を刷新。これまでオンワード樫山が担ってきた日本展開について、英ジョゼフ リミテッド(JOSEPH LIMITED)が全額出資するジョゼフジャパン社を昨年2月に設立し、移管した。改めて「ジョゼフ」らしさを日本のカスタマーに届けるべく、リレーションや展開を一層強化していく狙いだ。
グローバルと日本、双方で新たな局面を迎える「ジョゼフ」。このほど来日したマリオに、就任後初めて手掛けた26年春夏コレクションの手応えや、今後ブランドが目指す方向性について聞いた。
WWD:昨年、クリエイティブ・ディレクターに就任した。なぜ「ジョゼフ」を新天地に選んだのか?
マリオ・アリーナ(以下、マリオ):キャリアの初期から、「ジョゼフ」はずっと私の心の中にある存在でした。そして今もなお、変わらずアイコニックなブランドだと思っています。
実は私は、ロンドンにある「ジョゼフ」のメリルボーン店の近くに住んでいます。毎日、愛犬の散歩で店の前を通るたびに、パートナーにこう話していました。「もし自分がジョゼフにいたら、どんなことができるだろう?」と。
そんなときにヘッドハンターから連絡がありました 。それが「ジョゼフ」だと知った瞬間、うれしさのあまり、思わず声を上げてしまいました。
WWD: そこに、運命的なものを感じたと。創業者ジョゼフ・エテットギーのレガシーを、どう生かし、どう変えていく?
マリオ:創業者のジョゼフはイノベーターであり、ビジョナリーでした。私も当時憧れた着こなし、そして今も続く多くのスタイルは、彼が生み出したもののおかげだと思っています。
私はそのエッセンスを受け継ぎながら、現代の女性、そして今日の消費者のために「リ・イマジン(再解釈)」したいと考えました。特に意識したのは、ブランドを取り巻く「ライフスタイル」全体を取り戻すことです。だからこそ、ジュエリーやアイウェア、シューズ、バッグ、スカーフといったカテゴリーを導入し、今後もさらに多くのアイテムを展開していく予定です。
現代の消費者のためにブランドのエッセンスを蘇らせること。それが、まず私が取り組むべきことだと考えています。
WWD: デザインのフィロソフィーや、インスピレーションの源泉について教えてください。
マリオ:私は観察することがとても好きです。世界で何が起きているのか、顧客の周りで何が起きているのか、そして自分自身の周りで何が起きているのか。そうしたことを注意深く見つめ、それをコレクションに反映させようとしています。
ファブリック(生地)は、私の創作にとって非常に重要な存在で、心から愛しています。個人的にはあまり色物を身につけませんが、色やテクスチャー、そして「センサリー(感覚的)」であることはとても大切にしています。
WWD: 26年春夏コレクションは、モロッコがインスピレーション源になった。
マリオ:私はモロッコという土地が大好きで、頻繁に訪れています。現地で特に印象的なのは、1日の中で時間によって色が変化していくことです。風景や壁の色が、よりピンクに、より赤に変わっていったり、埃をかぶったようなグリーンが見えたりする。その移ろいに強く惹かれました。今回は、そうしたカラーパレットを表現したいと考えました。
色彩だけでなく、 砂の波紋や壁の質感など、テクスチャーにも目を向けています。モロッコは「センサリー・エクスペリエンス(感覚的な体験)」ができる場所であり、その感覚をコレクションに落とし込みたかったのです。
WWD:非常に洗練されたテーラリングと共に、どこかリラックスしたムードも感じられた。
マリオ:「タイムレス」と「エフォートレス」は、ジョゼフのDNAの一部です。
興味深いことに、街で出会った人々や隣人と話をすると、40代以上の方は、何十年も前に購入して今も愛用している「ジョゼフ」の服について語ってくれます。一方で、それより若い人たちは、「母が持っていたものを、今は自分が着ている」と話してくれる。つまり、タイムレスであるということは、「エイジレス(年齢を超越すること)」でもあるのです。
同時に、エフォートレスであることはとても重要です。かつては、ヘアメイクやジュエリー、靴に何時間もかけることが当たり前でしたが、今はさっと羽織るだけで美しく見え、気分が高まることが求められています。今回のコレクションでは、着た瞬間に、ただただすばらしい気分になれることを大切にしました。服を着るという体験、その手触りや感覚も含めて、本当に美しい体験であってほしいと思います。
WWD:近年は欧州でも暑さが増している。
マリオ:コレクションは年間を通して、「トランス・シーズナル(季節を超えたもの)」な構成を意識しています。多くのピースは初冬まで着ることができますし、その上にコートを重ねることもできます。タイムレスなワードローブの基本は、「別の季節にも再解釈して着られること」だと思っています。
私は非常に暑い気候の場所で育ったので、日本の高温多湿な環境もよく理解しています。「ジョゼフ」で使う多くのファブリックは非常に軽くすることを意識していますし、私自身、ドライな質感の素材を好んでいます。「ジョゼフ」の服は、日本の夏でもきっと快適に過ごしていただけるはずです。
WWD:不安定な世界情勢が、クリエイションに与えている影響はある?
マリオ:世界で起きていることの多くは、人の気分を落ち込ませる要因になり得ます。特にソーシャルメディアを見ていると、悪いニュースばかりが目に入ってきます。
フィッティングの場で、モデルが「このドレスの着心地、大好き」と興奮してくれる瞬間があります。それは一種の逃避であり、「フィール・グッド(良い気分)」な体験なのだと思います。
だからこそ私がやりたいのは、ファッションや衣服を「エスケピズム(現実逃避)」にすること。夢を見たり、想像したり、良い気分になったり。服を着ることで、特別な感情を得られる機会を提供したいと思っています。
WWD:ジュエリーのラインアップを展開している のもが、そうした理由から?
マリオ:「ジョゼフ」のジュエリーコレクションは”ビーン”を中心に展開されています。面白いことに、“ビーン”を手に取った誰もが、自然と真ん中をこすり始めます。おそらく本能的な行動で、周囲の人たちも手に取ると「とても落ち着く」と言います。セラピーのようなものかもしれません。かく言う私自身もそう(笑)。地下鉄に乗っているときなど、無意識にこすっています。
ただ贅沢な素材を使うだけでなく、その人にとってのストーリーや、癒やしになるような特別な何かが、今のファッションには必要だと感じています。
WWD: ブランドを今後、どう方向づけたい?
マリオ:まず、ウエアだけでなく、ジュエリーやバッグ、シューズ、スカーフ、アイウェアといったカテゴリーの存在をさらに強化していくこと。それぞれの分野に、クラフツマンシップやサステナビリティ、オーセンティシティ(本物であること)が必要で、そこに「ジョゼフ」としての新しいデザインコードを加えていく。すでに私は「フィン」というデザインコードを導入し、ジャケットの折り目や靴のヒール、バッグの折り目などで表現しています。
私は「ジョゼフ」を成長させ、再び「ハウス(メゾン)」といえるような地位に回帰させたいと考えています。歴史、クリエイション、顧客の質。その全てにおいて、スーパーブランドと肩を並べられるポテンシャルが「ジョゼフ」にはあるはずです。