
TDKは、自社の電子部品製造工程で廃棄されるフィルムをリサイクルし、社員の作業服として再生する取り組みを始動した。東レおよびオンワードコーポレートデザインとの協業により、積層セラミックコンデンサの製造過程で排出される使用済みフィルムに特殊処理を施し、再生糸から生地を製造。夏用の上着として縫製し、2025年6月より岩手県の北上工場にて導入を開始している。
現場と人事が手を組んだ“着る資源循環”
この取り組みは、製造現場から「使用済みフィルムを作業服に活用できないか」という声が上がったことが出発点だったという。TDKでは2022年から「フィルム to フィルム」、つまり製造に使ったフィルムを洗浄・再生し、再び工程で使用するリサイクルスキームを模索してきたが、それに加えて作業服への活用が検討され始めたのは2023年。ちょうどその時期、TDKでは全国の作業服をリニューアルするタイミングを迎えていたこともあり、人事部が主導するかたちで構想が本格化した。
作業服は、現場オペレーターだけでなく技術開発、設計、人事総務など工場内で勤務するすべての社員が着用する。日常的に身に着けるものだからこそ、環境への関心を高める象徴的な取り組みとして、社内でも位置づけられているという。
“原料メーカー”としての意識が支える品質保証体制
今回の作業服リサイクルでTDKは、原料の段階から高品質を担保する体制作りに力を入れた。プロジェクト発表の記者会見での「私たちが原料メーカーになる」という言葉は、TDKが単に廃材を供給するのではなく、原料品質の責任を自らが負うという立場への転換を意味する。この思想のもと、TDKは製造工程で排出されたフィルムからセラミック残留物などの微細な不純物を完全に除去するため、自社でスリッター機を新たに開発・導入した。これにより、従来は人の手では選別しきれなかった“見えない汚れ”まで取り除き、リサイクル原料としての安定供給を可能にしている。
東レは、TDKから提供されたこの高純度のフィルムを原料とし、独自のメカニカルリサイクル処理を施したうえでチップ化し、再生糸へと加工。さらに、グループおよび協力企業との連携により、生地の生産、染色、仕上げまでを一貫して管理し、高いトレーサビリティと現行製品と同等の品質を実現した。オンワードコーポレートデザインは、2000社以上のユニフォーム納入実績で蓄積された知見を活かし、着用時の快適性と耐久性を兼ね備えた夏用作業上着を完成させた。吸水速乾性やストレッチ性といった機能も、従来品と同様に確保されている。
社員15000人への展開は段階的に
今回のリサイクル作業服は、まず岩手県・北上工場で一部の導入からスタートしている。全国で作業服を着用するTDK社員は約15000人にのぼるが、既存在庫の消化を待って、順次導入していく予定だという。TDK全体では年間5000~6000着が新たに製造・更新されていることから、今後数年で着実に拡大していく見通しだ。
また、同社が目標とするのは、自社で排出されたフィルムのうち「20%を自社の工程に再活用する」というスキームの確立である。ただし、現時点では数%にとどまっており、技術的な検証と品質評価が進行中。中長期的な目標として、製造工程のキャリアフィルムとしての活用など、より本質的な“循環”の実現に向けた挑戦が続いている。
なお、TDKの製造工程からは月に数百トン規模で使用済みフィルムが排出されているが、その多くはペットボトル業界など、より使用量の大きい外部産業への原料供給にも転用される予定だという。これは「自社完結」よりも「地球規模での資源有効利用」を優先する判断でもある。