ファッション

“普通”を更新せよ 「マーティン ローズ」が「ピッティ」で交差させた日常と非日常

 英発メンズブランド「マーティン ローズ(MARTINE ROSE)」は、イタリア・フィレンツェで開催中のメンズ見本市「第103回ピッティ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMMAGINE UOMO以下、ピッティ)」にゲストデザイナーとして参加し、2023-24年秋冬コレクションをショー形式で現地時間12日に披露した。同ブランドが地元ロンドンで以外でショーを開催するのは初めて。

 会場は観光スポットであるイノシシの噴水からすぐそばの建造物で、普段は観光客向けの露店が連なる日常の風景が広がる。そこにイエローのカーペットを敷いてイスを不均衡に並べ、非日常の空間を作った。コレクションは、スモールコミュニティの多様性に敬意を込めた、同ブランドらしいクリエイション。日常着をベースに、メンズとウィメンズ、ストリートとモード、アメリカとヨーロッパという対極にある要素を交差させる。一見すると古着屋に並んでいるような日常着ばかりだが、極端にタイトなコートや膨張させたパファージャケット、襟が立ち上がったシャツジャケット、歪ませたドレスシャツなど違和感のあるバランスを取り入れて、“普通じゃない普通”のスタイルを完成させる。

 アクセサリーはショッパー風バッグを始め、代名詞でもあるスクエアトーのクラシックなブーツ、そして「ナイキ(NIKE)」とのコラボレーション“ショックス MR4(SHOX MR4)”の新色も披露した。初となる国外の発表でもクリエイションの方向性は一貫してはいるものの、オーバーサイズのボンバージャケットやスポーツブルゾンにアクの強い柄のネクタイを合わせたり、多彩な素材とフォームのジャケットを披露したりと、「ピッティ」の場にふさわしいクラシックへのオマージュも見られた。

 クリエイションのバックグラウンドにあるのは、クラブカルチャーだ。1980年代から90年代初頭にイギリスで流行したイタロ・ハウスを掘り下げ、後にこのムーブメントに影響を与える70年代のイタリアの音楽カルチャーにも焦点を当てる。アップテンポでクセの強いユーモアがあり、さまざまな楽器の音がごたごたと入り混じる音を、ファッションで表現している。また、同ブランドはスモールコミュティの強い絆を大切にする姿勢が根底にあり、今回も地元フィレンツェの一般人やサッカー選手、そしてロンドンから呼び寄せた友人たちがモデルとして登場。強い個性がひしめくクラブのダンスフロアのように、会場周辺は日常と非日常が交差する空間だった。 

 今回の「ピッティ」は、前回よりも多くの人でにぎわい、出展ブースも増え、かつての熱気が戻ってくる可能性を現場で感じた来場者も多いだろう。しかし、メンズ最大の見本市が今後もビジネスの場としてその価値を保ち続けるためには、大きな変化がないマーケットだけに、作り手と受け手の“普通”の感覚の更新は必要だろう。出展者の中には、お祭り感にただ浸るだけでなく、新たなクラシックを開拓しようともがくブランドもあれば、変わらない“普通”の価値を信じる作り手もいた。「マーティン ローズ」の“普通じゃない普通”は、そんな出展者の勇敢な意志と交差して見えた。

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