ファッション

さらけ出すことを恐れるな ヒップホップアーティストTKda黒ぶちが“炎上”をいとわない理由

 2022年も、ファッション&ビューティ業界では多くの“炎上”ニュースが飛び交った。配慮を欠いた広告や発言は瞬く間に拡散され、ブランドイメージの大きな毀損に繋がってしまう時代だ。

 だがそれでも「不謹慎」や「タブー」を恐れずにメッセージを発し続ける人もいる。「フェイクでないなら、素直に語ればいい。言葉はその人の本質なんだから」。そう語るのは、ヒップホップアーティストのTKda黒ぶち。その名の通り黒ぶちメガネがトレードマークの彼は、国内ヒップホップシーンの第一線にいるアーティストの一人。日本最高峰のヒップホップアーティストが集うMCバトル番組「フリースタイルダンジョン」(テレビ朝日系列、現在は終了)では3代目モンスターに上り詰めた人物だ。

 小手先のテクニックに頼らず、自分の生い立ちまで赤裸々なリリックが多くの共感を呼ぶ。「本当に語るべき人が口を開くことを恐れ、SNS上には薄っぺらなフェイクが溢れている。そんな世の中だからこそ、ヒップホップのリアリティーが必要なんじゃないか」とTKda黒ぶちは語る。社会がコロナ禍から前を向こうとしているとする中、「ヒップホップを聞いてパワーをもらう。そんな光景が当たり前の日本にしたい」との思いで、アーティストの枠組みを超え活動の場を広げている。そんな彼が考えるヒップホップの本質、黒ぶちメガネのスタイルを貫く理由を聞いた。

TKda黒ぶち/ヒップホップアーティスト

(てぃーけー・だ・くろぶち)1988年、埼玉県生まれ。高校生だった2005年からMCとしての活動を始め、10年からフリースタイルバトルへ本格的に参加。「戦極 MC BATTLE」での優勝など実績を重ね、「フリースタイルダンジョン」では3代目モンスターに就任 PHOTO:SHUNICHI ODA

WWD:黒ぶちさんにとってヒップホップとは。

TKda黒ぶち(以下、黒ぶち):音楽ジャンルでいう「ポップス」に対して、ヒップホップは「ポピュリズム」だと思っています。楽器を買うお金も、楽譜を勉強する時間もない人でも、マイク一本で始めることができる。良くも悪くも誰でもできて、解る音楽です。美しいメロディーでお茶を濁すことがないから、その分リアリティーが増す。使い方によってはざっくり人を傷つけたり、怒らせたりすることもあります。トラビス・スコットが21年に主催したフェスでは半狂乱のファンによる悲しい事故も起こってしまいましたが、それだけヒップホップがマインドに訴えるパワーはすごい。

 カッコつけずに言えば、僕にとっては「普通じゃないことを誇れる音楽」でしょうか。ヒップホップは悪ぶってると思われることは多いけれど、それは自分を素直にさらけ出すから悪い部分も目立ってしまうだけ。

WWD:TKさんの「普通じゃないこと」とは?

黒ぶち:詳しくは僕のnoteにつづっていますが、僕は割と悲惨な生い立ちで。例えば、僕の父親は中学の時に蒸発したので、母の手一つで育てられてきました。クラスのカーストも底辺で、とにかくどうしようもなかった。その時の記憶は、全部歌詞に込めています。

 当時は音楽にも興味がほとんどなくて、聞いていたのはミスチルくらいでした。灰色の生活を送っていた僕にとって、芸能の世界とか耳障りのいいJ-POPは嘘くさかった。だからヒップホップを初めて聞いた時、飾り気のない言葉のリアリティーが直接ぶっ刺さってくる感じに衝撃を受けて、それからのめり込んでいきましたね。

 高校生の時、勇気を出して地元のハコでMCバトルに参加しました。黒縁メガネの自分がラップをしていると、「何やってんだ根暗」ってヤジを飛ばされたり、観客席の1番前で中指立てられたりもしました。今となっては、その時ビビってコンタクトレンズにしなかった自分をほめたいですけどね(笑)。

WWD:なぜ黒ぶちメガネにこだわった?

黒ぶち:「どうしようもない自分」の象徴みたいなものだったのかもしれません。ありのままでいて何が悪いんだっていう意地、反骨精神みたいなものが奥底にあって、それを馬鹿にした奴らに認めさせることが、ヒップホップをする原動力の一つになっていきました。そういう承認欲求に、これ(ヒップホップ)を失ったら自分はもう終わりだ、という一種の恐怖心がないまぜになり、自分を駆り立てていました。

WWD:自己肯定感が低いまま、ステージに立つことは怖くなかったのか。

黒ぶち:逃げてばかりの自分から、また逃げることの方が怖かったですから。学校では野球部も、少林寺拳法も、学習塾もすぐ投げ出した。歯列矯正すら、痛くてすぐにやめてしまった(笑)。そんなどうしようもない自分を救ってくれたヒップホップを失うことの方が、よっぽど恐ろしかった。それに自分が曲を出したり、バトルで勝ったりと結果を出し続けるにつれて、僕をバカにしていた人たちも認めてくれるようになって。「これしかない」と思うようになりました。

WWD:今のヒップホップアーティストとしてのモチベーションは。

黒ぶち:駆け出しの時、自分の弱い部分を全てさらけ出した“負け犬”って曲を書きました。高2だったと思います。今はもうお蔵入りにしているんですが。ライブで初めて披露するときは、「こんな弱いところ見せて大丈夫か」「(聴衆に)引かれるんじゃないか」とひどく緊張もしていました。ただ終わってみたら、すごくいい反応だったんです。僕も、聞いてくれた人と心の底からつながった感覚があって。いまだに「あれはよかったね」と言ってくれる友達もいます。

 それ以来、自分がヒップホップアーティストをしている上で1番の“報酬”は、誰かの生きる活力やモチベーションになること。バトルで自分と相手、どちらが勝ったとしても「=実力」ではない世界。ハートを相手とぶつけ合ったり、それを見ていた人から「感動した」って言ってもらえたりを繰り返して、自分のアーティストとしての“芯”が厚みを増している感覚があります。

炎上は人生の延長
「そういう生き方をしているから」

WWD:批判や中傷は怖くない?

黒ぶち:僕のスタイルは、赤裸々なまでに自分をさらけ出すこと。だから口から吐く言葉は「人生の延長」だし、仮に炎上したとしたら僕の行動、人間性、生き方が燃えうるものだったということ。受け入れるしかないとも思います。

 もちろん、常に粗探しをしている人はいるし、鬱憤ばらしの“サンドバッグ”を探している人もいるでしょう。ただ僕はそれを恐れること以上に、誰しもが僕のように “地獄”を持っていて、ヒップホップでその救いになりたいという思いが強いです。

WWD:ファッションにこだわりはある?

黒ぶち:自分のアーティスト活動を通じて、ヒップホップをもっと多くの人に興味を持っていただくためにも、(ファッションは)必要だなと感じています。僕の地元・春日部発の「ルーディーズ」には、僕とコラボした黒ぶちサングラスを製作いただいています。アーティストとして活動する中で、僕の見た目のスタイルにも共感してくださる方もいらっしゃるでしょうし、もっとこういった事例にチャレンジしていきたいですね。

 正直、以前は「着たいもの着ればいいじゃん」だったんですが(笑)。カニエ・ウエストに感銘を受けて考えを変えました。ファーストアルバムでグラミー賞をとった彼は「ルイ・ヴィトン」のバッグを携えてパリコレに乗り込むも、ファッションの業界人からは全く相手にされなった。それで彼はパリのオートクチュールの源流から真摯に学び、名だたるブランドとコラボしてファッションシーンの最前線に上り詰めた。結果、彼のファッションを通じてアメリカのヒップホップカルチャーを世界に広めました。この功績はすごいですよね。

WWD:ヒップホップカルチャーは日本ではまだまだニッチだ。

黒ぶち:以前、ニューヨークに住んでいたときのことなんですが。電車の中で、ジェイ・Z(JAY-Z)の曲にある「あのスニーカーが欲しいなら 努力して成り上がるんだ」っていう一節を何度も繰り返して、気持ちを高ぶらせている人がいました。

 これを日本でも再現したいと思っているんですね。ヒップホップ好きの兄ちゃんだけでなく、普通に働いてるサラリーマンがこれから仕事へ向かう電車の中で選ぶ曲。疲れた時、顔を上げたい時に選ぶ曲がヒップホップであってほしい。

 僕はヒップホップを、日本の音楽シーンのメインストリームに押し上げていきたいと真剣に思っています。そのために、地道ではありますがお笑い芸人にラップを教えたり、企業のコーポレートソングを書いたりとライブハウスの外でも活動を続けてきました。“ヨー、チェケラッチョ”ではない、僕らが思うヒップホップの本質が徐々に理解されてきたと感じています。

 今日本には、コロナへ愚策を続けてきた政府への不信感、頑張って働いても賃金が上がらない虚無感が漂っています。ヒップホップはそういう“敵”に立ち向かう勇気を与えるファイトミュージックです。日本は無宗教と言われます。しかし人間は本来「信じる力」を持っているし、よりどころがわからないだけ。それがヒップホップであっていい。僕はこれからも、皆のサバイバルツールになる曲を書き、歌っていくつもりです。

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