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【9月23日まで無料公開】アニエスが立ち上げた海洋調査団に聞く海の今【海の危機、私たちはどう動く?】

 デザイナーのアニエスべー(agnes b.)は、海洋探査を目的とした「タラ オセアン(Tara Ocean)」プロジェクトを2003年に立ち上げた。アニエスとその息子で現アニエスベーフランス本社最高経営責任者のエティエンヌ・ブルゴワ(Etienne Bourgois)にとって、海は常に身近な存在だったのだという。海を守ることに情熱を持っていたアニエスとブルゴワは、極地探検などにも用いられたスクーナー船を購入し「タラ号」と名付けた。映画「風と共に去りぬ」の主人公が住んでいた農場の名前からとったもので、アニエスにとっていつでも戻りたくなる故郷を意味する。

 科学調査船「タラ号」は、地球温暖化が海に与える影響や生物多様性、マイクロプラスチック汚染の現状などについて調査を進めている。これまでに世界中で12の海洋科学探査プロジェクトを遂行した。「タラ号」を運営する公益財団法人タラオセアン財団のパトゥイエ由美子日本支部事務局長に、海洋汚染の現状について聞いた。

WWD:海洋汚染の主な原因は?

パトゥイエ由美子(以下、パトゥイエ):大きく言えば人間活動だ。生活および工業廃水やプラスチックごみも汚染の要因だが、特に影響が大きいのは温暖化だ。人間が排出する温室効果ガスが温暖化を進め、海水の温度が上がることで生物多様性が減少し、生態系のバランスが崩れたりしている。海はこれまで大量の温室効果ガスを吸収してくれていたが、余分な二酸化炭素を吸収したことで海洋酸性化が進んでいる。酸性化によっても、海洋の生物多様性が脅かされている。

WWD:海洋プラスチックごみとは具体的にどんなものが流れている?

パトゥイエ:8割が陸からくると言われている。残りの2割は漁網など船舶から発生する。陸のどこから来るかというと、主に川から。タラ号では19年にヨーロッパの大きな9本の河川を調査したところ、川でもすでに大量のマイクロプラスチックが含まれていることがわかった。中には、化学繊維から派生するマイクロファイバーも多く含まれていた。

WWD:マイクロプラスチックによる汚染が特に深刻な地域は?

パトゥイエ:タラ号が14年に調査した地中海は深刻な地域の1つだが、特に日本や東南アジアがホットスポットだ。日本沿岸海域は、マイクロプラスチックの濃度が世界平均よりも27倍高いと言われている。そこでタラ オセアン ジャパンでは、20年に日本のローカルプロジェクトとして「タラ ジャンビオ マイクロプラスチック共同調査」を立ち上げ、調査を進めている。北海道から沖縄までを対象領域とし、海の表層水と海底の堆積物、砂浜の状況を同時に調べる、国内最大規模の調査だ。

WWD:日本の沿岸地域でマイクロプラスチックの濃度が高い原因は?

パトゥイエ:明確な原因はわかっていないが、世界の川由来のプラスチックごみのうち8割以上はアジアから流れている。諸外国が自国で発生したプラスチックごみを輸出した結果、処理しきれなかったものが海に流出しているとも考えられる。日本も輸出する側だったが、海に流れ出たものが海流にのってまた戻ってきているケースも多い。日本沿岸地域で外国語のラベルがついたプラスチックごみが見つかることもあるが、一方で日本からでたごみもどこかの海を汚染している。つまり、海洋プラスチックの問題は、自分たちは被害者でもあり、加害者でもあるということだ。

WWD:日本沿岸の生物多様性の状況は?

パトゥイエ:生物種の約20%が生息すると言われるサンゴ礁は、海の生態系において重要な役割を果たしている。しかし、日本近海でも、沖縄のサンゴ礁の7割近くが温暖化による白化現象で破壊されている。タラ号では16~18年に太平洋のサンゴ礁の調査を行い、サンゴの耐性と適応に関する研究を進めている。また、海面温度の上昇で北上しているサンゴもいるが、このまま温暖化が進み、地球の平均気温が産業革命時と比較し、2℃以上上昇したら、99%のサンゴ礁が喪失すると推計されており、その後の生態系への影響は計り知れない。

WWD:プラスチックごみは実際に海にどんな影響を与えている?

パトゥイエ:海亀の鼻にストローがささっている衝撃的な映像は世界的にも有名だろう。魚がごみを間違えて食べてしまったり、プラスチックでお腹がいっぱいになった生き物たちが餓死してしまったりといった生物への被害は大きい。プラスチックを製造するときに添加する有害物質が海に流れて、魚の体内に蓄積されているとも言われている。人体への影響はまだわからないことも多く、影響がないとも、絶対にあるとも言えないが、科学者たちは警鐘をならしていることは事実だ。

WWD:タラ号にアーティストが乗船する理由は?

パトゥイエ:創設者であるアニエスべーは、アートを愛するデザイナーで長年若手アーティストのサポートにも積極的だ。そんなアニエスの意思をきっかけに、科学やデータだけではリーチできない層に、アートを通すことで問題の大切さを伝えられることがブランドらしいアプローチとして根付いたのである。アーティストにとってインスピレーションがあるだけでなく、タラ号に乗船する科学者にとっても新たな視点を得るきっかけになっている。

言葉だけでなく本気のアクションを

 現在「アニエスべー」は、タラオセアン財団のメインパートナーとしてサポートを続けている。海洋問題の認知を広げるべく、子どもたちを対象としたビーチクリーン活動ビーチクリーンやワークショップ、「タラ号」を題材にしたポスターコンクールなどを定期的に開催する。ローラン パトゥイエ(Laurent Patouillet)=アニエスベー ジャパン代表は、「私たちはサステブルという言葉を一人歩きさせるのではなく、自分たちが率先して行動を起こすことを大切にしている。マイクロファイバー汚染や大量廃棄の問題など、ファッション企業にとってもこの問題は大きく関係している。私たちはそれを自覚し、完璧ではないかもしれないが、大量生産から脱却し、サステナビリティに配慮した商品を少なく作って長く使ってもらうようなビジネスを実践している。業界全体で、言葉だけでなく本気のアクションをトレンドにしていきたい」と話す。


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