ファッション

神にも通ずる“伊勢和紙”の魅力 ファッションデザイナー高谷健太と巡る“ときめき、ニッポン。”第4回

 山本寛斎事務所は、三重・伊勢市と深いつながりがある。寛斎は鈴木健一伊勢市長との出会いをきっかけに、現地での視察や講義などを何度も行っていた。われわれは寛斎亡き後も交流を続けており、昨年末には三重県立明野高校や伊勢理容美容専門学校の学生に向けて講演を開いた。

 寛斎と鈴木市長との出会いは、駐日英国大使館で開かれた日英交流年“UK in JAPAN 2019-20”のレセプションパーティーだった。寛斎は、1971年に日本人として初めてロンドンでファッションショーを開催し、デヴィッド・ボウイ(David Bowie)のツアー衣装を手掛けるなど、ファッションを通じて生涯日本と英国の文化交流に貢献。一方の伊勢市は、“UK in JAPAN 2019-20”の一環で、英国からアーティストを招へいし、伊勢神宮をはじめとする地域の文化体験を行う“伊勢市アーティスト・イン・レジデンス”を行っていた。伊勢神宮の祭り“神嘗祭”に合わせた文化体験のプログラムで、寛斎と僕も招いてもらい、英国アーティストらと刺激的な時間を過ごした。

 伊勢市はイギリス・カンタベリーとの交流が深い。日本にとって伊勢神宮が巡礼地として重要視されているのと同じように、イギリス国教会ではカンタベリー大聖堂が巡礼地の中心とされていることから、両者の関わりが始まった。伊勢市にある皇學館大学とカンタベリーのケント大学(University of Kent)との学生交流において、イギリス人の伊勢神宮への興味の高さを知ったことから、観光誘客にも力を入れている。現在もクリエイターの支援を続けており、20年には滞在費を負担して創作活動を支援する“クリエイターズ・ワーケーション促進事業”を実施し、130人の募集枠に1200人以上の応募が集まった。

 連載第4〜5回は、そんな伊勢市についてだ。この地で脈々と受け継がれる和紙の伝統と、職人の方々の思いを通じて、僕が感じた“ときめき”をお伝えする。今回は、伊勢市の伝統工芸のひとつ“伊勢和紙”を読み解いていく。

紙は神に通じる

 日本人は古来、日々の暮らしから神仏に祈りを捧げる神聖な場面まで、あらゆるシーンで和紙を用いてきた。“紙は神に通じる”といわれるのは、清らかな水ですき上げた白い紙が、神聖なものと現実との境界線のようにも感じられるからかもしれない。

 和紙は神社の紙垂(しで)、日本家屋の障子紙、のし紙や祝儀袋など、日本人の暮らしの中に根付いていた。また和紙を“紙衣(かみこ)”と呼び、衣服として使ってきた歴史もある。時代とともに、IT化やSDGsの流れからペーパーレスが進み、その出番は少なくなったが、現在ではインテリアや建築資材、和紙を取り入れた新素材の衣服など、幅広い分野に応用され、その価値が再発見されている。

 では、和紙に携わる職人は、現在における和紙の価値をどう捉え、どんなことにチャレンジしているのか。100年以上にわたり伊勢神宮の御用紙を奉製している中北喜亮・大豐和紙工業取締役に話を聞いた。

和紙づくりに見るものづくりの本質

高谷健太(以下、高谷):伊勢和紙にはどのような歴史があるのでしょうか?

中北喜亮・大豐和紙工業取締役(以下、中北):伊勢和紙は“龍大夫邸(りゅうだゆうてい)”という歴史ある建築の跡地で生産されています。龍大夫は、江戸時代に伊勢神宮の参詣者に対して参拝や宿泊先の案内などを行う“御師(おんし)”として知られる人物で、当時300軒ほどあった御師の家の中でも最大級の立派なお屋敷を持っていました。明治天皇の行幸の際の宿所にもなったそうです。明治4年に御師制度が廃止され、伊勢神宮が独自にお神札やお守りを配るようになり、和紙が必要となったため、この場所で和紙づくりを行うようになりました。

高谷:お神札(おふだ)やお守りなどとして和紙づくりが始まったのですね。

中北:はい。そのほか、和紙づくりに欠かせない自然にも恵まれていたのも背景にあります。伊勢和紙づくりには宮川の伏流水を使っていて、宮川は国土交通省の調査で水質が最も良好な河川のひとつに選ばれているんです。

高谷:なるほど。僕は常々、ものづくりの本質には、自然に対する畏敬の念や、自然がもたらす恵みへの感謝があると思っていて、和紙づくりにも通じるものを感じます。

中北:和紙は自然の恵みを受けて、1000年前から作られている。極論、電気がなくても作れます。奈良の正倉院には700年代の資料が読み取れる状態で残っていて、和紙の高い保存性も示しています。またコウゾやミツマタなど、原料となる植物の成長が早いことも特徴です。さまざまな分野でSDGsが叫ばれ、最新の素材開発が進んでいる今でも、和紙は最強の媒体だと思います。

高谷:和紙づくりにおいて挑戦していることは?

中北:和紙には、工場や人材、技術など欠かせないものがたくさんあります。中でも、高齢化の影響もあり、和紙原料の産地を管理し、守っていくことが年々難しくなっています。その中で、近年は三重県亀山市において和紙原料となる植物、ミツマタを育てる運動に参加しています。安定した供給を継続するために、和紙づくりのサイクルを構築していくことも、われわれにとって大きな挑戦です。


 中北取締役は、「和紙が1000年以上作り続けられ、今日まで存続しているのは、明確な理由と需要があるから」と言っていた。その話を聞き、1300年以上も前から伊勢神宮で行われているお祭り“式年遷宮”が続いていることを思い起こした。式年遷宮は20年に一度、社殿や御装束神宝などを古例に基づいて更新するもので、“常若(とこわか)”という精神を表すものとされる。ほかにも伊勢市では、自然や神々に対する畏怖畏敬の念、そして先人たちが脈々と繋いできた伝統や文化に対する敬意など、古来日本人が大切にしていた精神性に触れることができる。それが、僕がこの地に引かれる最大の理由であり、クリエイターやアーティストの感性を刺激する魅力だと思う。僕自身、2021年3月に「渋谷ファッションウイーク」で発表した「カンサイヤマモト(KANSAI YAMAMOTO)」のコレクションでは、二見興玉神社(伊勢市)の夫婦岩に昇る夏至の太陽から色を抽出した作品も披露した。

 取材した大豐和紙工業の工場敷地には、伊勢和紙館が併設されており、伊勢和紙の歴史や道具を紹介している。僕が感じた“ときめき”を、ぜひ皆さんにも感じてほしい。

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