ファッション

「マルジェラ」と「フェンディ」は映像で世界観を巧みに表現 ドキドキワクワクのクチュール初体験記 Vol.4

 こんにちは〜、WWDJAPANヨーロッパ通信員の藪野です。あっという間にオートクチュール・ファッション・ウイークも最終日。期間中は微妙に肌寒い曇り続きでしたが、なんとか最終日まで大雨は降らずにもってくれました。今日は、ショールームやプレゼンテーション回り。これまでのファッション・ウイークだとふらっと立ち寄れたのですが、今回はコロナによる制限もあって、ほぼすべてが事前アポ制です。これまたスケジュール調整が大変であまり詰め込む訳にもいきませんでしたが、夜のフライトでベルリンに戻るまでガッツリ取材してきます!

8日12:00 ジュリー ドゥ リブラン

 朝からパッキングとチェックアウト、そして薬局で帰国に必要な抗原検査を済ませていたので、遅めのスタート。まず、「ジュリー ドゥ リブラン(JULIE DE LIBRAN)」のプレゼンテーションにお邪魔しました。植物が生い茂る小さな中庭で行われていたのですが、ちょうど晴れ間が見えて、心地よい気が流れる空間でした。ジュリーは2019年3月まで「ソニア リキエル(SONIA RYKIEL)」のクリエイティブ・ディレクターを務めていましたが、退任後に自身の名を冠したドレス中心のブランドを設立。今季で4シーズン目になりますが、過剰な在庫を抱えないために受注生産型にしているそう。提案するのも、いわゆる豪華なクチュールドレスではなく、日常に少し特別感を加える服というイメージです。

 今シーズンは、これまでに制作したデザインを出発点に、長年付き合いのあるフランス国内の小さなアトリエとの取り組みにフォーカス。中には過去のコレクションのアイテムに職人の手でアレンジを加えたものもあり、素朴なイギリス刺しゅうやキラキラしたビジュー装飾がポイントになっています。また、次世代に技術を継承していくことも重要と考えるジュリーは現在、マランゴーニのパリ校で教鞭をとっているのですが、コレクション制作には刺しゅう職人から指導を受けた学生も関わったそうです。

8日13:00 アエリス クチュール

 お次は、“サステナブルなアート・トゥ・ウエア”を掲げる「アエリス クチュール(AELIS COUTURE)」。ジョン・ガリアーノ(John Galliano)時代の「ディオール(DIOR)」などでキャリアを積んだイタリア人女性デザイナー、ソフィア・クロチアーニ(Sofia Crociani)によるブランドです。コレクションには、ビンテージウエアもしくは環境に配慮されて作られた素材のみ使用しているので、立ち上げ当時の17年は生地を見つけるのが大変だったそう。ですが、それから数年で素材メーカーの姿勢は大きく変わり、今ではずいぶん選択肢が広がったといいます。今回はイタリア製のシルクやコットンを中心に使い、ドレープを生かしたドレスを制作。トスカーナの雄大な草原で自然との共生を感じさせる映像を撮影しました。

 また今シーズンは、新たにNFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)にも取り組み、コレクションの中のドレス1着がNFTとリンクしているとのこと。「サステナブルな未来へと歩んでいくには、伝統的な技術を守ることだけでなく、クリエイティブな表現に新しいテクノロジーを活用していくことも重要」と話していたのが、印象的でした。今後は、クチュールも現実だけでなく、バーチャルの世界へと広がるかもしれません。

8日14:00 シャルル ドゥ ヴィルモラン

 ランチを食べる暇もなく向かったのは、「シャルル ドゥ ヴィルモラン(CHARLES DE VILMORIN)」のプレゼンテーション会場であるバカラメゾン パリ。コロナ禍に自身のブランドを立ち上げ、「ロシャス(ROCHAS)」のクリエイティブ・ディレクターにも抜擢された24歳のシャルルとは、どんな人物なのか気になります。会場で迎えてくれた彼は、物静かで繊細な雰囲気の青年。すらっとした長身で、過去にモデルをしていたというのも納得です。

 コレクションはと言うと、先シーズンの鮮やかな色を組み合わせたカラフルなクリエイションから一転、今季はほぼ黒一色にフォーカスしています。その理由を尋ねると、「カラフルな服を作るのは好き。だけど、そのイメージがブランドについてしまう前に、黒のコレクションで自分の異なる側面を見せたかった」そう。植物のような造形や大きなフェザー、プリーツを取り入れたドレス中心のコレクションからは、「アダムスファミリー(The Addams Family)」や「マレフィセント(Maleficent)」のようなダークでミステリアスな雰囲気が漂います。ディテールを見るとちょっと粗い部分があり、コスチュームっぽい印象も否めないのですが、今後に期待したい次世代のクチュールデザイナーです。

 今は、9月のパリ・ファッション・ウイークでの「ロシャス」のデビューショーに向けて準備を進めているそう。さらに、「自分のブランドのショーも開きたいし、ゆくゆくは自分のブランドのプレタポルテも始めたい」と意欲的なシャルルでした。

8日14:30 フェンディ

 車で移動中にデジタルで発表された「フェンディ(FENDI)」の映像をチェック。小説家ヴァージニア・ウルフ(Virginia Woolf)の「オーランドー(Orlando)」から着想したコレクションで1月に注目のクチュールデビューを果たしたキム・ジョーンズ(Kim Jones)は、どんなコレクションを見せてくれるのでしょうか。

 今季の出発点は、ローマの映画監督ピエル・パオロ・パゾリーニ(Pier Paolo Pasolini)の詩情あふれる作品。その世界を通して、フェンディの本拠地であるローマを探求したようです。「パゾリーニは近代化していくローマを目の当たりにした。時代をつなぎ、古きものと新しきもの、過去と現在を結びつけること、そこにこそ私は興味を引かれる」とキムが語るように、コレクションのポイントは異なる時代を重ね合わせるような手法です。例えば、1800年台半ばや1920年代に作られたドレスのファーやファブリックをスキャンして、シルクジャカードで表現。カットアウトやクリスタルビーズの刺しゅうを施し、新たなアイテムを生み出しています。また、「フェンディ」の象徴でもあるファーアイテムは、大半が再生されたものを使用しているそうで、タイルのような小さなファーパーツを並べたデザインも印象的でした。

 映像のセットに見られるアーチは、ブランドの本社を構えるイタリア文明宮を想起させますが、その形状はシューズのヒールにも。こういうキャッチーなアイデアを入れてくるところが、キムらしいですね。シルヴィア・フェンディ(Silvia Venturini Fendi)の娘であるデルフィナ・デレトレズ・フェンディ(Delfina Delettrez Fendi)が手掛けるジュエリーには、手彫りしたイタリア産大理石やマザーオブパールのモザイクが用いられています。

 ちなみに美しい映像は、映画「君の名前で僕を呼んで(Call Me By Your Name)」や「ミラノ、愛に生きる(Io sono l'amore)」で知られるルカ・グァダニーノ(Luca Guadagnino)監督が手掛けたもの。スローなカメラワークや意味深にカメラを見つめるモデル、神秘的かつ壮大な音楽でノーブルな雰囲気を演出しつつ、クローズアップを効果的に取り入れることで贅を尽くした服のディテールを伝えています。

8日15:00 エリー サーブ

 最後のアポは、レバノン・ベイルート発の「エリー サーブ(ELIE SAAB)」。2月中旬〜3月初旬に発表された2021-22年秋冬のプレタポルテで台頭した“オプティミスティック(楽観的で前向きな感覚)”で明るい未来への希望を込めたようなクリエイションは、クチュールでも顕著で、こちらもテーマは“希望の芽(Bud of Hope)”でした。ただ新型コロナウイルスだけでなく、20年8月に起こったベイルート港の巨大爆発事故による被害などレバノンが抱える苦難を乗り越えた先をイメージしたそうです。

 「エリー サーブ」のクチュールといえば、やはりレッドカーペットにも度々登場する装飾たっぷりの華やかなイブニングガウン。今季はテーマにちなみ、クリスタルやスパンコール、パール、刺しゅう、立体モチーフ、ラッフルなどさまざまな手法で咲き乱れる花を表現していました。63ルックあるコレクションはすべてベイルートのアトリエで仕上げて、パリに持ってきているそうです。

8日16:00 メゾン マルジェラ

 「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」は、デジタルでの発表と同時にシャンゼリゼ通りの映画館で上映会を開催したのですが、僕はフライトの時間が変えられなかったので諦めてオルリー空港へ。タクシーの中で見ようと思っていたら、今回も超大作のようで、めちゃくちゃ長い!なんと、まさかの1時間超え!!ということで、ベルリンに戻ってから家のテレビでじっくり拝見しました。

 「ア フォーク ホラー テール(A Folk Horror Tale、ホラーな民話)」と題された映像の冒頭の19分間は、今回もジョン・ガリアーノが今シーズンのクリエイションの背景について、饒舌に語ります。これは、もはや立派なドキュメンタリー作品!と思って見ていたら、そこからはジョンがコンセプトと脚本を手掛け、フランス人映画監督のオリヴィエ・ダアン(Olivier Dahan)が監督を務めた作品がスタート。フランス国内最大級のLEDスクリーンで仮想空間を作り出し撮影されたという同作は、昔の漁村のようなシーンから始まり、ミステリアスでSFホラーのようなストーリーが展開していきます(ネタバレになるので、気になる方はぜひ映像をご覧くださいね)。正直、1時間以上ある映像は、たとえファッション好きでもすべての人が見るわけではないと思います。ですが、コレクションの背景にこれだけのエピソードがあることを知り、その世界観に浸るということを、望む人全員が体験できるというのは、デジタル発表ならではですね。

 コレクションは、時の経過とともに魂が吹き込まれてきたものに敬意を表したもの。ジョンは歴史が染み込んだ年代的なものに宿る安心感や信頼性に現代の若い世代の切望や憧れの要素を見出し、それをアトリエの手仕事を生かして表現しています。例えば、穴の空いたセーターを修繕するように昔の新聞を刺しゅうしたり、チャリティーショップで売っているようなさまざまな人の記憶が宿るバンダナやエプロン、ウエアなどをパッチワークしたり。また今季は、「水分を絞り取る」という意味を持つ“エソラージュ(Essorage)”を新たなテクニックとして採用。8〜12倍に拡大したアイテムに酵素加工とストーンウオッシュ加工を施すことで、サイズを縮小させるとともに色や質感を変え、時の経過によってもたらされる着古した感覚を表現しているそう。実際のビンテージアイテムをアトリエが修復・復元したピースが今季も登場します。

 今回、パリでの現地取材を通してあらためて実感したのは、現代のクチュールはただ華やかな装飾があしらわれたドレスやフォーマルウエアだけではないということ。その解釈は広がり続けていて、共通しているのは、創造性の自由とモノづくりにおけるあらゆる要素を徹底的に追求できる“ぜいたくさ”だと思います。そこには、やはりファッションの“夢”や“真髄”があります。また縁遠いと思いがちなクチュールの世界ですが、芸術や文化としての価値は高く、実際にオーダーする顧客ではなくても見るものを引きつける魅力があると感じました。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員

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