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消費者は店に戻ってくる? コロナ後の“ニューノーマル”を生き抜くには

 イタリアやフランスなどを含む多くの国で外出規制が緩和されつつあり、小売店や商業施設も営業を再開し始めている。しかしオンラインで買い物をすることにすっかり慣れた消費者を、店舗に呼び戻すことは可能なのだろうか?コロナ後における小売店やブランドの“ニューノーマル(新たな日常)”について、専門家らの意見を紹介する。

 消費トレンド分析会社、WGSNインサイト(WGSN INSIGHT)のローラ・ソンター(Laura Saunter)=シニア・リテール・エディターは、「今後は販売員とのやりとりを最小限にしたいという消費者が増加する。そうした中で、ブランドや小売店は最高の買い物体験を提供するための工夫が必要となるだろう。特にデジタルと実店舗のシームレスな融合や効率的なオムニチャネルの展開、顧客を中心としたアプローチがカギとなる」と語った。また「ソーシャル・ディスタンシングを確保するため、一部のスーパーマーケットで行われているように、店内での動きを一方通行に制限する必要があるかもしれない。店内が混雑していない時間に来てもらえるよう、営業時間の変更もあるのではないか」と語った。

 コンサルティング会社アクセンチュア(ACCENTURE)のアンドレア・ルッツィ(Andrea Ruzzi)=ファッション部門 欧州担当マネジング・ディレクターによれば、新型コロナウイルスの発生前も小売業界は実店舗の改革に取り組んでいたが、その優先順位や方向性が全く変わったという。以前はパーソナライズされた接客やデジタルとの融合などが主な懸案事項だったが、現在は店内の衛生維持やソーシャル・ディスタンシングの確保、非接触型の決済方法の導入など、いかに顧客の安全を守るかが重視されていると話した。

 同じくコンサルティング会社PwCイタリア(PwC ITALIA)のエリカ・アンドレッタ(Erika Andreetta)=パートナー兼リテールおよびコンシューマー・コンサルティング・リーダーは、「短期的には販売員と顧客の安全確保が最優先事項となる。出入り口にサーモスキャナーなどの体温測定機器や消毒液を設置したり、マスクを用意したりすることのほかにも、販売員が担当する顧客の人数を考え直さなければならない。『ザラ(ZARA)』や『H&M』のようなマスブランドでも、一対一の接客が求められるようになる可能性がある」と指摘した。

 データ分析およびマーケティング会社ジャカラ(JAKALA)のパオロ・ペデルソリ(Paolo Pedersoli)=パートナーは、「店内に設置されている防犯カメラや室内向けの位置情報システム、ヒートマップなどで人の流れを観察すれば、各フロアで人が密集しがちな場所を洗い出すことができる。中長期的には、こうしたデータに基づいて店内のレイアウトを変更することを検討してもいいかもしれない」と提言した。

 小売業界向けのソリューション会社アプトス(APTOS)のニッキー・ベアード(Nikki Baird)=リテール・イノベーション部門バイス・プレジデントは、「レストランの予約アプリのようなものを利用して来店を予約制にすれば、客足をコントロールすると同時に、個別のサービスを提供できるようになる」と話した。

「安全な試着」が課題

 実店舗の存在価値の一つとして試着できることが挙げられるが、コロナ後の世界でこれをスムーズかつ効率よく行うためにはデジタルとの融合が重要になると、アクセンチュアのルッツィ=ファッション部門 欧州担当マネジング・ディレクターは言う。「顧客は試着したいアイテムを事前にオンラインで選び、店を訪れる日時を予約するという流れになるのではないか。その場合、顧客が最初にブランドの世界観に触れ、商品を目にするのはオンライン上ということになる。すでにその傾向はあるが、今後は質が高くエキサイティングなデジタルコンテンツを提供することがさらに重要になるだろう」。

 試着する場所そのものも、店頭から自宅へと変化すると予想する専門家もいる。安全性の問題で、試着室を使いたがらない消費者が増えるかもしれないからだ。一方で、自宅で試着した商品が大量に返品されるという懸念もある。

 ジャカラのペデルソリ=パートナーは、「試着の必要性がなくなることはない以上、いかにECが発展しようと店舗がなくなることはない。またラグジュアリーブランドの場合、全てがデジタル化されてしまうと、顧客はその値段に釣り合うだけの特別なサービスが受けられなくなるという面がある」と説明した。

デジタル化と同時に重要なのは「人間味」

 この危機的な状況によってデジタル化がいっそう進むことは間違いないが、どれほど未来的なツールが開発されようとも、買い物体験の核が“顧客と販売員のやりとり”にあることは変わらない。コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニー(BAIN & CO.)のフェデリカ・レバート(Federica Levato)=パートナー兼グローバル・コンシューマー・プロダクツ&リテール・プラクティス部リーダーは、「これからの販売員は、ただモノを売るのではなく、顧客を楽しませて引きつけるエンターテイナー的な役割を期待されるようになると思う」と述べた。

 中国では実際に店舗にいるような体験ができるバーチャルショールームや、インフルエンサーらがライブ配信をして商品の説明をする販売手法がすでに定着しているが、ほかの市場でも今後はそれが“ニューノーマル”となっていくかもしれない。例えば、デジタルプラットフォーム経由でブランドや小売店のECサイトに行き、そこにいる販売員と商品やトレンド、サイズなどについてオンライン上で直接話して、気に入ればそのまま購入できるという仕組みなどが考えられる。こうしたシステムを活用すれば、販売員が顧客により積極的なアプローチをしたり、実店舗への来店を促したりすることもできるだろう。

 ジャカラのペデルソリ=パートナーは、「コロナ後の“ニューノーマル”な世界で生き残れるビジネスにするためには、アプリを入れたり、どこかのテック企業と提携したりするだけでは駄目だと理解しなければならない。店舗の在庫管理、デジタルコンテンツ、EC、顧客データなどをうまく組み合わせ、スムーズに機能する“新たなシステム”を構築する必要がある。既存の組織構造ではできることには限界があるため、そうしたところから見直さなければならないだろう」と説明した。また「衛生上の問題から現金払いを嫌う消費者が増え、モバイル決済や非接触型決済の導入がいっそう進むことは想像に難くない。販売員が決済機器を持っていれば店内のどこででも会計することが可能になるため、レジカウンターが必要なくなり、そこに並ぶことによる感染リスクもなくなる」と述べた。

 PwCイタリアのアンドレッタ=パートナー兼リテール&コンシューマー・コンサルティング・リーダーは、「さまざまなデジタルツールが開発されて便利な世の中になったが、ファッション業界に関して言えば、いまだに売り上げの85%は実店舗によるものだ。人間が社会的な存在であり、他者とのつながりやエンターテインメント性を求める生き物である以上、今後もECより実店舗のほうが優勢であることに変わりはない」と話す。

 一方で、ベイン・アンド・カンパニーのレバート=パートナー兼グローバル・コンシューマー・プロダクツ&リテール・プラクティス部リーダーは、「ECの浸透率が35%を超えると、実店舗の売り上げを食うようになってくる。ラグジュアリー業界における現在のEC浸透率は12%程度だが、5年後には25〜35%になると当社では予想している。将来的に実店舗がなくなることはないにせよ、その役割は大きく変わるだろう。買い物をする主要な場所ではなく、実験ハブになるのではないか」との見方を示した。

 ジャカラのペデルソリ=パートナーは、「ブランド品やラグジュアリー製品には象徴的な価値があり、それには店舗やイベントでの特別な体験や、そのブランドだと分かるパッケージなどが寄与している。店で大切な顧客として扱われ、ゆったりとした時間を過ごすのは誰にとっても心地よい体験だ。そうした人間味や感覚的な部分を、テクノロジーで置き換えることはできない」と述べた。

 ラグジュアリーブランドはそもそも顧客に特別な体験やパーソナル化したサービスを提供することに慣れており、例えばアプリによる予約制などを導入して、今後も安全に店舗を運営していくことができるだろう。問題は中価格帯から低価格帯のブランドだ。同氏は、「現在のほとんど個性がない接客から、顧客ごとにパーソナル化した接客へと変えていく必要がある」と説明した。

 アクセンチュアのルッツィ=ファッション部門 欧州担当マネジング・ディレクターは、「アパレルブランドはこれまで、一等地や大規模な商業施設に出店したり、店舗数を増やしたり、より広く豪華な店にすることに注力してきた。しかし今回のパンデミックの影響でECがさらに台頭し、店舗から試着室やレジカウンターがなくなり、季節商品やいくつかの売れ筋商品を展示する場となった場合、果たして今までのように広い売り場は必要だろうか?」と疑問を呈した。

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