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日本の百貨店もリセールをする時代がくる? EC化率30%のノードストロームに見る“百貨店の未来”

 2月上旬にニューヨークに出張した際、2019年10月にセントラルパーク南西に新規開業した百貨店、ノードストローム(NORDSTROM)のウィメンズ館を訪れました。同店は全米に100店舗以上ありますが、マンハッタン進出はこれが初(18年に先行オープンしていたメンズ館とそれ以前からあったオフプライス業態のノードストローム ラックは除く)。NYの百貨店でまず思い浮かぶのはサックス・フィフス・アベニューやバーグドルフ・グッドマンですが、ノードストロームはそれらの老舗高級百貨店とは毛色が違います。日本では百貨店というビジネスモデルの不調が叫ばれるようになって久しく、地方店の閉店も相次いでいます。そんな中で、ノードストロームには“百貨店の未来”像をビシバシ感じたのでご紹介します。

 ノードストロームが他の百貨店と違う点、その第一はECと実店舗のシームレスな設計です。「WWDジャパン」のこれまでの報道によると、同社のEC化率は30%。参考までに高島屋の19年2月期のEC化率を計算してみたところ、2.4%でした。国土が広く、あらゆる分野の小売りでEC化が進むアメリカ企業と日本の百貨店を比べるのはフェアではないかもしれませんが、数字で見るとその違いは歴然ですよね。

 EC化率の高さと直接関係あるかは分かりませんが、ノードストロームの創業地シアトルはアマゾンのお膝元でもあります。旧来型のファッションや小売りの世界でガリガリ邁進してきた老舗百貨店(日本の百貨店も含む)と、アマゾンの急成長を真横で見てきた百貨店とでは、そりゃあマインドセットも目指す方向も違ってくるよな、と妙に納得しました(8年ほど前にシアトルでノードストロームを見たときはよくある普通の百貨店だったので、この数年での変化が著しいんだと思います)。

 ノードストロームの店頭で、オンラインと実店舗のシームレスを象徴的に感じた事例が、ウィメンズ館地下に大きく設けられたEC購入商品のピックアップカウンターです。EC購入商品が詰められたショッパーやガーメントケースが並んでいて、あまり広くはないメンズ館にも地下に同様のスペースがありました。「ECなら、店頭でピックアップするより自宅まで届けてもらった方がラクでは?」と、日本人なら思います。でも、物流会社に日本の佐川急便やヤマト運輸みたいなきめ細かいサービスが望めないアメリカでは、店頭ピックアップの方が客にとって都合がいいんですね。もちろん自宅配送も可能ですし、追加料金を払えば当日配達も受け付けていました。

 クリック&コレクト(店頭受け取り)の整備と共に、ECでキモになるのが返品への対応です。返品の流れやオペレーションがスムーズでないと、消費者側は購入が面倒になるし、お店側も販売ロスが発生してしまう。ノードストロームのウィメンズ館には、1階雑貨売り場(催事売り場横の結構いい場所)に返品を受け付けるサービスカウンターがありました。売り場にすればもうかるであろうこの場所を、返品カウンターに割くなんて!と驚きです。さらに、カウンター横には返却ポストも有り。「カウンターに行列ができている時は、そこにあるQRコードにアクセスして、そこからサイト上で手続きして返品したい商品をポストに入れるだけ。便利でしょ?」とスタッフは言っていましたが、この発想、ネット業界の人があらゆる場面で使う“ユーザビリティー”という概念そのものだなーと感じちゃいます。

 実店舗でクリック&コレクトや返品ができるのは確かに便利ですが、そうは言ってもノードストロームがあるのはマンハッタンの北の方。マンハッタンは縦に長いので、「店まで行くのは遠い」というお客さんも多いはずです。ノードストロームはそこにも先手を打っています。ノードストローム ローカルというサービスカウンターをマンハッタン内ではアッパーイーストとウエストビレッジに設けて、クリック&コレクトや返品に対応しています。ウエストビレッジのノードストローム ローカルをのぞいてみましたが、ソファがあってちょっと広いおしゃれなクリーニング店のような空間。物販はしていないし、言われなければ百貨店の関連施設だとも気付かないくらいです。購入商品の裾上げなどにもその場で対応していました。

 ノードストロームにはオフプライス業態のノードストローム ラックもあり、マンハッタンには2店があります。私は2年半前に初めてユニオンスクエアのノードストローム ラックを訪れた際、あまりにも大量の服や靴が並んでいるのを見て衝撃を受けました。「オスカー デ ラ レンタ(OSCAR DE LA RENTA)」や「ラグ&ボーン(RAG & BONE)」「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」などの同じ品番がラックにぎゅうぎゅうに掛かっていたんです。「服ってこんなに売れ残っているのか……!」「しかもこんな都心のど真ん中で安売りしてるのか……!!」と、驚いたんですが、今回の出張ではヘラルドスクエア近くのノードストローム ラックを視察。大量に服や靴が詰まっている光景は以前と変わらずでしたが(今回は「ヴァレンティノ(VALENTINO)」の“ロックスタッズ”バッグを見付け、ザワつきました……)、ここで注目したいのはノードストローム ラック店頭でもクリック&コレクトや返品を受け付けていたこと。オフプライス店としてだけでなく、ノードストロームのオムニコマース推進のための出先機関という面もあるんですね。

驚愕!同じ商品をリセールでも新品でも販売

 さて、ノードストローム ウィメンズ館に話を戻します。同館で私が驚いた点がもう一つありました。それはリセール(中古品販売)の売り場があったこと。中2階の「SEE YOU TOMORROW」という売り場がそれなんですが、スタッフさんいわく2月上旬にオープンしたばかりだそう。NY出張中、現地の小売りをいろいろとまわってみてリセール市場の活況が想像以上だと感じましたし、既存小売りもそのムーブメントをいかに取り入れるか模索しているという印象を強く受けていましたが、まさか百貨店までリセールに参入しているとは!と心底驚きました。

 日本では、百貨店がリセールに乗り出すなんて正直考えられないですよね。三越伊勢丹ホールディングスの杉江俊彦社長が、18年11月の会見で将来的な事業計画案の一つとしてリセールをあげてはいましたが、具体化している百貨店は日本には恐らくないと思います(リセールというのではなく、単なる“古着の催事”みたいことは以前伊勢丹新宿本店でやっていましたが)。

 ノードストロームのリセール売り場で実際に売られていたのは、「セルフ-ポートレート(SELF-PORTRAIT)」や「マイケル・コース(MICHAEL KORS)」「ヴェルサーチェ(VERSACE)」など幅広いブランド群。プレミアムデニムのコーナーに、「マウジー ヴィンテージ(MOUSSY VINTAGE)」もありました。バッグや靴は「バーバリー(BURBERRY)」「バレンシアガ(BALENCIAGA)」「バオバオ イッセイ ミヤケ(BAO BAO ISSEY MIYAKE)」など、名前を挙げだしたらきりがありません。お菓子やドリンクも売っていてソファもあり、商品を見つつ休憩もできるような雰囲気のよい空間でした。

 面白かったのは、全商品の下げ札にQRコードが付いていて、そこからノードストロームのEC上の「SEE YOU TOMORROW」のサイトに飛べること。そこではリセール価格と共に、かつて新品として売られていた時の価格も確認できます。たとえば、「バレンシアガ」のポインテッドトーのチェック柄ミュールは、新品時の価格は795ドル(約8万7450円)で、リセール価格では458ドル(5万380円)。数字がハッキリ分かるとお得感が高まりますよね。とは言え、私が見た中で一番高額だった「ジャンバティスタ ヴァリ(GIAMBATTISTA VALLI)」のドレスはリセール価格でも3325ドル(約36万5750円)と、高いものはリセールでも高いんですけどね(元値は4750ドル=52万2500円)。

 そして、ここが日本の百貨店がリセールに乗り出す上で一番の難しいポイントだと思うんですが、同じ館の中で新品とリセールの同じブランド・同じ商品を扱っているんです。たとえば、「カナダグース(CANADA GOOSE)」のダウンコートはリセール売り場でも新品フロアでも扱っていました。そうなると、価格の点から消費者はリセールの方を選んでしまいそうですよね。こうした売り方が可能なのは、アメリカの百貨店は買い取り仕入れが主流だからなんだと思います。「われわれが買い取った商品をどう売ろうが、文句ないでしょ?」という発想です(そもそも、ノードストローム ラックというアウトレット業態を都心のど真ん中に出せるのも、買い取り仕入れだからこそとも言えます)。日本の百貨店は消化仕入れ(厳密に言うと違いますが、ほぼ委託仕入れのようなもの)が主流なので、これが難しい。新品とリセールとで店内に同じ商品が並ぶのを恐らくメーカー側が許さないし、百貨店側も買い取ってない以上、強く出れませんから。

 「SEE YOU TOMORROW」スタッフは、「いらなくなった服があれば電話で予約をして、IDカードと一緒に持ち込んでくれれば鑑定します。買い取り代金はノードストロームの店頭やECで使えるクーポンで払うよ」と言っていました。ちなみに、私が行った時は急成長中のデンマークブランド「ガニー(GANNI)」を売り場でプッシュ中で、コーナー展開していました。こういうふうに売り場を編集をしているともはやリセールショップというより普通のセレクト店みたいな感覚で、「ああ、こういう感じが今後は売り場の“普通”になっていくのかもな」という印象を受けました。

 長くなってしまいましたが、以上が私がノードストロームで感じた“百貨店の未来”でした。取り引き形態の違いもあって、日本の百貨店がすぐ取り入れられるような部分は少ないのかもしれません。でも、時代が変わっている以上、新しいことを模索しなければ取り残されるだけ。バーニーズ ニューヨークの破綻やメイシーズの125店閉店報道などで古い小売りの手法が通用しなくなっていることが改めて鮮明になった分、ノードストロームのチャレンジ精神が際立っていると感じたNY出張でした。