「トム ブラウン ニューヨーク」2012-13年秋冬ウィメンズコレクション
トム・ブラウンは希代のショーマンとして米ファッション界に出現した。彼のランウエイに登場する度肝を抜くような作品は、美しいまでに非現実的で、大抵の場合“まとも”とはかけ離れている。彼の頭はアイデアで満ち溢れているようだが、それらをどこから得たかを話してはくれそうもない。ペンシルバニア出身の品行方正なカトリックのスクールボーイは、話すことよりも見られる方が好みなのだ。
「どうしてこれをやる人がもっと増えないのか、全く理解できないね」とトム・ブラウンは、彼の有名な“習慣”を引き合いに出していう。彼が話しているのは、今では彼のユニフォームでありアイコンともいえる“短丈”スーツでもないし、ほぼ毎晩たしなむ、1杯の冷やしたシャンパンでもない。その“習慣”とは、年2回、入念に作り上げたコレクションでランウエイショーをすることなのだ。そのショーでブラウンは、尼僧たちが厳かな儀式の中、2人の男性モデルの手によって修道衣から解放される様子を描いたり、精神病院でファンタスティックにキメた受刑者たちの様子を描いたりする。彼のランウエイからはその生き生きとしたイマジネーションを垣間見ることができるが、同時にかすかな狂気の香りも嗅ぎ取れる。
彼は今でも、主に10年前に風変わりなショートスーツを提案したメンズウエアのデザイナーとして知られている。「メンズよりもさらに『見たい!』と思わせるものを作らなければならない」と語る彼のウィメンズに対する関心は、まさにスタート当初から沸騰していた。「美しくテーラリングされたジャケットやトラウザーやドレスを身に着けた女性ほど目に優しいものはないね」。彼のテーラードピースは、シルエットは徹底的にクラシックながら、素材はとんでもなく斬新だ。ミンクでトリミングされたギピュールレースや、ホースヘアでトリミングしたメンズ素材、さらには3-Dフラワーのアップリケを駆使する。また、2015-16年秋冬コレクションは、古臭い死体安置所を背景に悲哀溢れるビクトリアンロマンスが繰り広げられ、このシーズンで最も称賛され、話題になったショーの一つになった。それまでのコレクションよりもセンシュアルで、本人も自分の“安全地帯”ではないと認めているドレスに重点が置かれた同ショーは、彼にとってのターニングポイントになった。
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“制服”への愛が生まれたのは?
PROFILE:アメリカ・ペンシルバニア州生まれ。メリランド州ノートルダム・カレッジでビジネスを専攻。2001年にカスタムメードの洋服を作り始め、04年春夏コレクションにプレタポルテ・コレクションを発表。06年、CFDAメンズ最優秀賞を受賞。07年秋冬、ブルックス ブラザーズに招聘され、新ライン「ブラック フリース」のメンズ、ウィメンズのデザインを担当する。09年には「モンクレール ガム・ブルー」のクリエイティブ・ディレクターに就任。現在に至る
“ユニフォーム”は彼の美学の核心だ。ワークアウト中とベッドタイムを除いて、彼自身が“不可欠”と決めたアイテムに身を包んでいない時間は皆無だ。スリムフィットのテーラードショーツ、わざとしわくちゃにしたオクスフォードシャツ、タイ、そしてブレザー。大人版スクールユニフォームだ。スタッフも同じ装いをしている。スタッフのこの服装は“決まり”なのかを問うと、ブラウンはほほ笑んで「ここで働くスタッフには、この服装を好んでほしいんだ」と答えた。どうしても?と聞くと「申し訳ないが、この点については譲れない」。
ブラウンはペンシルバニア州アレンタウンで育ち、カトリックの学校に9年生(日本でいう中学)まで通い、その後ノートルダム大学で学んだ。カトリックの伝統はいまだに、ブラウンのデザインや彼のショーの一貫したテーマやセットに影響を与えている。「私は今でもカトリックであるということが本当に好きなんだ」。
“オブセッション(強迫観念)”はブラウンを語るうえで頻出する言葉であり、公私ともにわたる彼の厳密な“習慣”は、プレスにとって格好のネタだ。彼はルーティンと規律を重んじており、彼自身及び彼のブランドのイメージについて強迫観念を抱いている。「ファッションは、自分が人々に見せたいものをはっきりとわかっている人物を必要としている。私が極めて明確に認識しているのは、人々が何を見たいかだ。ファッションやデザインが毎シーズン変わるべきだという考えは馬鹿げているよ」。彼のイメージは究極まで計算されているが、コレクションは自身の虚栄心を顕示するようなプロジェクトではない。「ただショッキングにしたいというだけで、何かを無理やり組み合わせたり、妥協したりは絶対にしない。あくまでコンセプトにのっとっているんだ」。
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売上高は過去3年間で4倍に
09年にブラウンは社の過半数株式を日本のクロスカンパニーに売却した。だが、彼はかなり自由に独自の道を追求することを許されている。彼のスケールのショーを開催するのは、決して“安い”とはいえない。「クロスカンパニーはとても理解があり、われわれスタッフに全て任せてくれる」。半年前にはハンドテーラリング工場を買収した。7月のニューヨーク・ファッション・ウィークメンズでは、この工場で製作されたメード・トゥ・メジャー・スーツのコレクションを発表。これでブラウンは、“メード・イン・ニューヨーク”の最高レベルの製品を生産する手段を確保できたのだ。
また、初のプレコレクションも発表した。同コレクションは売り上げに多大な貢献をした。「トム ブラウン ニューヨーク」は路面店をニューヨーク、南青山、香港に構え、ショップ・イン・ショップは14店。売上高は公表しないが、過去3年間で4倍になったという。業界関係者は売上高を6000万〜7000万ドル(約72億〜84億円)と見ている。さらに、彼はライセンスビジネスにも興味を持っている。現在はディータが手掛けるアイウエアのみだが、将来的にはメンズおよびウィメンズのフレグランスも考えているという。アクセサリー、シューズは今後もインハウスで製作するつもりだ。
「ブラック フリース バイ ブルックス ブラザーズ」が15-16秋冬シーズンで休止することになったことについては、「ブルックスブラザーズの世界観にぴったりだったのに」とがっかり感を露わにした。だが、彼には手掛けてみたいブランドが他にあるのでは?と聞くと「ひとつだけあるよ。とても特徴的なブランドで、できるものなら是非デザインしてみたい。今はウィメンズがほとんどだけど、メンズもいけるんじゃないかな」。ブラウンはそれだけ言って口を閉じた。
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