ファッション

日本の工芸をジュエリーで世界へ パリでデビューした「アークエルフ」の伝統技術を未来につなぐ挑戦

PROFILE: 藤井由香里「アークエルフ」創業者兼デザイナー

 藤井由香里「アークエルフ」創業者兼デザイナー
PROFILE: (ふじい・ゆかり)京都府出身。テキスタイルデザイナーの母や呉服に携わる親族の影響で、幼少期から織物や工芸に親しむ。「イッセイ ミヤケ」で販売やVMDを経験した後、編集者・ライターとして独立。日本各地の工房や職人への取材を通じて伝統技術の継承が抱える課題に触れ、工芸の継承を支える持続可能な仕組みを作るため26年1月にアークエルフを設立

パリの国際ジュエリー展示会ビジョルカ・パリ(Bijorhca Paris)でデビューを飾った日本発のジュエリーブランド「アークエルフ(ARCELF)」は10月31日まで、東京・南青山の展示スペース、シグナルで国内初となる展示会を開催している。

藤井由香里「アークエルフ」創業者兼デザイナーが掲げるコンセプトは、「日本の工芸を現代のジュエリーとして再編集する」こと。各地で受け継がれてきた工芸の技術や、モノ作りの現場で出合った風景を着想源に現代のジュエリーへと昇華させる。例えば、ファーストコレクションの“ツヅレ ルーズエンド(TSUZURE - Loose End)”では、京都・西陣に伝わる西陣爪掻本綴織(にしじんつめかきほんつづれおり)に着目。職人の手仕事や織物の繊細な表情、工房に並ぶ絹糸の風景などからインスピレーションを得て、独自のジュエリーデザインへと落とし込んだ。

パリでのデビューとポップアップに大きな手応えを感じたという藤井。「ジュエリーを通して日本の工芸の魅力を世界に伝え、職人に仕事や対価が還る循環を生み出したいという思いが一層強くなった」と語る。ブランド立ち上げの背景やファーストコレクションの制作秘話、職人との協業を通じて目指すモノ作りのあり方まで、詳しく話を聞いた。

WWD:「アークエルフ」を立ち上げたきっかけは?

藤井由香里「アークエルフ」創業者兼デザイナー(以下、藤井):ファッションの編集者・ライターとして活動する傍ら、日本のモノ作りや工芸文化を発信するウェブメディア「ジャパン メイド」を通じて、日本各地の工房や職人を訪れる機会があった。その中で、素晴らしい技術や文化がある一方、それを担う職人が減っているという現実を目の当たりにした。記事を書いて発信することにも意味はあるけれど、もっと根本的なところからモノ作りの現場に関わりたいという思いが強くなっていった。職人の技術や工芸の魅力を新しい形で届けることで、モノ作りの現場にも継続的に仕事が生まれる。そんなブランドを作りたいと考えたことが出発点だった。

WWD:数ある表現方法の中で、なぜジュエリーだったのか?

藤井:ジュエリーは、長く使い続けられるもの。流行が変わっても、何十年後も身に着けることができるし、次の世代に受け継ぐこともできる。自分がモノ作りをするなら、そうやって時代を超えて残っていくピースを作りたいという思いがあった。以前仕事でジュエリーの世界で活躍する方を取材した際、ジュエリーを通して職人との協業や社会的な取り組みができることを知り、とても刺激を受けた。もともとジュエリーは美しい装飾品として好きだったけれど、文化や技術を未来につなぐ存在としての可能性を信じてジュエリーを選んだ。

WWD:具体的に、どのように工芸文化へ貢献したいと考えている?

藤井:目指しているのは、工芸を守るだけではなく、今を生きる人達が純粋に美しいと感じ、欲しいと思って選ぶことで、次の仕事が生まれていく仕組みを構築すること。工芸によって協業の形は違うけれど、職人にきちんと仕事や対価が還っていくことを大切にしたい。日本各地の工房を訪ねる中で、技術を学びたい若い人がいても、経営面などの理由から受け入れる余裕がない工房もあるという現実を知った。だからこそ、ブランドの仕事を通して工房に継続的な収益が生まれて新しく一人を雇えるようになったら、それだけでも大きな一歩だと思う。その一人が技術を学び、次の世代へとつないでいく。将来的には、若い人と熟練の職人をつなぐような取り組みにも挑戦してみたい。日本には、まだ世界に知られていない素晴らしい技術や文化がたくさんある。ジュエリーを通してその魅力を届けながら、職人の次の仕事につながる循環を、日本各地に少しずつ広げていくことを目標としている。

WWD:ジュエリー制作はどのように学んだ?

藤井:学生時代は4年間、服飾造形を学んでいたため、デザイン画を描いたり、立体裁断から洋服を作ったりする経験はあった。ただジュエリーはまったく別の世界。ブランドの構想を本格的に始める少し前から、東京のジュエリースクールに通い、CADを使ったデザインの設計などを学び始めた。ジュエリーは0.1mm単位で印象が変わるため、頭の中で思い描いたデザインを具現化するのが本当に難しかった。でも山梨・甲府で出会ったジュエリー職人の方々が私の思いに共感してくださり、彼らに助けられながら何度も試作を重ねて形にしていった。職人と一緒に試行錯誤してきたからこそ、今のコレクションが生まれたと思う。

WWD:ファーストコレクションで協働した西陣爪掻本綴織との出合いは?

藤井:最初のコレクションは、私が生まれ育った京都から始めたいと思っていた。母はテキスタイルデザイナー、親族にも呉服に携わる人がいるため、幼い頃から着物や織物は身近な存在だった。そんな私にとって特に忘れられないのが、「ジャパン メイド」の取材で出合った西陣爪掻本綴織の技術だった。職人が自らの爪先をノコギリの歯のように細かくヤスリで刻み、その爪を道具として緯糸(よこいと)を1本1本かき寄せて柄を織り上げるという、気の遠くなるような手仕事に驚いた。ファーストコレクションの着想源となったのは、工房・奏絲綴苑(そうしつづれえん)で出合った技術や風景。工房を主宰する平野喜久夫さんは、15歳でこの世界に入り、72年にわたって綴織と向き合い続けてきた方。実際に工房を訪ね、制作の様子を見せていただいたり、お話を伺ったりする中で、完成した織物の美しさはもちろん、制作過程や道具、工房の何気ない風景にもたくさんの魅力を感じた。

WWD:それをどのようにジュエリーのデザインへと落とし込んだのか?

藤井:工房には、何十色、何百色もの絹糸が小さな巻糸になって並べられていて、その不揃いに重なり合う風景がすごく美しかった。一方で、完成した織物には繊細な光のグラデーションがある。その二つの美しさを金属でどう表現できるだろうと考えたところから生まれたのが、ブランドのシグネチャーとなる“ツヅレ(TSUZURE)”リング。何本ものバーを連ね、それぞれに異なる表面加工を施すことで、光の反射に微妙な変化をつけている。ダイヤモンドもさりげなく配置して、主張は控えめでも、身に着けると存在感のあるデザインを目指した。花のように見える“ツヅレ ブルーム(TSUZURE Bloom)”も、実は特定の花をモチーフにしたのではない。工房に積まれていた絹糸の束が、私には花のように見えたことから生まれたデザイン。“オリ(ORI)”リングは、爪掻本綴織の表と裏に同じ柄が現れる構造から着想を得ている。通常のリングは内側をフラットに仕上げることが多いけれど、これは内側にも外側と同じ加工を施している。織物の見た目を再現するのではなく、こうした構造や細部に宿る美しさまで、ジュエリーとして表現したいと思った。

WWD:ブランドのデビューの場にパリを選んだ理由は?

藤井:日本のクラフツマンシップに対する理解やリスペクトがあり、モノ作りの背景のストーリーや哲学にも関心を持ってくれる人が多い場所で発表したいと思っていた。とはいえ立ち上げたばかりのブランドなので、もちろん不安もあった。自分が大切にしてきたコンセプトやジュエリーが、海外の人達にどう受け止められるのか、実際に見てもらうまではわからなかったから。でも結果的には想像以上にいい反応で、パリを選んでよかったと感じている。

WWD:パリで特に印象に残った反応は?

藤井:一番嬉しかったのは、ジュエリーを見る前に「なぜこのブランドを始めたの?」「どんなコンセプトなの?」と聞いてくれる人が多かったこと。バイヤーの方も一般のお客さんも、まずブランドの背景に興味を持って、そのストーリーを聞いてからジュエリーを手に取ってくれる。それが私にとってはすごく理想的だった。ジュエリー自体も、日本ならではの繊細さやミニマルなデザインを評価してくださる方が多かった。パリ在住の方はもちろん、ロンドンやアメリカ、上海など、世界各地から訪れた人たちの反応を直接知ることができたのも大きな収穫。最初は本当に不安だったけれど、今はほっとしているし、これからの可能性も感じている。

WWD:今後の展望は?

藤井:国内初の展示会を皮切りに、日本でもお客さんやバイヤーの方々に直接ジュエリーを見てもらう機会を増やし、ブランドの基盤を築くことを考えている。また、今回パリで発表したことで、海外展開への思いもさらに強くなった。アメリカや香港、ドバイなどからも関心を寄せていただいているため、今後はそれぞれの地域での可能性も探っていきたい。次のコレクションでは京都の漆職人との協業を進めている。コレクションごとに一つの工芸とじっくり向き合いながら、ジュエリーを通して日本のモノ作りの魅力を世界に届けていく。職人の新たな仕事や次世代への技術の継承につながるようなブランドに育てていけたらと思う。

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