PROFILE: 長谷川あかり/料理家、管理栄養士
料理家・長谷川あかりがつくった料理を、FRUITS ZIPPER・鎮西寿々歌が食べる——「天才てれびくん」(NHK Eテレ)に「てれび戦士」として出演して以来、20年近くの仲である2人が、何気ない会話をしながら食卓を囲む番組「たべるししゃべるし」(全4回)が、9月19日からテレビ東京で放送されている。
料理家でありながら、料理をすることやおいしさのみに絶対的な価値を置かず、現代におけるさまざまな生活のあり方を見つめ、新しい家庭料理の形を生み出し続けている長谷川。日頃の活動やこの番組を通して、家庭料理の景色をどのように変えていこうとしているのだろうか。
長谷川と、同席した番組プロデューサーの大森時生に話を聞いた。
20年来の親友との共演
——料理家として料理番組などには出演されていますが、今回の番組は長谷川さんのパーソナルな面が出る内容ですよね。
長谷川あかり(以下、長谷川):自分が自分として普通に喋っていい場をテレビでつくっていただけるとは思っていなかったので、まだ夢のようです。
——プロデューサーの大森さんは「TXQ FICTION」シリーズなど、モキュメンタリーの印象が強いですが、もともと面識はありましたか?
長谷川:今回初めてご一緒させていただきました。大森さんが手掛けている番組の存在は知っていたんですけど、大森さんがやっていらっしゃるとは知らなくて。ムック本の担当編集者の人に、「今度テレ東さんで寿々歌と番組をやることになって、プロデューサーが大森さんという方なんだよね」という話をしたら「ホラーですか?」と(笑)。その時に大森さんってそういうイメージの方なんだと知りました。番組の情報が発表された時にも、「モキュメンタリーなのかそうじゃないのかどっちだ」という反響がSNSでたくさんあって「もしかして知らない間にホラーに参加していたのでは」と、ドキドキしました。最近は大森さんについて勉強しようと思って、大森さんのポッドキャスト(小説家・小川哲と大森時生によるポッド「勉強人」)を聴いています。
——大森さんは今回なぜ長谷川さんと鎮西さんにオファーをされたんですか?
大森時生(以下、大森):今、僕の中で「生活」が熱いんです。うちは妻も僕もすごく忙しくて、3週間に1回一緒に料理を食べられるかどうかなんですけど、妻が長谷川さんのレシピをつくってくれた時に、妻が感じている喜びみたいなものを見て、「生活」というものの熱さを感じて。そんな中でやっぱり長谷川さんの料理がすごすぎると思ったんです。長谷川さんの料理は生活との設置面がシームレスであることが魅力的に感じるので、長谷川さんが料理をつくりながら生活している状況を番組にするなら、親友の鎮西さんといる時がいいだろうと思って、お2人にお声がけしました。
——長谷川さんは、友人である鎮西さんと一緒の番組ということについてはいかがでしたか。
長谷川:最初に出会ったのは彼女が小5で、私が中2の時なので、幼なじみみたいなものなんです。そんな関係の寿々歌と、料理家になった先に2人でご飯を食べているところがテレビに映ることになるとはまったく想像できていなかったので、不思議な感覚です。収録中も「あれ、ここって本当に私の家なのかも?」と錯覚しそうになりました。
——番組を拝見していても、本当の家のように見えるぐらい長谷川さんの所作が自然でした。
長谷川:調理器具などの置き場所も含めて、スタッフの皆さんにすごく細やかに気を配っていただいて。カメラがどこにあるかもあんまりわからないようになっていたし、撮影中はスタッフの方が誰もその場にいなかったので、なかなか異様な空気でした(笑)。「本当にこの形でやるんだ」と思って最初はちょっと緊張しましたね。
——台本もないとお聞きしました。
長谷川:寿々歌と話す内容は、ほぼほぼ脳からそのまま口に出ているだけだったので、「大丈夫かな」と収録のあと寿々歌が心配していました。
——「たべる」とともに、「しゃべる」もこの番組の大事な要素ですね。
長谷川:私は知らない人の脈絡のない会話を聴くのが結構好きなんです。自分の人生とまったく違う文脈を持って、まったく違うところで普通に生活している人の生活を見られるのって結構特殊な状態だと思うので、それで言うとこの番組はわりと特殊ですよね(笑)。そういう意味でのときめきもある番組なんじゃないかなと思います。
「生活の中の料理」
——番組内でつくる料理についてはどのように決めましたか?
長谷川:「ジャズでつくるものが一つあると嬉しい」とは大森さんから言われていたので、自分1人でつまむものは、その場の思いつきでぱぱっとつくりました。
大森:「ジャズ」っていう言い方をしたかどうかちょっと記憶にないんですけどね(笑)。即興で何か作ってほしいとは言ったかもしれないです。
長谷川:あと、寿々歌がすごく餃子が好きなので、一緒につくれたら嬉しいなと思って初回は餃子にしました。もともと餃子パーティーをしようねとずっと言っていたから、ラッキーでした。
——初回の放送で、切りすぎてしまったサラダ用のかぶを餃子のタネに入れてしまうのが、料理番組などではなかなか見られない生活感のある場面でした。
長谷川:料理家の仕事をしながらも、料理家が料理をきっちりしたものにしすぎているのではという罪悪感があって。間違えたり、余ったものを適当に入れたりするのが生活の中の料理ですよね。こうして前後の流れも含めて映像でしっかり撮っていただくようなことは、普段の料理家としての動きではなかなかできないので、ありがたく餃子にかぶを入れさせていただきました。
自分のために料理をすること
——鎮西さんが来る前に、長谷川さんが自分のためだけにつくって食べる時間があります。自分のためだけに料理をつくることについて、長谷川さんはどのように考えていますか?
長谷川:私は誰かと味を共有したい気持ちもあるので、自分のためだけにつくって食べることが実はすごく得意なわけではないんです。でも自分のためにつくっているという事実が大事なときもあって、スキンケアみたいな感覚ですね。例えば初回でつくったゆで卵の薬味サラダは、料理らしい料理というよりは、「卵はこの茹で加減が好き」「薬味の香りが好き」という自分の好き嫌いを一つひとつ合わせていった、自分のためだけの食べものなんです。すごく美味しいと思ったら寿々歌にもつくったと思うんですけど、本当に自分本位につくったので、ほかの人にとってもスペシャル美味しいかと言われるとそうではないかもしれない。ただ、そういうものを食べている時間が私のメンタルを保ってくれます。「この食材はこう食べたい」「私はこの香りが好き」「この手触りが好き」という、自分のセンサーが働いていると、いろんなものに飲み込まれずにいられると思っていて。誰に言いたいわけでもないけれど、自分はこれが好きだと自信を持って言えるものを咀嚼して飲み込む時間が1日に一つでもあると辛くならずに済みます。キッチンの中で1人で完結する食事は、多少はちゃめちゃでも誰になにを言われることもないと思うんです。
——「美味しかったね」という感想を共有することはできるけれど、なにかを味わっている状態は自分だけのものですよね。
長谷川:そういう意味では、本当はもっとまずいものの話もしたいんですよね(笑)。私もまだ怖いから、自分にしか理解できない味のものは寿々歌に出せないんですよ。だから初回で餃子の皮が余った時、私自身はただ餃子の皮を焼いて塩を振っただけのものも好きだけど、寿々歌にはケチャップを塗って生ハムを乗せて出しましたし。自分のリアルな生活で言うと、かなり固めの茹で加減のジャガイモに岩塩をつけて食べるのが好きなんですけど、それも人に出せるような代物ではないですよね。人には共有しづらいけど好きな味を共有できるって相当心の距離が近いと感じます。
——以前に長谷川さんが「美味しいんだか美味しくないんだかよくわからない」というレシピをポストされていたことを思い出しました。
豚薄切り肉と油揚げ、餃子の皮を重ね塩水で蒸し、鰹節、ねり辛子、少しのお醤油でいただくのザ•実家飯!的な謎料理、美味しいんだか美味しくないんだかよくわからないけどはまってしまい定期的に作っています。レシピにするほどではない気もするが…必ず粗熱をとってから切り分けて下さい。なんだこれ pic.twitter.com/ShgXiuxu1W
— 長谷川あかり (@akari_hasegawa) April 2, 2026
長谷川:あれも餃子の皮を使ったレシピでしたね(笑)。結構いろんな人につくってもらえたんですけど、つくってくれた人がみんな「美味しいんだか美味しくないんだかよくわからない」と言っていたので、ジャンルとしてありなんだ……! と思いました。
「こういう食事のあり方もいいよね」と思ってもらいたい
——長谷川さんはSNSをはじめさまざまな媒体で発信をされていますが、届け方や伝え方を大事にされている印象があります。テレビで料理を届けることについてはどのような思いがありますか。
長谷川:大森さんが「生活が熱い」とおっしゃってくださいましたが、料理番組や、ショーアップされた世界観の番組の中だと「生活」は届けにくくて。どうしてもお届けするコンテンツがレシピメインになってしまいます。料理をする方にとっては「こういう料理をつくってみよう」というモチベーションをあげることにもなりますし、それも大事なことではあると思うんです。ただ、生活の文脈や感情の動きの中で、どういう料理をどういうシチュエーションでどういう風に食べるのか、つくることと食べることがもうちょっとシームレスな状態で見えた方が、料理がしんどくならずに済むと思っていて。私自身、ドラマなどで料理をする場面を見ていると、「料理をしたいな」という気持ちになったりします。料理家としてもそういう届け方ができたら嬉しいなとずっと思っていたので、今回の番組はこれ以上ないありがたい機会です。
——生活の文脈や感情の動きと料理のつながりを見せることが、なぜ料理を楽なものにしていくと思うか、より詳しく伺えますか?
長谷川:日々続いていくことが大事だと思うから、私はレシピや料理のことをあまり大袈裟にはしたくないんです。料理ってほかの家事よりもテクニックで人を魅了することができるぶん、それだけを切り出すと、時に壮大なものになりすぎる気がします。特に日本人は食べることにすごく期待があって、私自身も好きなんですけど、「みんな期待しすぎじゃない?」と思うところも正直あって。家事であり高尚なものという側面があるから、それらがごちゃごちゃになることも料理が苦しくなりやすい要因であるように思います。料理をすることにとらわれるよりは、買ってきた焼き鳥を家でチンして食べる方が幸せなときもあります。そこに罪悪感を抱かず、みんなが料理のことをもうちょっとフラットに見るために必要なのが文脈で、文脈があれば昨日まで手抜き料理だと思っていたものも違った見え方をしてくるのではないかと思うんです。
——料理家という立場でありつつ、料理やご飯に過剰な期待を抱かない方がいいと考えているんですね。
長谷川:料理を発信する人は基本的に料理がすごく好きなので、目的が「おいしい」になってしまいます。料理そのもののバリエーションももちろん大事だけど、生活や世帯などさまざまなものが多様化していくのに付随して、みんなが料理に求めるものも多様化していると思うんです。料理家としてはレシピを出すのが仕事ですけど、今回の番組のように、友達と一緒にご飯を食べるという選択肢を見せることで、「こういう食事のあり方もいいよね」と思ってもらうことができたらハッピーだなと思います。
「食べものぐらい自由に食べようよ」
——長谷川さんはご自身の活動を通して、家庭料理にまつわる景色をどのようにしていきたいと思っていますか?
長谷川:「“食”ってもっと自由だよ」とか「手を抜いていいよ」みたいなことって、私が言う前にもう何十年も前からいろんな料理家さんたちが言っているんです。それなのに空気だけがずっと変わっていかないから、早急に変えたいですよね。レシピだって世の中にいっぱいあるのに、みんな明日つくるもので悩んでいます。「明日なにつくろうかな」と考えることはポジティブな悩みでもあるけれど、その空気で苦しくなる人がいるのは嫌なんです。結局、私が料理家になりたいと思ったのも、私がこうあってほしいと思う世の中にしていくために、小さく言っていても届かないことが悲しかったんですよね。やっぱり人は過激なものに引っ張られやすいから、真面目に研究されている先生の発信が、例えばですけど、スーパーセレブが発信する「本当かな?」という健康情報に負けてしまう場合がある。そういう意味で、もう少しいろんな人に声が届くような状態に自分がなれたらいいなと思っています。家庭料理は一人ひとりの正解があっていいジャンルのはずです。みんなが快、不快を自分で決めて、自分が快だと思うものを適切に選択できる社会であってほしいと思うし、私にとってその一つが料理ですね。
——家庭料理を取り巻く状況と共に、その土台となる社会への思いもあるんですね。
長谷川:自分は早くから大人の人と接する機会があったので、大人が求めているであろう、「もっとかわいくならなきゃ」「もっと痩せなきゃ」「何者かでいないと価値がない」という空気や価値観に飲まれたこともありました。若者特有の苦しさでもあったかもしれないですけど、大人になってもそういう世界観から抜けられないのは結構しんどいと思うんです。私もまだ抜けきれてないところはありますしね。それであっても、食べ物くらいは自分の好きなものを好きな形で自由に食べようよ、と思います。
PHOTOS:MIKAKO KOZAI(L MANAGEMENT)
番組概要
◾️「たべるししゃべるし」
放送は9月19、21、26、28日の全4回。テレビ東京で放送し、TVerなどで見逃し配信するほか、U-NEXTでは見放題配信を行う。
出演:鎮西寿々歌(FRUITS ZIPPER)、長谷川あかり
放送日時:
・9月19日(土)深夜1:40〜2:25
・9月21日(月)深夜0:45〜1:15
・9月26日(土)深夜1:25〜2:10
・9月28日(月)深夜0:30〜1:00
配信:TVer、ネットもテレ東、Leminoほか/U-NEXTで見放題配信
公式サイト







