ステージにあったのは、ソファと大型モニターだけだった。それでも十分だった。9月4日、神奈川・ぴあアリーナMM「2026 CORTIS TOUR
初日の公演でまず驚いたのは、ステージ上の情報量の少なさだ。アイドルのライブといえば、大きなスクリーンにメンバーの表情を映しながら進行するイメージも強いが、この日は序盤から本人たちの顔を大きく映す場面は多くなく、サイネージに現れるのは文字やグラフィックなど、楽曲の世界観をつくるビジュアルが中心だった。まるで「まず僕たちの音楽を聴いてくれ」と言わんばかりだった。
ヒット曲を冒頭から惜しみなく投入
その姿勢はセットリストにも表れていた。1曲目は「YOUNGCREATORCREW」、続けて「FaSHioN」、そして3曲目には「REDRED」。 人気曲や強い楽曲を後半まで温存するのではなく、最初から立て続けにぶつけてくる。その出し惜しみのなさが、開演直後から会場のボルテージを一気に引き上げていた。
K-POPのライブでは、VTRや衣装チェンジ、ユニットステージなどを挟みながら1つの物語を作り、後半に代表曲を配置してクライマックスへ向かう構成も多い。もちろんそれもライブの醍醐味だが、CORTISのステージは少し違う。豪華な演出で段階的に熱を高めるというより、最初から音楽とパフォーマンスそのもので客席をつかみにくる。デビューから約1年、まだ膨大なレパートリーがあるわけではないからこそ、今持っている楽曲をどう最大限に見せるか。その工夫と自信が、ステージ全体から伝わってきた。
同じ曲なのに、同じ曲に聞こえない
もう一つ印象的だったのが、同じ楽曲を公演中に何度も披露したことだ。セットリストを見ると「What You Want」は続けて2度登場し、「TNT」「ACAI」も後半で再び披露。「GO!」はリミックス版として登場し、終盤には「YOUNGCREATORCREW」「FaSHioN」「REDRED」も再び演奏された。 ただ、単純に同じ曲を繰り返している感覚はほとんどない。アレンジやパフォーマンス、曲のつなぎ方を変えることで、一度聴いた楽曲が別の表情を見せる。特に「GO! (Remix)」のように明確にアレンジを変えた楽曲は、原曲を知っているからこその驚きもあった。
同じメロディーでも、ビートや構成、届け方が変われば体験はまったく違う。ライブを「曲を順番に披露する場所」としてだけでなく、“この曲にはこんな楽しみ方もある”と音楽そのものの遊び方を見せる場として捉えているように感じた。持ち曲の少なさを弱点にするのではなく、一つの楽曲を何度でも料理し直す。その姿勢も今のCORTISらしい。
衣装にも表れる、5人それぞれのスタイル
音楽と同じくらい、ステージ上で目を引いたのが5人のスタイリングだ。全員を同じ方向にそろえ切るというより、ラフさやストリート感を残しながら、それぞれのキャラクターが見える着こなしになっていた。衣装単体を見せるというより、動いたときにどう見えるか、ステージ全体の空気にどうなじむかまで含めて成立している印象で、CORTISの自由度の高いムードともよく合っていた。メンバーそれぞれがこの日のファッションで気に入っているポイントは、WWDJAPAN公式インスタグラムのリールでも答えてくれている。
“PUT YOUR PHONE DOWN”が意味するもの
曲間のMCも印象的だった。「日本公演のために日本語を練習してきました」と話した通り、この日のMCはほとんど日本語。3日間の日本公演のために、ここまで準備してきたのだと思うと、その努力家な一面にも心を動かされた。
そして、この日のライブを最も象徴していたのがツアータイトルの「PUT YOUR PHONE DOWN」だ。“スマホを下ろして、俺たちを見ろ”という強気な言葉にも聞こえるが、実際にライブを見終えると、それは単に「撮るな」という意味ではないように感じた。今はライブでも、SNSに載せる動画を撮りながら、目の前のステージをスマートフォン越しに見ることが珍しくない。一方、日本のライブは撮影禁止がほとんどで、その瞬間を直接目に焼き付ける文化も比較的強く残っている。MCでメンバーが「今回のライブは、本当にCOERのみんなと目が合う。それにすごく感動した」と話していたのも印象的だった。スマホを介さず、ステージと客席の視線が直接ぶつかる。その時間まで含めて、彼らは“ライブ”として楽しんでほしかったのだろう。
K-POPライブの、新しい楽しみ方を見た
8月の「ロラパルーザ・シカゴ」での彼らのステージを見ていたからこそ、個人的には少し心配していた。あの海外フェスの熱量を、そのまま日本のアリーナへ持って来られるのか。そして日本の観客は、そのテンションについていけるのか。完全に余計な心配だった。会場には座席があったものの、途中から「もう席はいらないのでは?」と思ってしまうほど、音に乗って踊りたくなる熱気に満ちていた。豪華な舞台装置や巨大スクリーンに頼るのではなく、ヒット曲を冒頭から惜しみなく投入し、同じ楽曲もアレンジを変えて何度でも楽しませる。そして、スマホではなく自分たちを直接見てほしいと真正面から伝える。これまでK-POPのライブで見てきた“完成されたショー”とはまた違う、音楽ライブとしてのK-POPの新しい一面を見せてもらった気がする。
「スマホを下ろして、俺たちを見ろ」。そんな言葉を掲げるには、それだけステージそのものに自信がなければならない。初日のCORTISには、それを言うだけの説得力があった。ライブが終わったあとに残ったのは、撮影した映像ではなく、目の前で見た5人の姿だった。それこそが、このツアータイトルへの一番分かりやすい答えだったのかもしれない。