
最近ファッション業界を賑わせているスポーツといえば、ピックルボール。コロナ禍に人気に火がついたアメリカ発のスポーツだ。5月にはPPAアジアツアー・マカオオープンで藤原里華選手が女性シングルスで日本人初の金メダルを獲得したことも話題になった。6月5〜7日に山口県の維新大晃アリーナで開催される「PJFピックルボールジャパンオープンin山口」にも注目が集まる。
そんなピックルボールに魅了され、日本での市場拡大に努めるキーパーソンの1人が、スタイリストの有本祐輔氏。インスタグラムのプロフィールには「週8ピックルボール」と記し、昨年5月に、ピックルボールに関わるプロデュース、ディレクション業を行う企業、pckl studioを立ち上げた。
なぜピックルボールは、こんなにも人々をアツくさせるのか? 有本氏と“朝ピ”(朝にピックルボールをすること)をしながら、その魅力を聞いた。
PROFILE: 有本祐輔/スタイリスト、pckl studio社長

初心者もすぐできる!ピックルボールとは?

WWD:ピックルボールって、どんなスポーツなんですか?
有本祐輔pckl studio社長(以下、有本):よく言われているのが、テニス、バドミントン、卓球を掛け合わせたスポーツで、大人も子どもも今日からできる手軽さが魅力。「パドル」と呼ばれるラケットと、穴が空いたプラスチック製のボールを使うので、軽いし、当たっても痛くない。コートも小さく、ネットも低いので、本当に老若男女が楽しめます。
ルールもシンプルで、サーブは必ず下から打ち込むアンダーハンド。相手コートの対角線上のエリアに打ち込みます。レシーブ側は必ずワンバウンドさせてから打ち返し、サーバー側もワンバウンドさせてから打ち返す。このツーバウンドを終えた3球目からは、ノーバウンドで打ち返すことが可能になります。基本は11点先取で、一般的には3ゲームマッチ。大会はシングルス、ダブルスで行われることが多いです。
WWD:テニスのような、ボールを受けるときの負荷があまりなくて本当に手軽ですね。でも、ノーバウンドで撃ち込まれるのはちょっと怖いかも……!
有本:「キッチン」と呼ばれる、ネット近くのノンボレーゾーンではノーバウンドの打ち込みが禁止されているので、ネットすれすれで打ち返すのがコツ。パワーだけではなく駆け引きで勝負できるのも、ピックルボールの楽しさの1つです。
旅行との相性もバツグン。旅先でも手軽にできる
WWD:有本さんがピックルボールを知ったきっかけとは?
有本:スタイリストの仕事で海外に行くことが多くて、行く先々で現地の人が不思議なスポーツをしているなって思っていたんです。街を歩いていると、「コツン、コツン」って、テニスにしては軽い音がする。そんな中で3年ほど前、現地の人に混ぜてもらってやり始めたのがピックルボール。当時はまだ、日本にはほとんどコートがなかったので、海外に行ったときの楽しみになっていました。
気がついたら身の回りの人も始めるようになっていて、施設も少しずつ増えてきて。僕はサウナが好きでよく行くんですが、サウナ内でもピックルボールの話で盛り上がるようになりました。
WWD:ピックルボール後にサウナに行くのは気持ちよさそうですね。ラケットやボールも軽いので、旅行先でも手軽に持っていけそう。
有本:旅行先で軽く運動したいとき、まさにちょうどいいスポーツです! 新宿のヒルトン東京など、日本でもピックルボールを設置するホテルが増えてきています。海外だと公園で、誰でも参加できる「オープンプレー」というゲームをやっている人がたくさんいます。レベルごとにコートが分けられていて、パドルスタンドに自分のパドルを立てておくと、自動で対戦相手が決まって順番に試合が始まるので、1人でもフラッと参加できる。初対面の対戦相手とゲームを通じて仲良くなって、そのあとカフェに行ったりすることもあります。

ちょうど一昨日までロサンゼルスに行っていて、オープンプレーに参加してきました。大会に向けてスキルアップをするためにも、オープンプレーは大事です。
ライフスタイルに寄り添い、コミュニケーションを生む
WWD:今日本でも注目されていて、有本さんご自身も熱中していますが、その魅力とは?
有本:たくさんあるんですが、一番は誰でもできるスポーツということ。僕、試合に出て80歳のおじいちゃんに負けたことがあるんですよ。そのくらい、年齢に縛られずに出来るし、「球技は苦手」って人でも本当に今日からできる。子どもでも一緒に遊べて、年齢や肩書きに捉われず、コミュニケーションの場になってくれるんです。
WWD:確かに、他のコートを見ても色々な属性の人が楽しんでいる感じがしますね。ファッションもさまざまです。
有本:ピックルボールは、単にスポーツというより、もっとライフスタイルに寄っている文化を持っているんだと思います。スケボーやサーフィンに少し似ていて、自分のスタイルを出しやすい。だから、コミュニティーも生まれやすいと思います。ファッションにもドレスコードがないから、自由な着こなしを楽しめます。ロサンゼルスとかだと、「ビンテージの『ステューシー(STUSSY)』にナイロンショーツ、ちょっとハイプなスニーカー」みたいな、結構“横ノリ”っぽい服装をしている人が多いですよ。
企業のピックルボール事業をサポート
WWD:昨年5月にpckl studioを立ち上げた背景とは?
有本:pckl studioはプロデューサーの望月巴里紗、クリエイティブディレクターの鈴木徹、アートディレクターの宝田夏奈と僕の4人で運営しています。全員、僕がスタイリストとして入る現場で一緒に仕事していました。そんな中で「ピックルボール楽しいよね」という話で盛り上り、この4人なら何かビジネスができるんじゃないかって。単にブランドを作るというより、コミュニティーや体験を提供して、新たなカルチャーを作っていきたいと思い立ち上げました。
WWD:具体的にはどんなことを行っているんですか?
有本:簡単にいうと、ピックルボールに関わるプロデュース、クリエイティブディレクションなどです。たとえば企業が「ピックルボール関連のイベントをしたい」というときや、「新しくコートを作りたい」というときに、そのサポートをしたり。最近ではグーグルからの依頼で、スマートフォン“グーグル ピクセル ウォッチ”とピックルボールを掛け合わせたイベントを実施しました。
日本では、たとえスポーツブランドであっても、中の人たちがピックルボールを知らない企業がまだ多くあるので、その手助けをすることでピックルボールが広まって、コミュニティーが拡大していけばいいなと思っています。ほかにも、「PCKL ソーシャルクラブ」というのを月に1度開催して、SNSから誰でも参加できるようなコミュニティーを運営しています。
WWD:どうして企業はピックルボールに参入したいと考えるのでしょう?
有本:1つは、今ビジネスをする上でコミュニティー構築が欠かせないということ。スポーツは人とのコミュニケーションを生みやすいし、中でもピックルボールは手軽さと程よい運動、終わったあとの達成感などを老若男女問わず共感し合えるので、ちょうど良いのだと思います。
もう1つはオリンピック。2032年のブリスベン五輪に向け、追加種目入りを目指した活動が進んでいます。まだ正式に決定していないけど、種目入りの可能性が高いからこそ、企業が参入したいという気持ちが強いのではないでしょうか。
WWD:ライフスタイルブランド「ピーシーケーエル(PCKL)」も運営していますね。
有本:はい。全体的に少しプレッピーなテイストで、コートの中だけではなく街でも着られるようなデザインにしています。シャツやパンツ、キャップ、ソックスなどのアパレルのほか、オリジナルのパドルも販売しています。
WWD:今後、ピックルボールを通じて挑戦してみたいビジネスはありますか?
有本:個人で言えば、神社やお寺みたいな場所でピックルボールをやってみたいです。元々はお参りするだけではなくて、地域の人が気軽に足を運べるような場所だったと思うので、そんなふうにできたらいいなって。
あとはIP作り。スポーツのアニメや漫画、キャラクターはたくさんあるけど、ピックルボールだけはないんですよね。僕の理想は、ゆくゆくは舞台にして、俳優がコートで本気で試合をするようなエンターテインメントが作れたら楽しそうだなと思います。
今後、ピックルボール市場はどうなる?
WWD:サウナがブームを経て人々の生活に浸透したように、ピックルボールも今後、ライフスタイルに馴染んでいくと思いますか?
有本:すでにもう、なりつつあると思います。日本でも少しずつコートが増えてきているから、今後もっと気軽にできるような環境がととのえば、もっと多くの人の生活に取り入れられていくのではないでしょうか。
WWD:大のピックルボール好きの有本さんですが、最後に野望をお聞かせください。
有本:大会で3位以内に入って、メダルを獲得することが自分の中の目標です! 今は35歳オーバーのアマチュア、メンズダブルスで試合に出たりしているんですけど、実はまだ入賞できたことがないので、まずはそこを目指して頑張っていきたいと思います。

PHOTOS:NAOKI MURAMATSU