PROFILE: 大西洋太朗

3月29日、東京主催のファッションコンクール「Next Fashion Designer of Tokyo(以下、NFDT)2026」の最終審査会が虎ノ門ヒルズで行われた。東京都知事賞 大賞を受賞したのは、現在エスモード・東京校3年生の大西洋太朗さんだ。
今回大西さんが応募した作品のタイトルは、「Scenes Inside the Train 電車内の光景。」。電車という枠の中にいる人々の日常にインスピレーションを得た。応募した3ルックは、首元が前傾していたり、シワが寄っていたり、ボタンが曲がっていたりと、至る所で“歪み”を感じさせるのが印象的だった。ボタンホールによりギャザーがいくつも寄せられたジャケットにはシミがあり、「酸素や窒素、鉄など、人間の元素を滲ませた」という。その“歪み”から、何を表現したかったのか?
「ネガティブは構造化された時、別の意味へと変換されてゆく」ーー最終審査にあたり、大西さんが綴ったコンセプトだ。コンクール参加の背景や今後の展望、そして作品の意図について聞いた。
パティシエ志望からファッションの道へ
WWD:ファッションの道を志したきっかけは?
大西洋太朗(以下、大西):高校生の頃、元々目指していたパティシエの専門学校を調べていたのですが、あまり心が引かれなくて。ジャンルは違ってもモノ作りという点は同じだと思い、ずっと好きだったファッションの道に進んでみようと思いました。専門学校に入ってファッションを学んでいくうちにアートも好きになって、今は美術史にも興味があります。
WWD:「NFDT2026」では東京都知事賞 大賞を受賞した。挑戦しようと思った背景とは?
大西:簡単に言うと、自分にとっての力試しというか。ずっと作品を作っていて、学内で評価してもらう機会はありましたが、業界の人やオーディエンスなど、色々な視点で僕の作品がどんなふうに評価されるのか、そこで僕の作品が通じるのか試したいと思いました。
NFDTは、都内在住または在学の学生に限られたコンクールなのでチャレンジしやすいですし、幅広いジャンルの審査員がいるのも魅力だと思います。経済的な部分も含めて受賞後の支援がたくさんあり、学生にとってはかなりありがたいです。また、どちらかというとリアルクローズも評価してもらいやすいコンクールだと思っているので、僕が作る服でも戦えるんじゃないかと思いました。
実際に大賞を受賞することができて一番うれしかったのは、自分が想像していた以上に色々な人からお祝いのメッセージをもらえたこと。「恵まれているんだな」と実感しました。また、今まで学校の課題というある種の制約の中でモノ作りをすることが多かったのですが、「もっと自分のモノ作りにフォーカスして作ってみても良いんじゃないか」と気付くことができました。
WWD:「NFDT」では、各審査の前に業界関係者によるワークショップを受講し、作品作りに役立てることができる。印象的だったアドバイスは?
大西:ワークショップではたくさんの学びがありました。西尾美也東京藝術大学美術学部先端芸術表現科准教授のワークショップでは、僕が知っていた枠組みの外でファッションを定義していて、新しい視点で洋服のことを考えられました。森永邦彦「アンリアレイジ(ANREALAGE)」デザイナーに「自分のスタイルを大事に」と言ってもらえたり、ワンオーの古瀬伸一郎取締役からは「今後この服をどんなふうにビジネス展開していくのか考えるべき」とアドバイスをいただき、改めてモノ作りについて考え直すきっかけにもなりました。
インスピレーション源は“日常の中のネガティブ”
受賞作品「Scenes Inside the Train 電車内の光景。」について
WWD:今回「Scenes Inside the Train 電車内の光景。」というタイトルのもと、ユニークなコンセプトを提案した。その背景や、込めた思いについて教えてほしい。
大西:イギリス人画家のフランシス・ベーコン(Francis Bacon)の作品を見たときに、負のオーラと言うか、何かすごくネガティブなものを感じました。そこから「ネガティブな制約の中でデザインが生まれるのでは」と気になるようになり、「その概念を構造化することでもっと別の意味に変化させられないか」というふうに考えたのが出発点。その背景を踏まえ、色々な人に共感してもらえるテーマを探しました。
そんなときに思い出したのが、僕自身が東京に上京してきて1年目の時に感じた電車の風景。これは1年生の時に学校に提出した課題のテーマでもあるんですが、通勤や通学の人が乗る朝の電車に、すごく圧迫感やネガティブなオーラを感じたんです。これだったら色々な人に共感してもらえるんじゃないかなと思って、デザインに反映しようと決めました。
僕自身、等身大でありたいという気持ちが強く、身近なものからインスピレーションを受けることが多いです。実際はちょっとカッコつけたいとか思ったりもするのですが(笑)、身近なものから刺激を受けて、その中でクリエイションをするのが素直で正直で、いちばんピュアだから、純粋なものが作れるんじゃないかって思うんです。
WWD:今回、その電車内のネガティブなムードをどのように作品に投影した?
大西:まず、今回提出するのは合計3ルックだったため、1つ目は結構クラシックなサラリーマン風、2つ目は少しミリタリーな要素を取り入れ、3つ目はワークウエアの要素を入れ、幅を見せるよう構成しています。
例えばこのジャケットは、どんどん自分が他の人で染まっていくような圧迫感を表すために、酸素や窒素、鉄など、人間の元素を使って染めています。少し独特な匂いがして、一見きれいなものではないんですが、これを見た人に何かを感じてもらえれば良いかなって。

あとは電車内で全員が下を向いている景色が印象的でした。服そのものは左右対称でシンプルなのですが、車内のジェスチャーを構造に取り入れることでそのネガティブなムードを表現しています。
この「リーバイス(LEVI'S)」“サード”モチーフのジャケットはケープのような形になっていて、車内の圧迫感を表現しています。パッと見の分かりやすさも重要だと思い、背中には電車の吊り革をつけました。スマホに前身が吸い込まれるようなイメージで作ったルックのコートとソックスには、スマホの素材感を感じさせたくて、手で曲げた安いプラスチックボタンを取り付けています。
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また、アップサイクルも自分の中で大事にしたいテーマです。バッグは普通の紙袋にシリコンを塗装し、四角い鉄に囲われたような電車のイメージをシリコンで纏わせました。塗装が乾く前にラップで押さえつけ、シワをつけることで、ここでも圧迫感を表現しています。シューズも同じ考え方で、四角く切った紙で上下から靴を抑えこみ、その上から塗装しました。四角に閉じ込められている感じを表現したかったんです。
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WWD:アート的な要素が強く感じるが、リアルクローズとのバランスはどのようにとっている?
大西:リアルクローズからアートに寄せていく、アートからリアルクローズに寄せていくなど、手法はさまざまだと思うのですが、今回の場合はそもそも土台となる服のベースがリアルクローズのため、そこから少しずつアートの方向に“浮かせていく”ような感じです。
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「物の価値とは」を考える
今後の展開について
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WWD:自分が作る服の特徴をどう捉えている?
大西:「物の価値そのものを疑わせるような服」という部分かなと思います。今後も、もっと物の価値に焦点を当てたモノ作りをしていきたいです。それが実際着れるのか、着れないのか、アートになるのか、オブジェクトになるのかーーそれはまだ分からないんですけど、今は自分の感じている物の価値をもっと明確にしたくて。「物の価値が失われている時」「物そのものの定義から外れた瞬間」みたいなものに心が動くので、そこをもっとクリアにして物作りをしていきたいです。とはいえあまりロジックで考えすぎても、人の心を動かすようなものは作れないとも思うので、そのバランス感は大切にしていきたいです。
WWD:独自の世界観が強いデザインだが、いつかビジネス展開するときもこの視点は変えずにいく?
大西:そうですね。僕自身はこれが日常で着れる服だと思っていたから、「市場で通用しないのではないか」と言われたときにどこか違和感があって。僕の中ではこれはオーソドックスというか、こういう服が日常であっても良いんじゃないかと思うので、服でありながら服の機能以外のことが感じられるような服を作っていきたいと思います。
WWD:今後、デザイナーとして独立を目指すのか?
大西:まずは一度、企業でデザイナー経験をしてから独立したいと思っています。高卒でエスモード・東京校に入り、社会人経験が全くないので、まずは企業に入って経験を積みたいので、ちょうどこの春から就職活動を始めました。といっても、志望しているのは1社しかないので、そこに入社できなかったら海外の大学で美術を学ぶのも良いかな、と思っています。
WWD:いつか国内外のファッション・ウイークにも挑戦する?
大西:ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)のような業界最前線の人たちは僕にとってのスターで、彼らがいるような世界を目指すのも1つ。デザイナーとしてパリでショーを続けるというのは大事な要素だとも思います。でも何かを作っていけば行くほど、何かもっと別の方法もあるんじゃないかって。ショーも、それ以外の選択肢も視野に入れながら考えていきたいです。
PHOTOS:KAZUSHI TOYOTA