ファッション

「プッチ」がシチリア島で26年春夏ショーを開催 巨大洞窟を舞台に描く希望の“夜明け”

 
独自のスケジュールで開催する「プッチ(PUCCI)」のショーは、毎シーズン業界関係者の間で話題になっている。22年にアーティスティック・ディレクターに就任したカミーユ・ミチェリ(Camille Miceli)のもと、ブランドはイタリア各地を巡りながらコレクションを発表してきた。カプリ島、サンモリッツ、フィレンツェ、ローマ、昨年のポルトフィーノに続き、26年春夏シーズンは神話と歴史が息づくシチリア島へと舞台を移した。
 

世界各国から招かれた約300人のゲストは、初日のウェルカムディナーに始まり、当日のランチ、ランウエイショー、さらにはアフターパーティーまで、至れり尽くせりのもてなしを受けた。ショー参加にあたってはブランドのアイテムを借りることも可能で、誰もが“プッチ・ファミリー”の一員としてこの時間を共有できる。初日のディナーで談笑したサール・デブラウエレ(Saar Debrouwere)=「プッチ」最高経営責任者(CEO)は、「『プッチ』は、ファッションにとどまらず、人々の暮らしに寄り添う包括的なライフスタイルブランド。ゲストを旅へと招くショーは、ブランドらしいエネルギーや、“ジョイ”を共有する時間と経験が重要と考えているから」。ブランドは順調に成長を続けており、日本市場においてはスカーフなどの小物カテゴリーが堅調だと言う。

 
本題の26年春夏ショーは現地時間4月17日、世界遺産の町シラクーサのネアポリス考古学公園内に位置する巨大な洞窟グロッタ・デイ・コルダリ(Grotta dei Cordari)で開催された。古代ギリシャ時代には採石場として使われ、その後はロープ職人たちの作業場となった歴史的空間は、そびえ立つ岩壁と差し込む自然光が交錯する幻想的な舞台だ。コレクションタイトルは、イタリア語で夜明けを意味する「L’Alba(ラルバ)」。「夜が終わったのか、それとも朝が始まったばかりなのか――そんな曖昧で美しい境界の時間に着想を得た」とカミーユは語る。自身のナイトライフに明け暮れた若い頃の記憶も重ね、コレクションを「若さの圧倒的な力を再発見するための招待状」と表現。旅がもたらす高揚感、時や場所を越えて蘇る記憶をテーマに据える。若さは、クラブミュージックのビートのように脈打つプリントとして再解釈、ショーのサウンドトラックもレイヴやビーチパーティーを想起させる選曲で統一した。
 
カラーパレットは、まさに夜明けの空を映し出したかのようだ。燃えるようなオレンジ、赤、鮮烈なフューシャがブラックの上で渦を巻き、“オッキ”や“ソレイユ”“ヴィヴァラ”といったブランドを象徴するプリントが、太陽や炎を思わせる力強いビジュアルを形成した。一方で砂浜や海を連想させるブルー、日差しに焼かれて褪せたような濃いピンクなど柔らかな色調も加わり、刻々と表情を変える夜明け前後の空を想起させた。カミーユは、「夜明けには希望とポジティブな感覚がある。だからオレンジや炎のような、温かい色彩が今季の中心となった」と説明する。
 
 
シルエットは、カミーユが近年推し進めてきた“日常に根差した「プッチ」”の延長線上にありながら、今季はより若々しくセンシュアル(官能的)な方向へと進化した。プリントのリボンで縁取ったオープンバック、ホットパンツやミニスカート、脚に深いスリットを入れたドレス、パレオスカートまで、軽やかさと色気が自然に共存する。プリントは時に部分使いで控えめにあしらい、テーラードジャケットやリトルブラックドレス、ボタンダウンシャツといった日常着の要素をブランドの真骨頂であるリゾートウエアに掛け合わせることで、バカンスとシティライフが同居する現代的なワードローブへと拡張させた。ゴールド・オン・ゴールドのプリントを施したセミシアーの流れるようなジャージードレスは、1980年代を思わせるグラマラスなムードを漂わせ、黒地にゴールド刺繍を施したルックや、月明かりを受けた海面のようにきらめくパイエット使いも印象的だった。

 
アクセサリーに強みを持つカミーユらしく、小物提案も充実していた。ギリシャ神話の戦士を彷彿とさせるグラディエーターサンダルをはじめ、ジュエリーを散りばめたサンダル、レースアップ仕様のトングサンダルなど、足元はフラットシューズで統一。大ぶりのレザー&メタルベルトがシルエットを引き締め、プリントの有機的なラインから着想を得たジュエリーが装いに彩りを添えた。さらに伸縮構造を備え、指だけでなく足指にも着用できる“ウォリアーリング(Warrior Ring)”と呼ばれる細長いリングも登場。バッグは、彫刻的で有機的なフォルムのレザーバッグ“ラ・プーパ(La Pupa)”や、シルクをあしらったバスケットなど、リゾートと都市生活を軽やかに横断するラインアップとなった。
 

 
不安定な世界情勢が続き、ファッションにも地に足のついた現実的な視点が求められる今、カミーユが提示したのは逃避としてのリゾートではなく、人生を前向きに捉えるための楽観主義だった。夜遊びの余韻と朝の始まり、非日常への憧れと日常へ戻るリアリティ。その相反する感情を華やかな服と高揚感に満ちた体験へと昇華してみせた点こそ、今の「プッチ」の強さだろう。旅、快楽、現実の感覚を軽やかに結びつけ、ブランドの未来には明るい朝日が差し込んでいるようだった。

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