
シューズの正中線に対してわずかに捻れたアッパーのフォルム、アウトドアテイストを感じさせるボリューミーなアウトソール。その既視感のない新鮮なルックスで、スケートボーダーたちの間でにわかに人気を高めているのが、パリ発フットウエアブランド「ヴィレッジPM(VILLAGE PM)」だ。
2025年春にパリで本格的なローンチを果たして1年で欧州から海を渡り、日本とカナダへと進出。3月中旬から卸売がスタートしたばかりの日本の小売店でも、3月末時点で店頭消化率がおしなべて80%以上に達しているという事実が、ブランドの勢いを物語る。
このほど、日本における主要取り扱い店のひとつ「ドーバー ストリート マーケット ギンザ」のオープンハウスに合わせて初来日した共同創業者兼デザイナーのバジル・ラプレ(Basile Lapray)に話を聞いた。
アウトドアの先進技術を融合
「気づけば、自分たちや周りの友人が、スケートシューズを日常でほとんど履かなくなっていることに気づいた。そこに何か新しい価値を提案できる余地があるはず。そう考えたんだ」。基盤になったのは、バジル自身のフットウエア開発のバックグラウンドだ。「アウトドアフットウエアの技術革新レベルは非常に高い。その技術をスケートに転用したいというのが出発点だった。クライミングシューズの技術をスケートボーディングに応用したらどうなるのだろう?そんな発想が自然と生まれてきた」。
試行錯誤の末に開発したのが、アウトドアシューズのラバーを転用した「ラバーグローブコンストラクション」だ。「オールトライアングルズ」の創設者ジュリアン・トラヴェルスがプロジェクトに加わり、フランスアルプスのアヌシーにあるラボを拠点に開発をスタート。スニーカーにラバーパッチを貼り付けたプロトタイプを何百通りも制作し、共同創業者のブラムが何百回ものトリック(スケートボードの技)で検証を繰り返した。「クライミングラバーは、スケートで機能するのか?」。この問いの解のためにひたすらテストを重ね、確かな手応えを得た。完成に近いプロトタイプをプロのスケーターたちに実際に履いて滑ってもらうと、「これは本当にヤバい。今のフットウエア契約先を離れてここで滑りたいよ」と、冗談めかしながらも本気の言葉が漏れたことが「確信につながった」。パリの「ブロークン・アーム(BROKEN ARM)」や「ドーバー ストリート マーケット パリ」などヨーロッパ各地のセレクトショップやスケートショップへに持ち込み、取り引きを勝ち取っていった。
ブランドで最も人気を博すのがローカットスニーカー“1PM”(日本国内販売価格:2万350円)だ。正面から見たトゥのシェイプは、アイコニックなだけでなく、人工工学に基づきスケーティングや歩行の合理性を追求した結果でもある。また、スケートボードをハードにプレイするスケーターは、「月に1足ペースでシューズを買い替えることもある」が、「ラバーグローブコンストラクション」により耐久性を高め、さらにトゥキャップ部分を取り外して交換できる構造を採用した。
本物のカルチャーに根差したブランドへ
ストリートとアウトドアとの融合は近年の「ゴープコア」トレンドとも重なるが、バジルはその文脈との距離を明確にする。「私たちにとってアウトドアの要素は、あくまでパフォーマンスの文脈で取り入れている。機能と技術への純粋な関心が動機だ。私たちのアイデンティティーはあくまでスケートボーディングにある」。
「ヴィレッジPM」が追求するのは“本物”であることだと、バジルは語る。「今、みんなスケートシューズをテニスシューズやランニングシューズと同じ『スポーツ用品』として捉えて、スケートボードをするときだけ履いている。でも昔は違ったんだ。スケートシューズを、一日中誇りを持って履いていた」。スケーターに本当に必要とされる機能はもとより“本物”であり続けることこそが重要だと、彼は繰り返す。
「そして、本物のカルチャーに根ざしたブランドが、ますます評価される時代になってきている。大企業がストリートブランドを買収して、必ずしも本物のカルチャーをまとっていないブランドが増えた。でも消費者は賢い。何が本物で、何が根っこのないものかを見分けられる。グラスルーツから有機的に育つ本物のムーブメントが必要だ。大手資本が仕掛けるキャンペーンが飽和している今だからこそ、オーセンティックなものの引力はより強くなる」。今回の来日中にはブラムと、彼が所属するスケートチーム全員が同行し、東京でのスケートボード映像制作も行った。「これからも世界各地を滑って、映像を通じて表現し続けていく。それが本物のスケートボードブランドとして一番大切にしたいことだから」。