2014年にカイル・イン(Kyle Ng)と共に「ブレイン デッド(BRAIN DEAD)」を共同設立し、主にグラフィックでブランドの視覚言語を形成してきたエド・デイヴィス(Ed Davis)。そんな彼が、23年に同ブランドを離れ、このたび自身のブランド「エクスタティック リサーチ(ECSTATIC RESEARCH)」を新たに立ち上げた。「エクスタティック リサーチ」は、長年にわたりアンダーグラウンド・カルチャーの断片を視覚化してきたデイヴィスが、グラフィックと衣服の関係性をあらためて問い直すことで生まれたプロジェクトであり、「単なるグラフィックTシャツブランドではない」という。より個人的で有機的な創作へと踏み出したデイヴィスに、その理由と展望を聞いた。
「興味のあるものを横断的に全て詰め込みたい」
ーーまずは、自己紹介からお願いできますか?
エド・デイヴィス(以下、エド):オーストラリアのメルボルン出身で、映像の編集に携わった後、グラフィックデザイナーとして活動するようになり、14年にカイルと共に「ブレイン デッド」を立ち上げました。グラフィックのデザインやコラージュが得意ですが、中身はとてもシンプルな人間なので、これ以上語れることはないですね(笑)。
ーー「ブレイン デッド」といえば、あなたのグラフィックが印象的でしたが、独学でしょうか?それとも、どこかで専門的に学んだのでしょうか?
エド:1年だけグラフィックの学校に通ったことはありますが、すぐに辞めてしまったので、ほぼ独学ですね。世界を旅をしたり、人と出会ったり、いろんなプロジェクトに関わる中で学び、今でも日々勉強です。
ーーそれでは、このタイミングで自身のブランド「エクスタティック リサーチ」を立ち上げた理由を教えてください。
エド:これまで積み重ねてきた経験をベースにしながら、グラフィックだけでなく洋服や小物など他のオブジェクトでも、自分の表現に挑戦したいと思ったからです。それと、自分の身近なコミュニティや友人たちと、よりオーガニックな形で仕事をした方が健全ですし、直接的に還元できますからね。
ーー「エクスタティック リサーチ」というブランド名は、なにか由来があるのでしょうか?
エド:“エクスタティック”は、日本語で恍惚や高揚を意味しますが、ハッピーのようなニュアンスとは少し違うんです。今の世界は決して良い状況ばかりではないですが、その中でどう楽しみや意味、生き方を“リサーチ”していくか、という意味を込めています。ただ正直な話、ブランド名自体に絶対的な意味があるわけではなくて、最終的には中身の方が重要だと思っています。
ーーロゴには、どのような意味を込めていますか?
エド:“X”から横に伸びる矢印には、ある種のポジティブな方向性を込めています。ビジュアル的には、1990年代のUKクラブカルチャーやヒップホップ周辺のグラフィックーー例えばグラフィックデザイナーのスウィフティ(SWIFTY)や、同年代のUKを代表するレコードレーベル「モワックス(Mo' Wax)」のアートワークに近いものがあると思います。でもこれは意図的というより、これまで吸収してきたものが無意識に出てきた結果の偶然ですね。
ーー「ブレイン デッド」はロサンゼルス拠点ということもあり、あなたの作風からはUSらしさを感じていたのですが、影響を受けたカルチャーはUKが多いんですね。
エド:おっしゃる通り、アウトプットとしてはLAっぽく見えるかもしれませんが、不思議なことに自分の中にある参照元はUKのカルチャーばかりです。今回のコレクションでも、安全ピンのようなモチーフなど、UKパンク由来の要素が自然と表れています。それに加えて、日本からの影響もかなり大きいです。
ーーというと、具体的なモノ・コトがあるのでしょうか?
エド:本当にすべてですね。特に若い世代のスタイルには刺激を受けていて、街を歩くだけでも「どうやってそんな着方を思いつくんだろう」と、自分にはないバランス感覚を吸収しています。ムードボードを作ったら収まりきらないと思います(笑)。
ーーファーストシーズンは、なにかテーマを設けて制作したのでしょうか?
エド:明確なテーマやタイトルは設けていませんが、デビュー作ということで私の紹介のようなコレクションになっています。そして「エクスタティック リサーチ」は、ストリートウエアの文脈にあるとは思いますが、“単なるグラフィックTシャツブランド”ではありません。ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)のように、興味のあるものを横断的に全て詰め込みたいんです。彼はいま、「ディオール(DIOR)」を手がけていますが、「ロエベ(LOEWE)」で見せていたアプローチと別物でありながら、彼らしい表現は損なわれていませんよね。
ーーそれでは、ファーストシーズンの中から数点のアイテムを紹介していただけますか?
エド:このプリントは、クリストファー・ナイト(Christopher Knight)という男性の写真を使用しています。彼は、20歳の時にアメリカ・メイン州の森に入って以来、47歳になるまで他者との接触を一切絶った世捨て人として暮らしていたのですが、その間は付近の住宅やキャンプ場から生活物資を盗んで生活していたそうです。もちろん、窃盗行為を肯定するわけではなく最終的に逮捕されたのですが、その姿勢や背景に魅力を感じ、世捨て人になる前の姿を捉えた貴重な写真を使用しました。
エド:これは、「エクスタティック リサーチ」の定番にしたいパンツで、親友の家具デザイナーのマックスのためにデザインしたのでマックスパンツと名付けました(笑)。まだ本人には渡せていないのですが、彼が作業時に履くことを想定して設計し、実際に履いて作業する中で気になった改善点をフィードバックしてもらい、シーズンごとにアップデートする予定です。そして、このブルーはブランドのシグネチャーカラーにしたいと思っています。イギリス人映画監督のデレク・ジャーマン(Derek Jarman)が、1993年に発表した遺作「BLUE」に着想していて、このブルーはずっと使っていきたいですし、実際に今回のコレクションにも頻出していますね。
エド:「モワックス」がリリースしていた楽曲「Blue Flowers」のアートワークにインスパイアされたオリジナルのデザートカモフラージュで、所々に青い花を咲かせました。砂漠のような過酷な環境でも花が咲くように、どんな状況でも希望は存在することを描いています。
エド:このナイロンジャケットは、フロントに盗難を防ぐディテールを備え、バックには自己消費を表現したグラフィックとテキストを添えました。いま、多くの人々はソーシャルメディアで素敵な人生を歩んでいるかのように誇示しがちですが、そのフェイクな生き方は往々にして自分で自分の首をしめている、そんな“自己愛を燃料に他者を照らす様子”を表しています。
ーー最後に、旗艦店の構想や今後についてを教えてください。
エド:まだ計画段階ですが、訪れるだけでブランドの世界観を全て体験できる場所として、例えば日本の古民家をリノベーションし、まるで私が生活しているかのような旗艦店を東京にオープンしたいんです。それと、「エクスタティック ライブラリー」というプロジェクトも予定しています。単純に印刷物が大好きなので、シーズンごとにZINEや本、印刷物を制作し、コレクションのインスピレーションになった資料を展示することで、私がこれまで受け取ってきた文化への恩返しも兼ねて次の世代に還元したいんです。