
PROFILE: 葉月/メイクアップアーティスト
「その人が持つ、オーラごと引き出す」——どこかスピリチュアルに聞こえるが、それをメイクで表現しているのが、メイクアップアーティストの葉月だ。SNSで“オーラを引き出すメイク”を発信しており、若者を中心に注目を集めている。
そんな葉月のメイクは単なる「似合う」「かわいい」を表現するのではなく、その人が内に秘めているオーラを際立たせるもの。トレンドや型に縛られるのではなく、お客の個性を最大限に引き出し、本来の魅力や雰囲気を引っ張り出すメイクアップだ。
“第三の眼”でオーラを見る!?
“オーラを引き出すメイク”——というと、葉月は本当にお客のオーラが見えているのだろうか。「普通に話していると何も感じないのですが、その人のことを本気で知ろうとすると、直感で『これがいい』と思うメイクが思い浮かんでくるんです。胡散臭いと思うかもしれないけれど、これが本当なんです(笑)」といたずらっぽく笑う。まさに、葉月の感覚的なセンスであり、“第三の眼”とも呼びたくなる才能だ。
とはいえ、「なんでオーラが見えるんだろう?」と不安になる夜もあるという。「人それぞれオーラが違うからマニュアルを作れるわけでもないし、毎回台本なしのぶっつけ本番でできていることが不思議で。でも、だからこそ目の前のお客さま一人ひとりに、真剣に向き合えているのかもしれない」と話す。
もちろん、オーラだけでメイクが決まるわけではない。
ファッションからその人の「好み」を読み取り、会話の中からニーズを引き出す。葉月は「正直、“かわいい”はメイクでいくらでも作れる。でも、私が一番大切にしているのはその人の『好み』に寄り添うこと。お客さまは貴重な時間を割いて来てくれているので、心から納得して帰っていただきたいです」と胸を張る。
「別人級」「こんなに変われるんだ」
ビフォーアフター投稿が話題に

葉月が所属する「ヌル(Null)」表参道店は、平均年齢23歳という若手が集うヘアサロンだ。ルーツカラーやエンドカラーといったデザインカラーをメインに、カラーデザインのトレンドを発信。同サロンの美容師がヘアを、葉月がメイクを担当するトータルプロデュースメニューも用意している。
来店客は、ほぼ100%がSNSから。「フリーランスになった当初は、仕事がない状態からスタート。そのときにできることを行動した結果、“性格を変えるメイク”をテーマにしたSNS投稿が広まりました。ある日、1つの投稿をキッカケに人生が180度変わったんです」と葉月さんは話す。
@leafmoonaion 自分がヘアメイクで人生変わったから自分の手で変えたいと思った!#メイク動画 #変身動画 ♬ Kiss Me More (feat. SZA) - Doja Cat
「2022年3月に投稿したお客さまのビフォーアフターのショート動画が、TikTokでバズりました。何者でもなかった私が、これをキッカケに注目してもらえるようになったんです」。新しい投稿をアップするたび、コメント欄には「別人級」「こんなに変われるんだ」といった驚きのコメントが殺到。メイクの可能性を感じた人々が、お店を訪れるようになった。
SNSの総フォロワー数は46万を超え(2025年5月末時点)、影響力のあるメイクアップアーティストへと成長した。人気を継続に昇華させるため、“オーラを引き出すメイク”の投稿に加え、カウンセリングやサロンワークの動画も織り交ぜて、フォロワーを飽きさせない工夫も。
ほかにも、「人気インフルエンサー吉田いをんさんとコラボレーションをして、面白いコンテンツもたまにアップするようにしています。フォロワーの皆さんに楽しんでいただけるのはもちろん、新規も増えるので継続的に発信したい」とコラボコンテンツの重要性も覗かせた。
実際、インスタグラムのストーリーズで予約枠解放をアナウンスすると、約10秒で全ての枠が埋まる人気ぶり。予約困難ゆえに「長期休暇がやっと取れたから予約できた」という声も少なくない。最近は、「予約が取れなかった」という人の声に応える形で、プラス1万円で優先的に予約できる“優先枠”もスタートした。
来店者は、20〜30代女性が中心。意外にも、「休職中の方が多い」という。「何かを変えたい」「心機一転したい」「自分に自信を持ちたい」ーーそんなタイミングで訪れる人が多いのだそう。「私のところには『どうしたらいいか分からないけれど、変わりたい』という方や『葉月さんのメイクが好き』と言って、来てくださる方が多いですね」。
“オーラを引き出すメイク”の先にある心のつながり
「人生が変わりました」——そんなお客の声に、何度も背中を押されてきた葉月。「私もきれいになりたい!」「メイクのパワーを感じました」という温かいコメントが多く寄せられる彼女のSNSコミュニティーは、そんなポジティブな言葉を交わせる大切な場所だ。
一方で、注目されるからこその悩みも生まれた。ときに、心ない声が届くことも。だからこそ、今はプラットフォームごとにルールを設け、安心して発信できる環境づくりを心掛けつつ、自分自身とお客さまの“心”を守ることを大切にしている。
ある日届いた「葉月さんと過ごした時間は忘れません」というDM。その言葉に救われ、涙がこぼれた夜もあった。大切なのは“メイク以上のつながり”。「これからも、“オーラを引き出すメイク”を通して、誰かの人生にそっと光を届けていきたいと思っています」(葉月さん)。
次の世代に何かを残す。
目指すは“令和の坂本龍馬”
“オーラを引き出すメイク”を初めて約4年。憧れだった夢も少しずつかなってきた。アーティストのMVやビジュアル撮影、パリでのパンフレット撮影など、海外での仕事も経験。「ヘアメイクの仕事を通じて『いつか海外に行きたい』と願い続けてきた夢が、一つずつ形になってきました」。ほか、美容学校でセミナー講師を務めたり、イベントに登壇したりと、“教える側”としてのオファーも舞い込むようになった。
プロのメイクアップアーティストを目指す中で、業界の在り方に疑問を感じることも少なくなかった。例えば、一生に一度しかない成人式のヘアメイク。多くのサロンではこの日、美容師総出で対応し、新人スタイリストもフル稼働する。時間がない中での対応となるため、もちろん、美容師らはスピーディーに仕上げなければならない。その分「仕上がりに満足できないお客も少なくないのではないか」と葉月はモヤモヤしていたこともあった。
「メイクって本当に難しい。“ちゃんと”かわいいを作れるメイクアーティストって、実は日本にあまりいないと思う。それは、SNSでよく見かける“成人式メイクの感想”が物語っていると思います。人手不足なのは理解できますが、成人式のようなビッグイベントでこそ、お客さま一人ひとりに向き合うべきだと思うんです。中途半端な仕事は、容姿に悩みを抱きやすい日本の若い女の子の期待を裏切ることになるので、もう悲しむ人を増やさないでほしい。この風潮を変えたい」と真剣な表情で話す。
また、若手のメイクアップアーティストが活躍できる場が少ないことについても言及。「私の印象では、第一線に立っているのは40〜50代の方が多いイメージがあります。メイクが重要視されていない日本の現状に、私が“ヘアメイク界隈の異端児”になって、若い世代の代表として声を上げていきたい」と意気込みを語った。
そして、今の目標は“令和の坂本龍馬”になること。「最近、TBSドラマの『JIN-仁-』を見て感化されて(笑)、私もメイクで次の世代に何かを残さないといけないなと強く思いました。一時的にバズる動画じゃなくて、自分の思いが伝わる、タメになるコンテンツを残したい。影響力を持ち続けられるように、今はとにかくいろんなことに挑戦していきたいです」。
「令和の坂本龍馬になる」そんな夢を語る葉月の瞳は、まっすぐに未来を見つめていた。“オーラを引き出すメイク”という唯一無二のメイクアップで、これからも彼女は、多くの人に変わるきっかけと勇気を与える。