1. バイオアーティスト、エイミー・カールはなぜファッションで人間の内側を表現するのか

バイオアーティスト、エイミー・カールはなぜファッションで人間の内側を表現するのか

テクノロジー インタビュー

2018/4/7 (SAT) 06:00
エイミー・カール:人間の身体や身体機能の拡張を、テクノロジーを通して表現するバイオアーティスト。アルフレッド大学とコーネル大学でアート&デザインと哲学の学位を取得。テクノロジーを駆使した展覧会を行う企業、コンセプチュアル アート テクノロジーズ(CONCEPTUAL ART TECHNOLOGIES)を共同設立し、世界中で展覧会を開催する。医療、テクノロジー分野で特許を取得している他、「3Dプリント業界で最も影響力をもつ女性」に選ばれる。バイオアートの先駆者として、アートを制作する過程で医療と心身医学に貢献することを目標に活動を続けている

 エイミー・カール(Amy Karle)は、人間の身体や身体機能の拡張をテクノロジーを通じて表現するバイオアーティストだ。これまで、3Dプリンターと幹細胞を使用して人間の手の骨を再現した作品の他、人体の内側を表現したドレスや本物の肉を使用したドレスなどの作品を発表している。アパレル企業でデザイナーとして働いた経験もある彼女は、バイオアーティストとして今とこれからのファッションをどう見るのか。「YouFab Global Creative Awards 2017」でグランプリを受賞し、受賞作品の発表のために来日したカールに自身の作品について聞いた。

WWD:このキャリアをスタートしたきっかけは?

エイミー・カール(以下、カール):私の作品は全て人の身体からインスピレーションを得ています。私は生まれつき皮膚形成不全という病気を抱えていました。だから他の子どもたちと同じように遊んだり泳いだりするためには、どうしたら体がよくなるのかを常に考えながら成長してきました。そこから身体の仕組みや、どうやって身体の制限がありながらも生き抜くかなど、身体のアイデンティティーについて疑問を持つようになり、こうした疑問から心と身体の関係を探求する私の作品が生まれています。また、ファッションは服を通して自身を表現することができるので、どうしたら身体の内側の状態を外側に表現することができるのかということも私が課題としているところです。

WWD:大学ではファッションを専攻していた?

カール:私の学位はアートデザインと哲学です。人間やアイデンティティーとは何なのか、アイデンティティーをどうやって目に見え、手で触れることができる形で表現するかをずっと考えてきました。だから私の作るアートは自分の内側を他の人に対してさらけ出す、とてもパーソナルなもの。アート作品は見た人の感情に訴えかけることができるものです。一方、デザインは私にとってより普遍的なもので、人が自分自身の世界を理解することを手助けするもの。そのため、より大きな力を発揮し、さまざまな方法で世界を変えることができると考えています。

WWD:ファッションから人間工学や遺伝子工学に興味が広がった理由は?

カール:私の一番の課題は身体の意味を追究し、身体の内面を感じ、身体を表現すること。だから私にとってファッションとバイオアートは、テクノロジーが人間とその生活をサポートできるように活用し、自分たちを世界に向けて表現するためのビジョンです。現に、美容整形の広まりなど、身体の能力を高めることができる時代になってきています。ヘアスタイルやメイク、服を変えることで、本当になりたい自分に近づくことができる。でも、マインドコントロールや哲学、それに生物学やテクノロジーを今までと違う方法で活用してもっと根幹から自分を変える方法もある。つまりこれは表面的なドレスアップではなく、根幹から本当になりたい自分になる新たなファッションの可能性だと思っています。

WWD:「ケネス コール(KENNETH COLE)」でアシスタント・デザイナーをしていたこともあるそうですが、その経験はアート作品にどう活きている?

カール:アシスタント・デザイナーをしていた経験から、ブランド戦略や、どうしたら顧客の心をつかむデザインを作れるかを学びました。でもその後、ファッション業界よりもアートの道を極めたくなり、今に至っています。

READ MORE 1 / 1 人間の内側を表現するわけ

WWD:これまで制作した作品について、それぞれなぜ、どのように作ったかを教えてください。

カール:まず「INTERNAL COLLECTION」は、肺や神経系、人体など人間の内臓を3Dスキャンし、レーザーカッティングで布に落とし込んで組み合わせたドレスコレクションです。これらのテクノロジーは医療にも活用できるものです。

「ONE OF A KIND COUTURE」は、がん患者サポートコミュニティーのアメリカン・キャンサー・ソサエティー(American Cancer Society)のために作りました。母をがんで亡くした私にとって、がんは身近な病気で、それがどのように身体や人を変えるのかについて考えさせられました。私の母もそうでしたが、がんが身体をむしばむにつれ、魂の強さと美しさを理解できるようになります。患者はがんと抗がん剤で体の内側が焼けるように感じるといいます。その様子を表現するため、焼いてレースのようなパターンを作った生地を使いました。美しさと同時に、繊細さとはかなさを表現しています。

「REPROCESSED」では、本物のハムや肉を使用したピンクのドレスを作りましたが、ピンク色であるのは一瞬です。一般的に多くの文化圏で、女性は年をとったら価値が低くなるとされていますが、年をとると同時に多くの経験や人生の教訓を得てその人の本質が見えてくるものです。ここでは、美の一瞬のはかなさとそのあとに残る“内側の美”をファッションで見せたいと思いました。また、ファッション業界はその製造過程で人体に有害な多くの廃棄物やガスを排出していますが、それを私たちのテクノロジーでどう変えられるかを考えて、いずれ土に還る肉を使用しました。しかも使用した肉は人間が食用にできるレベルに達しなかったもので、いずれ捨てられる運命だったものです。

また、3Dプリンターで製作した人間の骨格にインスピレーションを得たコルセットや、幹細胞で作った手の骨格などを制作しています。骨を作品に使うアイデアを得たのには、医療的な理由とファッション的理由がそれぞれあります。まず医療的な理由としては、自分の幹細胞からそれぞれの患者の体に適した人工骨を製作するテクノロジーを開発すること。そしてファッション的な理由は、服の新たなドレープを生む基礎になるかもしれないということです。

WWD:作品を通して伝えたいことは?

カール:私の作品はテクノロジー的に先進的なものが多いけれど、私がいなくてもその作品が人の心に訴えかけるものであることを心掛けています。私が人の内面を外側に見せる作品を多く作っているのは、肌の色、文化、学歴、性的嗜好などに関係なく、人間の中身は同じだということを強調したいからです。

WWD:注目しているアーティストやデザイナーは?

カール:伝統あるクチュールメゾンである「ディオール(DIOR)」のようなクラシックなブランドから、あるものにフォーカスし続けている「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」のようなブランドに注目しています。手工芸やクラフツマンシップにはとても興味があります。「イッセイ ミヤケ」はそれほど古いブランドではありませんが、プリーツをはじめとする“折り”のテクニックやパターンに、クラフツマンシップを見ることができます。クラフツマンシップも重要ですが、完成したものがアーティスティックであることも重要だと考えています。

WWD:あなたの作品は「イリス ヴァン ヘルペン(IRIS VAN HERPEN)」と通ずる部分があるような気がしますが、意識したことはあるか?

カール:確かに「イリス・ヴァン・ヘルペン」と私の作品には確かに共通点があると思います。おそらく1番の理由は、一緒に働く人々が似ているからでしょう。3Dプリント業界はとても狭い世界だから、彼女も私も他のデザイナーたちも、同じ企業や人に3Dスキャンを頼んでいるのです。それに、どちらも自然からインスピレーションを得ています。彼女がビジョンを実現するために、クチュールの技術を学びながら最新のテクノロジーを取り入れている点は特に尊敬しています。

WWD:イリスと直接会ったことは?

カール:ありませんが、同じアーティスト、デザイナー、ワーキングマザー、起業家として尊敬しています。私と同じように、彼女を尊敬している若いデザイナーもたくさんいると思います。

WWD:ファッション業界の今後、将来のファッションはどうなると思いますか?

カール:まず、品質に重点を置いたブランドが増えていくと思います。ラグジュアリーブランドや資金のあるブランドは、最新の素材の開発や3Dプリンターやニットロボットなどのテクノロジー採用に資金を投入することができるので、安価なコピー商品が作られにくくなると思います。次に、スマホから次のコミュニケーションデバイスに移行すると思います。次に来るコミュニケーションデバイスは、センサーなどを採用したウエアラブルで小さなデバイスになると思います。バイオテクノロジー的目線からいえば、ジェスチャー中心で、人間に近いものになってほしいですね。

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