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サステナビリティって何? 専門家が答えます。連載Vol.21 ファーストリテイリング「ユニクロ」の流儀

 サステナビリティに取り組まない企業は存続できない――といわれる一方で、具体的に何をどうしたらいいのか分からないという声も聞く。そこで「WWDジャパン」11月25日号では、特集「サステナビリティ推進か、ビジネスを失うか」を企画し、経営者やデザイナー、学者に話を聞きその解決策を探った。今回は「ユニクロ」を擁するファーストリテイリングの新田幸弘グループ執行役員に、取り組みのスタンスや同社ならではの考え方などを聞いた。

「ビジネスとしてサステナビリティを取り込んでいくこと」

―10月の決算発表時に、柳井正社長が「サステナブルであることはすべてに優先する」と「サステナビリティ宣言」を行った。この発言に至った背景とは?

新田幸弘グループ執行役員(以下、新田):もともと当社はCSR(企業の社会的責任)としてコミュニティー支援やサプライチェーンの人権問題など「人」の部分を中心に取り組んできた。グレタ・トゥーンベリ(Greta Thunberg)さんの行動でも注目されているが、ここにきて「気候変動」や「循環型社会」などサステナビリティに対する社会からの要望や意識が高まってきた。そこで部の名称も2年前からCSR部からサステナビリティ部に変更した。大切なのは、単に環境対応や社会貢献をするのではなく、「ビジネスとしてサステナビリティを取り込んでいくこと」であり「サステナビリティをビジネスの中核に位置付けていくこと」。地球環境や社会、人が、健全で平和でサステナブルにならないと自分たちのビジネスの将来もない。そういう考えがあの発言につながったと思う。

―サステナビリティで先を行くヨーロッパを含めて、グローバル展開の加速が取り組みを後押ししている?

新田:そうだ。最近、柳井が言っていたのは、「グローバル企業として多国籍で展開することで、チャンスもチャレンジもある。社会の期待も大きくなる中で、気候変動や循環型社会、地域貢献や難民など、いろいろな問題がよりクリアになってきた」ということ。

確かに欧米で先進的な議論や取り組みが行われているが、「環境問題や人権問題など、大きな問題はアジアで起こっている。われわれはアジアを代表する企業としてチャレンジし、解決に貢献していこう」と社内で議論をしている。

「一番のステークホルダーはお客さま」

―ESG投資が盛んになり、情報開示を求められたり、いろいろなインデックスやスコアなどで企業が評価されるようになってきている。その実感や対応策は?

新田:2年ぐらい前から投資家のESGに対する関心が高まってきた。IR担当者などが投資家の方々と直に接する中で、「環境対応や社会・人権対応をどう考えているのか」と聞かれることも増えた。遅ればせながらわが社も、情報開示と取り組みの両面を充実させてきた。

世界的な業界団体であるサステイナブル・アパレル連合の「HIGG Index(ヒグ・インデックス)」という環境サステナビリティに関する評価ツールを活用したり、サステナビリティに関する国際的ガイドライン「GRIスタンダード」対照表などを活用したりもしている。

投資家の方々からの資金調達といったファイナンス的な側面もあるが、われわれの場合、一番のステークホルダーはお客さまだ。とくに若い人を中心に、商品の製造過程や原材料、ビジネス自体がどうサステナブルなのかや、気候変動対応や廃棄物、プラスチック問題などにも関心が高い方が増えている。きちんと向き合い、売り上げを立てていかないと市場が創出できない。お客さまの期待、社会の期待に応えられるようなことをどんどんやっていきたい。

―取り組むべきサステナビリティ活動について、以前は6つの重点領域( 1. 商品と販売を通じた新たな価値創造、2. サプライチェーンの人権・労働環境の尊重、3. 環境への配慮、4. コミュニティーとの共存・共栄、5. 従業員の幸せ、6. 正しい経営)を設定していたが?

新田:「ピープル」「プラネット」「コミュニティー」の3つに再編した。プラネットでは、気候変動に向けた取り組みや目標をしっかりと決めないといけない。サプライチェーンと原料の部分でどれだけCO2を削減するか。これは自分たちだけで決めるのではなく、お客さまや社会の支持が必要だ。最終的な商品やサービスの完成度にもよるが、売れないと意味がない。制約要因になることは事実だが、お客さまや社会の状況を見ながら、品質やプライスはお客さまの期待に沿いながら、よりよい商品やサービスを提供することによって会社として目標が達成でき、お客さまも参加できるというビジネスモデルにしていきたい。

―気候変動に関しては、目標や期限の設定も求められている。

新田:2015年に国連気候変動枠組条約として「パリ協定」が策定されたが、私たちも今年2月、その目標「世界的な平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2度未満(可能な限り1.5度未満)に抑えること」に基づき、温室効果ガス排出量削減目標SBT(Science-Based Targets)を2年以内に策定することにして 計画を精緻化しようとしている。

スコープ1、スコープ2といわれるオフィスや店舗など、直接的にオペレーションするところの省エネルギー化は着々と推進している。中国・深センの店舗を皮切りに再生可能エネルギーを利用する店舗の開発も進んでいる。

ただ、アパレルの場合、スコープ3の原材料工場や物流などのサプライチェーンの部分で温室効果ガスの排出が多い。野心的なストラテジーが必要になるが、実態調査を進め、グローバル企業としてふさわしく社会に貢献できるような計画をまとめようとしている。再生エネルギーの導入や、バージン素材よりも地球環境負荷やCO2排出量が少ないリサイクル素材による循環型の商品開発などにも取り組んでいく。

―ケリングが主導して今年8月にスタートした「ファッション協定」に署名しなかったのはなぜ?

新田:気候変動と海洋汚染、生物多様性は全部つながってきており、ケリングとも話して同じ方向性であることは確認している。だが、パリ協定のSBTにコミットしているが目標を出す前で、できることとできないことがあるので、現時点では参加しない。将来参加するのか、自分たちで独自のものを打ち出すのかは分からない。ただし、われわれはやるとコミットメントしたものについては最後までやりきる。最初は慎重に、確信が持てればインパクトのある形で、お客さまや社会を巻き込み、賛同をいただきながら進めていくのがわれわれのやり方だ。

―リサイクルやバイオマスといった素材や新しい製法など、テクノロジーの力でサステナブルな商品開発が進んでいる。

新田:テクノロジーでいえば、「ユニクロ」からスタートした水使用量を平均で90%、最大99%削減するウオーターカットデニムが商品化されている。「GU」を含め、将来的には全ブランランドの全商品に広げる。来年からは、戦略的パートナーである東レと組んだリサイクルペットボトル由来のドライEX商品や、古着を回収したウルトラライトダウンによるリサイクル商材も発売する。さまざまな方面からリサイクルテクノロジーの提案はある。その中で、リサイクルするだけでなく、CO2を吸収したり蓄積したりするような技術もある。理論的にCO2排出をゼロ、さらにはマイナスにするものもあるので、そういったことも今後は検討しなければならないと思う。「こんな技術の商品を出します!」と発表して終わり、とか、ほんの少量だけ販売するような打ち上げ花火的な打ち出し方でお客さまや社会の期待を裏切るのはよくない。「3~5年以内に量産化して、このアイテムは全量を切り替えます!」など、大きな効果やインパクトがあるものを開発したい。商品についても、慎重に、でも、決まったら大胆に展開したい。

―3D-CADを使ったデジタルデザインによるサンプルの削減や、AIによる需要予測の精度向上による過剰生産の抑制など、ものの作り方改革については?

新田:それは僕が答えるよりも有明プロジェクトの責任者のほうがいいかも。ちなみに、誤解されやすいがわれわれはファストファッションではない。長く着ていただける商品を提供しているし、商品も売り切っていくので廃棄はない。今後さらにAIなどで需要予測し、お客さまが本当に求める商品が店舗やECサイトにいつでもある状況にする。それが売り上げにもつながるし、値引きもなくなり粗利益率もとれる。何よりもお客さまの満足につながる。小売業の宿命だが、当たり前のことを当たり前にやることが重要だ。

―スタートアップ企業への投資などは?

新田:今はないが考えていきたい。H&Mなどはすでにされている。うちにも持ち込み案件はものすごく多い。素材関係や、気候変動に対応した技術や機械化投資、新設工場への投資など、いろいろある。そこで競争優位性が出てくる可能性があるので、戦略的パートナーの東レを中心としながら、個別案件も検討していきたい。世界中の新しい技術を持っている企業や起業家を支援しながら、自分たちの商品やサービスに取り組んでいく方向性はありだと思う。

―サステナビリティは教育や啓発活動も重要だ。FRでは小・中学校などで社員が授業や講演を行う活動を推進している。

新田:店舗スタッフを含めた当社の従業員が、年間400校ぐらいで難民問題の教育と子ども服の回収を行っている。一緒に活動するユネスコ・スクールもいろいろな問題を扱いたいというので、地球環境問題なども含めてテーマも広げていければと思う。従業員の理解や意識を高めることが、会社や仕事へのコミットメントや働く誇りになり、いい会社につながると思う。この活動をグローバルで実施していきたい。サステナビリティは日本だけでなく、グローバルの全ブランド・全エリア・地域で全員経営で取り組んでいく。

外部団体との連携による環境活動の推進

サステナブル・アパレル連合(SAC)
加盟時期:2014年9月
ミッション:アパレルやフットウエア、テキスタイル業界の主要企業が、環境・社会的課題に共同で取り組む団体。アパレルやフットウエア、テキスタイル業界のサプライチェーンにおける環境負荷を低減し、生産活動に関わる人々やコミュニティの発展に貢献する。
組織の主な活動内容:サプライチェーンの環境負荷・社会的影響を測定する業界共通ツール(HIGGインデックス)を開発・普及させること。

テキスタイル・エクスチェンジ
加盟時期:2017年8月
ミッション:繊維業界のバリューチェーンにおいて、持続可能性を推進する世界的な非営利団体。世界の繊維産業による負荷を最小限に抑え、良い影響を最大化することで、環境の保護・回復および人々の生活の向上に取り組む。
組織の主な活動内容:学習機会、ツール、基準、データなどの提供や、一企業では解決が難しい業界全体の課題に取り組むためのコミュニティの構築により、持続可能な繊維および素材分野におけるリーダーを育成すること。

ベター・コットン・イニシアティブ(BCI)
加盟時期:2018年1月
ミッション:世界中の綿花生産者、綿花が育つ環境、綿花産業の未来のために、綿花生産をより良くする。
組織の主な活動内容:農地から店舗まで、セクターを超えて人々と組織をつなぎ、環境、農業コミュニティ、綿花生産地域の経済面で、測定可能かつ継続的な改善を促進すること。

危険化学物質排出ゼロ(ZDHC)グループ
加盟時期:2019年3月
ミッション:テキスタイル、レザー、フットウエアのバリューチェーンにおける危険化学物質の排出ゼロに向けて取り組む。
組織の主な活動内容:制限物質の特定や準拠、排水検査、監査、調査、情報公開、トレーニングなどにおいて、業界共通の基準や手法の開発・普及を促進すること。

マイクロファイバーコンソーシアム
加盟時期:2019年9月
ミッション:テキスタイルの製造と製品ライフサイクルからマイクロファイバーの環境への放出を最小限に抑えるため、テキスタイル産業向けの実用的なソリューションの開発を促進する、業界横断型の会員制非営利団体。
組織の主な活動内容:「テキスタイルから環境へのマイクロファイバーの放出が適正に管理されている未来」をビジョンに掲げ、学術的研究結果の生産プロセスでの実践を支援し、生態系を守るための具体的なソリューションをブランド、小売、サプライヤーに提供すること。

クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス(CLOMA)
加盟時期:2019年10月
ミッション:地球環境の新たな課題である海洋プラスチックごみの問題解決に向けて、プラスチック製品の持続可能な使用や代替素材の開発・導入を推進し、官民連携を通してイノベーションを加速させる。
組織の主な活動内容:プラスチックごみの問題解決に向けて、以下を推進する。①素材の提供側と利用側企業の技術・ビジネスマッチングや先行事例の情報発信を通じた情報の共有、②研究機関との交流やセミナーによる最新技術動向の把握、③国際機関、海外研究機関との連携や発展途上国への情報発信などの国際連携、④プラスチック製品の有効利用に関わる企業間連携の促進について検討。


ステークホルダーとの連携

バングラデシュにおける火災予防および建設物の安全に関わる協定(通称:アコード)
加盟時期:2013年8月
ミッション:アコードは、バングラデシュの縫製工場の安全性確保のために複数のブランド、労働組合が創設した協定で、法的拘束力がある。防火・安全対策により、工場従業員が火事や建物の倒壊などの事故に巻き込まれないこと、安全な労働環境を実現することを目的としている。
組織の主な活動内容:縫製工場の防火・電気保安・建物安全性検査の実施、職業安全衛生委員会など工場の管理体制強化支援を行う。工場従業員が安全性の問題を通報できるホットラインの運営や、工場従業員に対する防火・建物安全のトレーニングも実施している。

サステナブル・アパレル連合(SAC)
加盟時期:2014年9月
ミッション:アパレルやフットウエア、テキスタイル業界の主要企業が地球環境や社会的課題に共同で取り組む連合。アパレルやフットウエア、テキスタイル業界のサプライチェーンにおける環境負荷を低減し、生産活動に関わる人々やコミュニティの発展に貢献することを目的としている。
組織の主な活動内容:サプライチェーンの環境負荷・社会的影響を測定する業界共通ツール(HIGGインデックス)を開発・普及させる。

公正労働協会(FLA)
加盟時期:2015年7月
ミッション:企業、市民団体、大学などの協働により、労働者の権利を保護し、労働環境を国際標準に適合するよう改善することを目的としている。
組織の主な活動内容:加盟ブランドおよび工場に対し、サプライチェーン全体にわたりFLAの労働環境基準を導入するための支援を行う。加盟ブランドおよび工場の労働環境モニタリングを評価し、改善のための指摘を行う。また、労働環境の課題解決に向け、加盟ブランドや工場と市民団体など、さまざまなステークホルダーとの連携を促進する。

ベターワーク
加盟時期:2015年12月
ミッション:国際労働機関(ILO)と世界銀行グループの国際金融公社(IFC)の共同プログラムで、政府、グローバルブランド、工場経営者、労働組合や工場従業員など、さまざまな企業や団体、人々と協働し、アパレル、フットウエア業界のサプライチェーンの安定性や競争力を高め、工場労働者の権利向上や労働環境の改善を実現する。
組織の主な活動内容:加盟工場に独自の監査、トレーニングや改善提案を行い、労働環境管理の方針や体制の強化を促進する。また、各国における現地活動で得た知見を活用し、各国政府に対する政策策定や計画立案なども支援する。

国連女性機関(UN Women)
加盟時期:2019年5月
ミッション:ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための機関で、2010年7月の国連総会決議により、世界全域で女性と女児のニーズに応じた変化をさらに加速させるために、関連する4つの国連機関を統合して創設された。
組織の主な活動内容:国連加盟国がジェンダー平等の達成をめざし、国際基準を策定する支援を行う。また、こうした基準を履行し、世界中の女性と女児が真に恩恵を受けるための法律、政策、プログラム、サービスなどの企画立案を政府や市民社会と協力して行う。持続可能な開発目標のビジョンを女性と女児にとって現実のものとするために世界全域で活動し、「女性のリーダーシップの向上と参画の増加」「女性に対する暴力の撤廃」「平和と安全保障のあらゆる局面における女性の関与」「女性の経済的エンパワーメントの推進」「国家の開発計画と予算におけるジェンダー平等の反映」の5つの活動領域に優先的な取り組みを行って、あらゆる分野における女性の平等な参画を支援する。

国際労働機関(ILO)
加盟時期:2019年9月
ミッション:国際労働機関(ILO)は、幅広い労働の問題に取り組む国際連合の専門機関。
組織の主な活動内容:仕事の創出、社会的保護の拡充、社会対話の推進、仕事における権利の保障の4つの主要戦略目標に基づき、ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進する。

松下久美:ファッション週刊紙「WWDジャパン」のデスク、シニアエディター、「日本繊維新聞」の小売り・流通記者として、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)