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そうか、「グッチ」ミケーレはローマ人なのだ エディターズレターバックナンバー

※この記事は2019年6月4日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Edito's Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから

そうか、「グッチ」ミケーレはローマ人なのだ

 先週はローマに出張し、「グッチ(GUCCI)」の2020年プレ・スプリング・コレクションを取材しました。街中に古代ローマ時代の遺跡が点在するローマという街は、車で走り回るだけで時空のひずみに飛び込むようで、非現実的な光景の連続にゾクっとします。

 ショーの前に、アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)「グッチ」クリエイティブ・ディレクターの着想源をひも解くべく、いくつかの場所を訪ねたのですが、多くに “ヨーロッパ最古”や“世界最古”といった解説がつきます。そもそもショー会場となったカピトリーノ美術館は市民に公開された世界最古の美術館です。回廊からは紀元前に造られたフォロ・ロマーノ遺跡が見渡せ、その光景には思わず『テルマエ・ロマエ』……」とつぶやきます。招待状の受け渡し場所となった本屋もヨーロッパ最古の本屋で、さながら映画のセットです。

 帰国後、実家の母を訪ねてそれらの写真を見せたところ、「観光で行くと“そうかそうか”と感心するばかりだけど、あなたの仕事は過去と今を結びつけながら歴史を見るのね、おもしろいわね」と言いました。我の母ながら、的を得たり。その視点は今のラグジュアリー・ブランドの魅力であり、戦略のひとつです。

 特にここ数年、ラグジュアリー・ブランドが5~6月にプレ・スプリング・コレクション(クルーズ)のショーを世界各地で開催するようになってからその傾向は顕著です。せわしいパリコレと違い、プレ・スプリングではファッションのファンタジーの側面が重んじられ、自社ブランドの歴史と開催都市の歴史とを紐づけて世界観が作り上げられます。

 「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」が5月にニューヨークのジョン・F・ケネディ空港内にオープンしたTWAフライトセンターで行ったショーもまさにそう。「LV=トラベル=空港=NY=JFK」と連想ゲームはつながり、ジェット機時代到来に沸いた1960年代当時のアメリカの熱気さえショーのイメージに吹き込まれます。

 こう考えるとデザイナーの仕事も大変。服作り以外に色々なことを知っている必要があります。「グッチ」というブランドが壮大な歴史を持つローマの街と違和感なくつながって見えたのは、ディレクションするアレッサンドロ・ミケーレがローマの生まれであり、美術館を遊び場に育ち、今もローマに暮らすから、という理由は大きいでしょう。彼にとってあの街は、決して「非現実的な光景」や「映画のセット」ではなく、まぎれもない「今」なんですよね。

 今回のショーでは、人工妊娠中絶制限の合法化にノーを唱える“My Body My Choice”のスローガンを掲げましたが、カトリックの聖地であるバチカンのすぐ近くでそんな社会的メッセージを掲げることができるのもローマ人ならではとも言えます。歴史と今をつなぐファッションデザイナーの仕事の奥深さを知り、ブランドビジネスのおもしろさを改めて知った旅でした。

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