音楽家・渋谷慶一郎が代表を務めるアタック・トーキョーはこのほど、最新の人型ロボット“アンドロイド・マリア(ANDROID MARIA)”を発表した。
“アンドロイド・マリア”は、渋谷がかつて喪った妻“マリア”がモデルで、“死はひとつではない”というテーマを具現化した作品。単なる機械ではなく記憶や音楽、人工知能、そして拡張された身体性の交差点に立つ新たな存在として、舞台芸術における“次なる演者”を目指すものだ。
渋谷慶一郎が挑む最新人型ロボット
最新作は、渋谷が10年近く取り込んできたアンドロイド・オペラやテクノロジーを用いた舞台芸術の成果をもとに、さらなる身体性と表現の進化、そして世界一美しいアンドロイドを目指して開発された。造形は、古代から現代に至る多様な女神像や菩薩像を学習した生成AIのコンセプトデザインをベースに、下半身は地下茎を思わせる無数のチューブで覆うことで、大地との繋がりや生命などを想起させることを意図しているという。そして、これまでの空気圧駆動を使用したアンドロイドとは異なり、今回は50以上の関節を全てモーター駆動化することで、より滑らかで有機的な動きが可能となっているほか、内蔵カメラとマイクで常時人間の存在を認識し、対話やパフォーマンスもできるそうだ。なお、制作にはAIのコンセプトデザインと会話プログラムを手掛けたアーティストの岸裕真と、近年の“アンドロイド・マリア”でプログラミングを担当するコンピュータ音楽家の今井慎太郎ら、20人近いコラボレーターやエンジニア陣の協力を得た。
渋谷慶一郎のコメント
「偶然のようにアンドロイドと仕事をし始めて10 年近くが経った。アンドロイドは、僕にとってオペラのような劇場作品の強力なアイコンで足り得ると同時に、開発中の楽器のようなものでもあり、故にいくつかのバージョンアップを経てもなお、自分が満足する地点には辿り着かなかった。なかでも、これまでのアンドロイドの空気制御による身体表現は、柔らかく“自然な動作”を作ることは出来るが、 逆に言えば厳密な制御と即興的、自律的な運動の間を揺れたりすることは出来ないし、人間では全く不可能なより“不自然な運動”を作る点においては限界を感じていた。なので、いつか自分が望む動きと相貌を兼ね備えたアンドロイドを作りたいという願望は、『なぜ、こんなにもアンドロイドと作品を作り続けているのか?』という自問と同時に僕の中に長い間横たわっていた。そして、アンドロイドと仕事をし始めた時に感じた『これは将来AIの容れ物となるだろう』という直感は現在では現実となり、今回製作した“アンドロ イド・マリア”もリアルタイムAPIによるほぼあらゆる言語でのスムーズな会話が可能になっている。歌詞や歌唱の即興性は、今後も恐ろしく進化していくことが目に見えており、僕は本当に新しい楽器と生命を同時に手にしたような喜びに震えている」(渋谷慶一郎)
“アンドロ イド・マリア”は6月初旬、「プラダ モード 大阪(PRADA MODE OSAKA)」で世界初公開され、今後は11月5日に都内コンサートホールで行われる本格的なデビュー公演を経て、2027年にヨーロッパ初演が予定されている。