ファーストリテイリングは6月16〜22日、大阪・関西万博内の国連パビリオンで、難民支援に関する展示を国連難民高等弁務官事務所(以下、UNHCR)と共同で行っている。6月20日の「世界難民の日」に合わせたもの。「ユニクロ(UNIQLO)」のチャリティーTシャツプロジェクト「ピース・フォー・オール(PEACE FOR ALL)」で新たにコラボレーターに加わった俳優の役所広司氏を招き、16日には同パビリオンで記者会見も開催した。
ファーストリテイリングが「ピース・フォー・オール」を開始したのが2022年。理念に賛同した著名デザイナーやスポーツ選手、俳優、建築家、作家、研究者、キャラクターなど、これまで多種多様な43組とコラボレーションしてきた。Tシャツ(1500円)の販売による利益の全額をUNHCRなど3団体に寄付し、難民や女性、子どもの支援に充てている。
「ピース・フォー・オール」は立ち上げからの3年間で、約719万枚のTシャツを販売し、総額約21億5771万円を寄付した。「お客さまに支援活動に参加いただかないとこの数字にはならなかった。さらに大きな取り組みにしていける可能性があると思っている。皆さんにより参加してもらえる形にしていきたい」と、柳井康治ファーストリテイリング取締役グループ上席執行役員。UNHCRの柏富美子 次期駐日代表は「Tシャツのデザインを気に入って手に取ったお客さまが、そこから難民問題を知り、興味を持つきっかけになっている」と、同取り組みの意義についてコメントした。
「こんどはこんど、今は今」
役所氏は、メジャーリーグで活躍した元野球選手のイチロー氏と共に、このたび新たにコラボレーターに加わった。両氏がデザインに関わったTシャツは6月20日に国内外の「ユニクロ」で発売。それに先駆け、国連パビリオンでは16日から販売している。同パビリオンで「ピース・フォー・オール」Tシャツを購入すると、スペシャルスタンプを押してカスタマイズすることも可能だ。
役所氏は、柳井取締役が個人としてプロデュースした、ヴィム・ベンダース(Wim Wenders)監督による23年公開の映画「パーフェクト・デイズ(PERFECT DAYS)」で、渋谷区のトイレ清掃人である主人公、平山を演じた縁がある。役所氏は同役で、カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞した。
役所氏がデザインに関わった「ピース・フォー・オール」のTシャツは、「パーフェクト・デイズ」の中の2カットと、役所氏自身が「シンプルだけど、僕自身の心にも残った」と話す「こんどはこんど、今は今」という平山のセリフをプリントしたもの。会見で役所氏は、「未来や過去で思い悩むより、今この瞬間を大切に生きていれば、痛みも悩みも消えていくんじゃないのかということを伝えたかった」と、コメント。「(難民問題や厳しい世界情勢に日々接する中で感じるのは)他人の痛みを感じる心は、天性で備わっているものではなく、(相手の状況を思いやって想像するという)訓練をしなければ身につかない。かつて司馬遼太郎さんがそう言っていたが、人との一瞬一瞬の交流の中で、(相手のことを想像し)辛いだろうな、苦しいだろうなと感じることを大切にするといいんだろうなと思っている」と続けた。
新たに「難民映画基金」も開始
会見では、ファーストリテイリングが2001年のアフガン難民への衣料支援以来、20年超にわたって取り組んでいる難民支援についても紹介した。06年にUNHCRとの協働を開始し、11年にグローバルパートナーシップを締結。25年4月末時点で、全世界で1億2210万人いるという難民・国内避難民に対し、ファーストリテイリングは緊急支援、衣料支援、店舗での難民雇用も行っている。
また、ミャンマーからのロヒンギャ難民が100万人暮らすというバングラデシュ・コックスバザールのキャンプでは、難民女性たちの自立支援として縫製トレーニングも実施。バングラデシュにあるファーストリテイリングの協力工場がトレーナーを務め、これまで累計で700人超の女性に縫製トレーニングを行い、キャンプで女性たちに必要とする布ナプキンや生理ショーツを生産している。
新しい難民支援の形として25年1月に立ち上がったのが、「難民映画基金」だ。俳優のケイト・ブランシェット(Cate Blanchett)氏らによって創設された同基金に、ユニクロは創設パートナーとして参加、10万ユーロ(約1600万円)を寄付している。難民という境遇にありながら活動を続けてきた映画制作者への支援を実施し、難民問題を映像の力でより幅広い層に届ける狙い。