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化粧品開発のAI活用事例とは?  ロレアルやLVMHもビューティ分野で着実に推進

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生成AI(学習したデータを元に新たなデータを生成する人工知能)を含むAIが美容業界の新たなゲームチェンジャーになりつつある。ロレアル(L'OREAL)やLVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(以下、LVMH)など大手化粧品企業や香料メーカーは、成分の選択や配合方法、原料となる植物の育成に至るまで、商品開発において、AIを積極的に活用している。(この記事は「WWDJAPAN」2024年3月25日号からの抜粋に加筆しています)

ロレアルはヘアカラーやリップの色味開発に活用

ロレアルは、ヘアカラー商品の色味開発にAIを活用する。髪色のサンプルから色の情報を数値化する。AIデジタルアシスタントに入力すると、作りたいヘアカラーに近付ける4つの染料の組み合わせを提案する。同グループのキャロライン・ゴジェ(Caroline Goget)=ヘアカラー&テクスチャー開発部門グローバル責任者は、「AIは魔法のインターフェイスだ。染料の配合と発色の関連性を見出すことが重要だった。組み合わせは数百万〜数十億通りと膨大だが、データサイエンスによって特定の配合が生み出せる」と説明する。科学者がAIにフィードバックすることで微調整もでき、「思いがけない組み合わせを提案してくれる」とチームの創造性にも寄与していると話す。

さらに同グループでは、リップスティックの色味開発においても研究者向けのオーダーメードのAIツールを開発する。ロレアルの調査によると、消費者は自分の肌に合う口紅の色を選ぶことに課題を感じており、万人共通の普遍的な口紅の色はほとんどないという。そこでフランスと中国、インドの女性2000人を対象に100色の口紅のバーチャルメイク調査を実施。生成AIは、わずか数分で合計20万枚の画像と20万種の口紅の色を生成した。この膨大なデータを色空間モデリングに変換し、包括的で多様なカラーラインアップの開発を進める。

1カ月から数分に作業を短縮
貴重植物の自社栽培も可能に

ラグジュアリーブランドを擁するLVMHのビューティ部門は、幅広いソリューション開発のためにデータサイエンティストとAIチームを構築した。さまざまな処方のテスト結果を収集し、アルゴリズムとAIに適用することで、実際にテストを行わなくても結果を予測できるようになった。通常3週間から1カ月かかる成分の配合作業が数分で完結できるようになったという。ただし、歴史や過去に基づいた予測であり、100%正確な結果ではないと補足する。同社は皮膚の類型や世界中の消費者に関する膨大な情報を持つが、「AIによってこれらのデータからより良い洞察と知識を引き出せる。それらを研究者に提案することで、新たな解決策を発見するだろう」とブルーノ・バヴゼ(Bruno Bavouzet)研究開発担当エグゼクティブ バイス プレジデントは語る。AIは商品開発の試行回数や市場投入までの時間を大幅に短縮するためのツールとしても活躍しているようだ。

米国発のスキンケアブランド「オダシテ(ODACITE)」は、抗炎症作用とエイジングケア作用をもたらす成分を含む高山植物のエーデルワイスを、AI技術で自社栽培する。発芽室ではエーデルワイスの成長過程をカメラとコンピューターが記録し、人工知能と精密な管理による農業を組み合わせることで、種まきから土壌、光、酸素、水、紫外線、風量の調節までを行う。収穫後に抽出物をAI学習マシンに通し、さらに最適な自然環境を検討する。これにより季節を問わずに有用成分を高濃度で抽出することを可能にし、同ブランドのアイクリームに配合している。

フレグランスのCO2削減など
複雑な香料配合も最適化

AIは香水の開発にも幅広く導入されている。スイスの香料メーカー、DSMフィルメニッヒのマテオ・マグナーニ(Matteo Magnani)香水部門最高消費者兼イノベーション責任者も、AI技術は香水開発の最初から最後までに大きな影響を与えると見ており、「新たな香りの分子構造の発見や、その特性の予測、生分解性の評価などには通常時間がかかるが、時には実現不可能なプロセスをも可能にするツールだ」と期待を寄せる。香料成分の拡充は、持続可能性、安全性コンプライアンス、顧客のコスト最適化を実現するためにも欠かせない。一般的に、CO2排出量削減のためにフレグランスの配合を変える際に香りを損わないようにするのは複雑な作業だが、AIを組み込むことで有効性を高められる。

大手香料メーカーのジボダンも消費者のオンライン上のコメントを収集して解析する独自ツール「デジパルス」を活用する。高級フレグラランスやその原料に関するトレンドを探る狙いだ。また、サンプルを作るツール「カルト」も開発した。調香師が調合したい原料を選ぶのを手助けし、適切な配合量でロボットがすぐにサンプルを生成する。

ターニングポイントは2022年
今後は人間との協業が不可欠

2022年11月は、生成AIが爆発的に普及したターニングポイントだった。AIアナリティクス企業のアンサーロケット(ANSWERROCKET)のマイク・フィンリー(Mike Finley)共同創設者兼最高技術責任者兼主席科学者によれば、「この時、AIは『似ている』という概念を突然理解した。AIが2つのものを比較できるようになり、分子がある特性を持っている場合、それが他の分子に『似ている』と理解できるようになった」という。これは美容メーカーの状況を一変させ、エスティ ローダー カンパニーズ(ESTEE LAUDER COMPANIES、以下ELC)のラヒール・カーン(Raheel Khan)予測および成長インテリジェンス担当上級副社長兼 AI タスクフォースリーダーは、「この変化の影響は指数関数的に大きくなるだろう。学習に使える大容量データと適切な質問ができる場合に最も効果的に機能する」と予測する。ELCは50年におよぶ独自データを蓄積するが、「生成AIを含むAIと組み合わせることで大規模なカスタマイズ提案を実現し、消費者が求める個々のニーズを提供できる」と、AIを活用したカスタマイズ戦略を加速させる計画を明かす。

AIが存在感を増す中で、LVMHのバヴゼ研究開発担当エグゼクティブ バイス プレジデントは、「私たちは依然として人間が中心にあるべきだと信じている。イノベーションは信念や古典的な方法から外れることで生まれる。私たちは今も専門知識や文化、感受性、アイデンティティを備えた従業員をイノベーションのプロセスの中核に据えている」と話す。DSMフィルメニッヒのマグナーニ香水部門最高消費者兼イノベーション責任者も、「生成AIは香水業界を前進させ続けるために必要だが、調香師の想像力と創造力なしでは何も生み出すことはできない」と続ける。

生成AIを利用するリスクは多岐にわたり、機密保持、プライバシー、知的財産など法的側面に関わる課題も挙げられる。アンサーロケットのフィンリー共同創設者兼最高技術責任者兼主席科学者は、「生成AIはより多くのものを提案することを得意とする。ただどのように精査するか?」と懸念し、LVMHのド・ピレイ(Gonzague de Pirey)=オムニチャネルおよびデータ最高責任者も、「より創造的になる機会でもあり、同時に創造性が低下するリスクも伴う」と警告する。

生成AIの技術は驚くべき速さで進化していることは明らかだ。「23年は、人々がAIが実行できることを目の当たりにした年だった。24年はさらに驚かされることになるだろう」とフィンリー共同創設者兼最高技術責任者兼主席科学者は語った。

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