ファッション

自民党のサステナブルファッションPTが総理に提言 座長の山田美樹議員は元エルメス

 日本の繊維・ファッション産業のサステナビリティシフトを後押しする動きが、自民党内で始まっている。自民党の有志で構成される「サステナブルファッションPT(プロジェクトチーム)」は政策提言を取りまとめ、今年4月に岸田文雄総理と山口壯環境大臣に申し入れを行った。チームの座長を務めるのが山田美樹・衆議院議員だ。エルメスジャポンで営業企画マネージャーを務めた経歴も持つ山田議員にその意図を聞いた。

WWDJAPAN編集部(以下、WWD):サステナブルファッションPTを立ち上げた経緯とメンバーは?

山田美樹・衆議院議員(以下、山田):菅政権のときに環境省と経済産業省、消費者庁の3省庁でファッションロス問題を取り扱う会合が発足した。そこから発展し、現在自民党内では環境・温暖化調査会の下にサステナブルファッションPTとプラスチックリサイクルPTがあり、井上信治・衆議院議員(前内閣府特命担当大臣)が会長を、小泉進次郎・衆議院議員(前環境大臣)が会長代行を務めている。今年初めにサステナブルファッションPTを立ち上げる際、小泉会長代行からファッション業界で経験があるという理由から私に声がかかり「やります」と即答した。議員になって10年目。何かの形でゆかりのあるファッション業界に貢献したいと思っていたからとても嬉しかった。

 以降、定期的に勉強会を開いたり、省庁と連携したりして議論を重ねている。自民党の勉強会は、メンバーを固定しておらずホームページに掲載された会に議員は誰でも参加ができるからコアメンバーはあるものの、参加者は随時変わる。

WWD:その動きが、4月の岸田総理への政策提言へつながった。提言の内容は?

山田:大きくは2つ。1つめは、仮称であるが「サステナブルファッション推進法」の検討。もうひとつは、関係省庁が一丸となって取り組むための体制整備の構築だ。

 具体的には、①新たなサステナブル市場に対応した経営・DXの推進、②衣類回収のシステム構築とリサイクル技術の高度化、③サプライチェーンの透明性の確保と環境負荷の把握(CO2の排出量を把握し共通のフォーマットで計測・可視化)、④生活者の理解と行動変容の促進に向けたラベリングと情報発信(CO2排出量の見える化、インフルエンサーやファッションメディアと連携した情報発信)などだ。

WWD:「サステナブルファッション推進法」とは、フランスで今年から施行された衣料品廃棄禁止法のような規制型になるのか、もしくは実践企業への優遇付与など“飴”型か。

山田:コロナで経営が相当に痛んでいる今、サステナビリティの取り組みが規制強化につながれば企業は大きなダメージを受ける。大量生産・大量廃棄は課題だが、作るな、売るな、だけでは米農家の減反政策と同じ。それではファッション業界は発展しない。環境配慮をうながしつつ産業の成長を促すこと、それは勉強会の大きなテーマでもあった。企業も消費者もこれから意識を高める段階だから、法はそれを後押しするものでありたい。

 たとえばリサイクルは企業だけ頑張ってもダメで、社会全体の仕組み、消費者、自治体などの連携が不可欠。CO2計測もエキスパートは環境省だが、基準作りは役所の中だけでは難しい。まずは調査や技術開発を政府が支援し、続いて取り組む企業を応援するといった形が理想だ。これは岸田総理の「新しい資本主義」とも合致するところだ。

 法には、政府提出法案と議員立法とがあるが、今回は政府主導よりも議員主導で実現したい。とは言えまだアイデア段階。議員の仲間を増やし、関係省庁と連携してムーブメントをつくってゆく。

欧州主導のルール形成に危機感

WWD:日本のファッション業界の課題をどう見ている?

山田:課題のひとつは物づくりのビジネスモデルだと思う。日本の製造業は「いい物を安く」であり、技術革新して頑張れば頑張るほど利幅が薄く、苦しくなる。一方、欧米のラグジュアリーブランドのビジネスモデルは高い付加価値の商品を高い利益率で売る。日本のアパレル産業も高付加価値高利益率のモデルにシフトしないとジリ貧になるという危機感がある。

 また、ブランド化する力が足りないのも課題だろう。個々の商品、各地の名産品はいい物がたくさんあるのに、まとめてブランド化して売り出す力が弱い。ブランドは物づくりだけではなく文化、芸術、歴史の総力戦。フランスは国策としてラグジュアリービジネスを行っているが、日本はそれができていないため質の高い生地や糸が欧州ブランドの“材料”にとどまりがちだ。

WWD:サステナビリティについても欧州主導のルール形成が先行している。

山田:SDGsはそもそもヨーロッパ由来の考え方であり価値観。新しいルールができて、日本企業はいつの間にか締め出される。自動車産業では、EUが2035年にガソリン新車販売禁止の目標を掲げているが、それでは日本が得意としてきたハイブリッド車は販売禁止になってしまう。

 アパレル産業でも、事業を100%再生エネルギーでまかなうことを目標とする「RE100」やパリ協定に沿った目標「SBT」などに加盟する企業はサプライチェーン全体でCO2削減を目指すため、環境対応が進んでいない日本企業は海外ブランドへ納入ができなくなる。早く対応しなければ、時間がない、という危機感を覚える。

WWD:他産業としての比較で見ると?

山田:2050年カーボンニュートラル実現の目標を前に、さまざまな業界が苦労している。特にエネルギー業界や自動車業界、ガソリンスタンド、電力多消費産業は長年培ってきた日本の技術が否定される変革を迫られているところもあり、脱炭素の未来図を描くのは容易ではない。

 もちろんファッション業界にとっても脱炭素は苦しい取り組みだが、ファッションだからこそ明るく前向きに取り組む可能性があるのではないか。ファッションの作り手には日本人ならではの繊細さや感性がある。また日本はファッション感度の高い消費者の裾野の広さが特徴。作り手と消費者の力が結びつけば、日本からサステナブルファッションの新たなコンセプトや世界観を生み出すことができるはず。世代を超えて受け継がれた物、という観点からラグジュアリーなサステナブルファッションもあり得るだろう。

エルメスジャポンで営業企画に携わる

WWD:エルメスジャポン時代はどんな仕事を?

山田:営業企画マネージャーとして4年4カ月、有賀昌男エルメスジャポン社長の下で働いた。ジャポンの経営やマーケット概況のパリへのプレゼンテーションなどに携わり、エクセルとにらめっこしていた。その間にリーマンショックと東日本大震災を経験し、生活必需品ではないファッションを扱うことについて、一時は仲間とともに悩んだが「生活必需品だけではなく、夢や希望がないと人は生きていけない」ことも痛感した。

WWD:ファッション業界で働く女性たちにメッセージを

山田:ファッション業界で働く女性には、女性が自然体でいられる社会をつくってほしい。私自身、公務員、経営コンサルタント、ファッション業界、国会議員とさまざまな職種で働いてきたが、自分が着たい服を着て仕事をできたのはファッション業界のときだけだった。こういう職種だからこういう服装をしなければならない、という枠を打破できないだろうか。働く女性のファッションがもっと自由になれば、と願っている。女性が変われば男性も変わるから。

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