ファッション

デジタル用に服を買う時代がやってくる コンテンツビジネスの未来とは?

 めまぐるしく進化するデジタルの世界において、コンテンツビジネスは今後どのように変化を遂げるのだろうか?当時35歳の若さでサンリオの米国法人最高執行責任者に就任した鳩山玲人・現鳩山総合研究所所長は、物販からライセンスビジネスへと戦略をシフトし、ハローキティをグローバル化させたことで業績をV字回復させた人物だ。現在はヒカキンやはじめしゃちょーをはじめとする人気ユーチューバーを抱えるウーム(UUUM)のアドバイザーを務め、LINEの社外取締役も兼務する一方で、Sozoベンチャーズのベンチャーパートナーとして、Zoomやツイッター社にも投資を行い、現在複数社のアドバイザーを務める。長きにわたってキャラクタービジネス、コンテンツビジネスに携わってきた鳩山氏にこれからのコンテンツビジネスについて尋ねた。

WWD:コンテンツビジネスを長年見てきた鳩山氏が今注目しているメディアは?

鳩山玲人・鳩山総合研究所所長(以下、鳩山):何といっても「マスタークラス(MASTER CLASS)」が面白い(編集部注:アメリカで人気に火が付いた世界の一流講師陣に学べるオンライン講座。1年間受講無制限やコースごとの料金プランがある)。ファッション分野では、米「ヴォーグ(VOUGE)」のアナ・ウィンター(Anna Wintour)編集長のリーダーシップ論やマーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)のファッションデザイン講座、ほかにもスケートボード界のレジェンド、トニー・ホーク(Tony Hawk)によるレクチャー、テニス選手のセリーナ・ウィリアムズ(Serena Williams)、スターバックス(STARBUCKS)の元CEOから、脚本家、映画監督、ドラァグクイーンのル・ポール・チャールズ(RuPaul Andre Charles)による自己表現についての考えまで85を超える講座があり、それぞれの分野の一流が出演している。

「ネットフリックス(NETFLIX)」の教育版と言われていて、教育コンテンツはスケールしないと思われていたけれど、ハリウッド級のシナリオライター、映像クリエイターが制作しているから見ていて本当に面白い。僕は最近では経済学者のマクロエコノミーを勉強し直している。

WWD:日本でもそのような教育コンテンツは拡大する可能性はあるか?

鳩山:「マスタークラス」の日本進出の手伝いをしたいと思ったこともあったが、ファッション業界の問題と一緒で、タレントやインフルエンサーが国をまたがなくなっている。たとえばキム・カーダシアン(Kim Kardashian West)やアナ・ウィンターが六本木を歩いていても誰も注目しない。カイリー・ジェンナー(Kylie Jenner)、ジジ・ハディッド(Gigi Hadid)、ベラ・ハディッド(Bella Hadid)がイベントで来日しても誰も気づかない。気づくのは本当に一部の人たちだけ。今のコンテンツが日本では通用しない。逆もしかり。「マスタークラス」みたいなコンテンツは、グローバリゼーションによってとん挫してしまう。正確にいうとヨーロッパやアジアの一部では通用するけれど、ローカリゼーションにしてしまうと規模が小さすぎてビジネスが成立しない。日本のコンテンツはなかなか海外に行かないので、そうなると日本ではやらない方がいいという結論になる。

WWD:最近では「あつまれどうぶつの森」でファッションブランドが服のデザインを配布しているが、今後のデジタルにおけるキャラクタービジネスをどう見ているか?

鳩山:僕が思い描く世界は、デジタル用の服のブランドが新たに生まれる――デジタル用に服を買う時代が来るということ。それを売り買いする、その感覚がZ世代にはある。たとえば「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」で「あつ森」用にデジタルの服を買い、それがいらなくなったらヤフーオークションで売るようになるということ。そういう世界が10年後にはある。デジタルで着ていることの意義、意味、アイデンティティーが強くならないといけない。だからブランドのアイデンティティーが出ないものはむずかしい。

さらに僕が注目しているのは、米エピック ゲームズ(EPIC GAMES)社の「フォートナイト(FORTENITE)」のオンラインゲーム。ラッパーのトラヴィス・スコット(Travis Scott)が「フォートナイト」の世界でライブを行い、そこで新曲を世界初披露したり、トラヴィスになれる“スキン(操作キャラの姿を変更することができる)”を販売したりしている。彼にはおそらく数億、数十億円のロイヤリティーが入っているはず。20~30ドル(約2100~3200円)でトラヴィスになれて、実際には数万円する「ナイキ(NIKE)」のエアジョーダンのトラヴィスモデルをゲーム中では履ける。そっちのビジネスの方がインパクトは大きい。実際の服も買わせようとする考え方ではなく、デジタルはデジタル上で取引されるようになる。10年後を見据えてビジネスを考えるべき。

WWD:その話でいうと、現在はトラヴィスのようにグローバル規模で通用する日本のインフルエンサーはあまりいない。

鳩山:デジタルインフルエンサーは海外では盛り上がるが、もともとインフルエンサーの市場の厚みが異なるため、日本はおそらく盛り上がらないのでは。キム・カーダシアンが自分でプロデュースするコスメはあれだけ売れるが、日本はインフルエンサーの力では売れない。カラコンくらい。ファッションに関しては根源的なパワーが日本には足りない。ただ、デジタルジャニーズ的なものはアリだと思う。デジタルのファンも付くし、スキャンダルもない(笑)。

テクノロジー企業が消費者の行動をどう変えるのかにも注目すべき

WWD:デジタル化がますます加速し、消費者の意識も変化している。その変化にどう対応していくべきか?

鳩山:消費者の動きがどう変わるのかが重要なのと同じくらいに、テクノロジー企業が人の行動をどう変えるのかにも注目すべき。たとえばECのツールは年々すごく軽くなっていて、動画と連動しやすく、しかも低価格で実現できるようになっている。ECプラットフォーム「ショッピファイ(SHOPIFY)」は、インスタグラムからeコマースにつなげてすぐに買える機能と、APIを充実させて画像を見ながらクリックするとすぐに買えるような機能があり、「アマゾン(AMAZON)」にも接続されるようになっているのが特徴。コロナ前の「ショッピファイ」の株価は400~500ドル(約4万3000~5万3000円)だったのが、今は1000ドル(約10万7000円)を超えている。時価総額は1210億ドル(約12兆円)。1年前の株価は約100ドル(約1万円)だったため、1年強で10倍になっている。株や時価総額に興味がないかもしれないが、実際にはZOZOの時価総額より、裏側のテクノロジー企業の方がはるかに大きい。そのダイナミクスが好きなので、シリコンバレーに住んでいる。アパレルで一番注目しているのは「ショッピファイ」。これからまだまだ伸びる、絶対伸びます(笑)。

さらにはオンラインで自宅にいながらイントラクターによるクラスを受けることができるインターネット接続のエクササイズ・バイク「ペロトン(PELOTON)」もコロナで時価総額がぐんと上がり、5000億円から約2.5倍の1兆7000億円にまで上がっている。エクササイズ・バイクだけでなく、ランニングタイプのトレッドミルも発売しており、クラスはサイクリング、ランニングをはじめ、ヨガ、メディテーション、ストレッチなど、現在10種目のクラスがある。それぞれの種目の豊富なクラスから選べるのが大きな特徴。外でスポーツができない中、インストラクターがついて月約40ドル(約4200円)は安い。日本で1兆7000億円の時価総額の会社はそんなにない。テクノロジーを掛け合わせることで起こるダイナミクスが大きいかたちで時価総額に現れている。

WWD:日本でもそのようなダイナミクスは起こるか?

鳩山:Zホールディングス(旧ヤフー)とLINEが統合を検討するにあたり、僕はLINEの社外取締役を務めており、LINE側の特別委員会の構成委員も務めている。大きなダイナミクスが日本でも起きている。それに貢献できるのを嬉しく思っている。統合が実現するとZOZOが孫会社になる。これまでは小さい規模での“部分最適”だったものの規模が大きくなっていく。それに期待している。

動画は料理と同じ。みんながプロのように作れるわけではない

WWD:鳩山氏はユーチューバーのヒカキンやはじめしゃちょーが所属しているUUUMの顧問でもある。彼らと後発の参入組で何か大きな差があるとしたら何か?

鳩山:特にUUUMでいえば、彼らは圧倒的に企画、撮影、編集能力が高い。テレビの場合、タレントを呼んだ企画なら脚本、スタッフ含め10人いても作れない。それが一人でできる、いわゆる一人総合監督。料理と同じで誰でも作れるようになるけれど、みんながプロのようなおいしい料理を作れるわけではない。動画でも同じこと。自分で作れる能力がある人が集まっているのがUUUM。そして圧倒的に若い世代が活躍している。個人がプラットフォームによって広告収入を得られるようになった。しかもテレビと異なり、流せる時間は無限大。ユーチューブには何億時間、何兆時間のコンテンツがある。その分、コンテンツ力がないと勝ち残れない。座っていれば見られますという時代ではなくなった。アイデア一発ではなく、継続してやらないとむずかしい。

WWD:ライブコマースは今度どう進化していくと思うか?

鳩山:ライブコマース自体はそもそもあまり新しいものとして認識していない。QVCなどのテレビショッピングでは、アパレルはもともと大きなカテゴリーだった。これまでは番組枠を買うコストが高いため、“商品を販売するには単価が高いものか、利益率が高いものか、数量が売れるものしか販売しない”というのがテレビショッピングの基本だった。これまではQVCのような企業規模じゃないとできなかったことが、コロナによってやる人も見る人も増えた。それでいうと今度も定着するし進んでいくが、もともと新しいものではないというのがベース。今回はテレビショッピングのメイン層だった主婦層以外の若い人を含めオーディエンスも広がるというのが新しい潮流。テクノロジーによりコストが下がって、数百万円、数千万円のテレビ枠を買わなくても気軽にできるようになった。単純にテクノロジーの発達で一気にできるようになったのが大きい。

店員が光っている、個が際立つブランドはライブコマースに向いている。セレクトショップ型なども向いている。ラグジュアリーブランドは、店頭で1人の顧客に1時間、2時間かける分、単価が高いからその分の利益も大きい。一方で1000円の商品を買う人に2時間も費やせない。そこが損益分岐点の分かれるところ。ライブコマースは同時に多くの人を接客できるので、1000円でも15分かけることができる。だからカジュアルな低価格商品の方が向いている。ラグジュアリーブランドではサービスが低下したよう感覚になるかもしれない。立ち位置によって売り方も違う。ライブコマースがうまくいっているのは、ビジネスモデルがワークする理由があるから。

WWD:中国ではインフルエンサーがライブコマースで商品を売ることが盛んだが、日本もそのようになるか?

鳩山:まず、中国のテクノロジーがどうなっているのか。EC化率、国土の大きさ、ウィーチャット(微信、WeChat)やアリババ、JD.comといったプレーヤーが相対的に活躍していることにより、分け合えるものがデジタルに移行することでロジスティクス費用が安くなり、コストが低く抑えられる。そうなれば、その分インフルエンサーに投資できる。店舗のコストがない分ライブコマースに投資できるのであって、店舗経営との両方は共存しない。コストが合わなくなる。中国が進化しているように見えるのは無店舗販売にすることでEC比率が高くなっているから。だからウェブマーケティングやインフルエンサーに費やせる。ライフスタイルの変化というより、理にかなった行動をしているだけ。

WWD:デジタルシフトで店舗を減らしてコスト削減した場合、その資源をどう活用していけばよいのか?

鳩山:商品開発をeコマース限定、もしくは店舗限定にするのか――実際にどちらの反応がいいのかは、ユーザー特性とか消費者特性に合わせてやっていかないといけない。百貨店が閉店しても、そもそも若い人が行かなくなっているから埋め合わせができている感じがしない。店舗を減らしライブコマースをしたからといって売り上げが伸びるわけでもない。若い世代のブランドを作らないとそもそもライブコマースに置き換わらない。中国は国土が広く、2年前のデータでも国民の一人あたりのジーンズ所有は1本にも満たない。日本は飽和状態だが、中国はまだまだいっぱい買いたいというフェーズ。単純に起こっている事象だけを比較すると間違える。

WWD:ユーチューブ、SNS、ポッドキャストといった、コンテンツをアウトプットするプラットフォームが多様化し細分化している。とくにブランドやメディアは何をどのように活用して戦略立てて発信していくべきなのか?

鳩山:ユーチューブは過去のアセットが積み上がる“積み上げ型メディア”。インスタ、ツイッターなどのSNSは、リアルタイムに今のエンゲージメントを高めて上手に回していくもの。ポッドキャストは、本を読む代わりとかニュースを見るのと同じような感覚で学び系を聴くようなイメージ。僕はベンチャーキャピタル界のポッドキャストを聴いていることが多い。セミナーに参加しているのと同じ感覚。僕は先ほど話した「マスタークラス」は車の移動中に聴いている。一方、ラジオは音楽やトークを聴いたりする目的が多い。

全部をランダムにやろうとするとコストがかかりすぎてしまう。ファン層、顧客層をよく理解してエンゲージメントを考え、個々に合ったプラットフォームを活用すること。それはブランドや産業によっても全く異なる。大きいプラットフォームだとエンゲージメントが低かったり。どういうタイミングで何回くらい見てもらいたいのか。ユーチューブチャンネルを作ったとすると、毎日2つアップするのかとか、その労力、コストは?根源的なニーズがあるのかなどを考えるべきだが、10代だけが買ってくれるわけではないから。若い世代に売ろうと思えば動画だけど、60代に売ろうと思ったら従来のメディアの方がよい。30代、40代は難しいところ。誰に対して売りたいかによってアプローチも変わってくる。

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コロナ禍の現地取材で見えた“パリコレ”の価値 2021年春夏コレクション続報

「WWDジャパン」10月19日号は2021年春夏コレクションの続報です。コロナ禍でデジタルシフトが進んだコレクション発表ですが、ミラノとパリではそれぞれ20ブランド前後がリアルショーを開催。誰もがインターネットを通じて同じものを見られる今、リアルショーを開催することにどんな意味があるのか?私たちはリアルショーを情熱の“増幅装置”だと考え、現地取材した全19ブランドにフォーカス。それぞれの演出やクリ…

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