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欧米で注目集める“定額レンタル服”をパリで体験 届いた服やサービスに見るビジネスの可能性

 新型コロナウイルスの影響で、ファッション業界の流通に大きな変化が起き始めています。中でも私が注目しているのは、コロナ騒動前から需要を伸ばしていたレンタルサービスです。未使用の中古品をレンタルで共有することで、衣類を循環させて生産を減らすという持続可能な新たなファッションビジネスだと近年うたわれており、昨年からいよいよレンタル事業を本格的に開始する企業も増えました。日本でもストライプインターナショナルの「メチャカリ」をはじめ、エディストの「エディスト クローゼット」、高級バッグに特化した「ラクサス」などがあります。パーティー用のフォーマルウエアだけではなく、日常着を定額制でレンタルするのがトレンドです。この潮流をつくったのはレント・ザ・ランウェイ(RENT THE RUNWAY)やル・トート(LE TOTE)、グウィニー・ビー(GWYNNIE BEE)などのアメリカのスタートアップ企業でした。中でも、11年前にサービスを開始したレント・ザ・ランウェイは現在約1100万人のユーザーを抱えており、世界中で売上高10億ドル(約1060億円)に達し、今もなお成長を続けています。昨夏には「アーバンアウトフィッターズ(URBAN OUTFITTERS)」「アメリカンイーグル(AMERICAN EAGLE)」「バナナ リパブリック (BANANA REPUBLIC)」などファションブランドも相次いでレンタルサービスを発表しました。

 アメリカ企業の成功を参考にし、フランスでもル・クローゼット(LE CLOSET)やパノプリー(PANOPLY)、テール・ミー(TALE ME)などの企業が続々と誕生しました。老舗百貨店のギャラリー・ラファイエット(GALERIES LAFAYETTE)オスマン本店では、パノプリーと協業したレンタルサービス専門コーナーが設けられています。

背景には自然環境への意識

 レンタルサービスが注目を集めることになった背景の一つに、環境問題への意識の高まりがあります。米新聞「ブルームバーグ(BLOOMBERG)」紙と「ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)」紙は2018年、「H&M」では未販売の衣類とアクセサリー計42億ドル分(約4876億円)が倉庫に山のように積まれ無駄になっていると暴きました。ファッション業界が環境汚染に加担する産業だと長年問題視される主な要因は、ファストファッションが生み出す過剰生産です。多くの企業がサステナビリティを指針に掲げて取り組む一方で、生産された衣類の大部分は倉庫もしくはクローゼットの中で眠っているという悪循環に陥ってしまっているようです。IFM(フランスのテキスタイル・モード・ラグジュアリーブランド産業の高等専門学校)の調べでは、環境および社会に悪影響を与える洋服の過剰消費を制限することで、中古衣料品市場(再販売、レンタル、リサイクル)が生み出す利益は10億ユーロ(約1221億円)に相当するという試算が出されました。

 このような矛盾を解消するために、使用されていない衣類をレンタルによって共有して寿命を延ばすという考えは、環境的な視点からも有意義であると言えます。さらに、新型コロナウイルスの脅威を経験したことで、人々の自然環境への関心は今後いっそう高まり、衣料品に対してサステナブルな選択を意識することになるでしょう。

 しかし、環境問題に関しては結果がすぐ表れないだけに、正しい結論を導き出すのは容易ではありません。昨今フランスでは、サステナビリティをマーケティングの手法として用いる欺瞞的なアピールである“グリーン・ウオッシング”を指摘する記事も話題になっています。環境に関する科学的根拠が出ていないレンタルサービスに対して、私はまだ懐疑的です。また、コロナ騒動の最中「レンタル品によってウイルスがまん延する」といううわさがアメリカで飛び交いました。これに対しレント・ザ・ランウェイは、徹底した清掃方法に則っていると主張する書簡を出しましたが、外出規制で衣類着用の機会が減ったことと、感染の不安からサービス利用者が激減したと想像できます。現に同社は3月末に、アメリカ国内にある5つの実店舗の従業員を解雇しました。外出規制が解除されたとしても、レンタル品に対する不安はなかなか払拭できないかもしれません。

フランスのレンタル服を体験

 このように情報はいろいろと溢れていますが、体験してみないと何もわかりません。そこで、パリ在住の私は実際にフランス企業ル・クローゼットの1カ月定額レンタルサービスを体験してみることにしました。まずはオンライン上でユーザー登録を行い、洋服の好みやサイズなど、10項目の簡単な質問に答えます。レンタルする洋服とアクセサリーの数によって3段階の料金設定があり、私は一番安い月額39ユーロ(約4700円)で2着の衣類と1つのアクセサリーをレンタルできるコースを選びました。どのコースでも返却時のクリーニングは不要で、月に何度でもレンタル品の依頼が可能です。

 注文から5日後、最初に届いたのはコットン素材の黒のトップスと淡いブルーのジャケット、ストーンが付いたリングでした。でも好みとは違ったため、一度も着用することなく返却しました。レンタル品はナイロン素材のバッグに入って届けられ、洋服を包む梱包紙などは使用されていません。ナイロン素材の品質は不明ですが、プラスチック製ではなく植物由来の繊維素材であるといいなと思ったのが、受け取って最初に感じたことです。2度目の配送で届いたのは、ジーンズとロングドレス、ネックレスでした。サービスを利用したのはまだまだ寒い時季だったため、最初のレンタル品同様、素材や丈感は寒い時季には適していませんでした。今回の体験で唯一着用したのは、ジーンズだけです。気に入ったら買い取ることもできますが、一度着用したら返却し、レンタル体験を終えました。

配送法とクリーニングに疑問

 サービスを利用して気になった点が2つあります。まずは配送に関して。レンタルサービスにおいて往復の配送は必須ですが、ビジネスが拡大すると同時に二酸化炭素排出量は増える一方ではないでしょうか?米「アマゾン(Amazon)」は、二酸化炭素量排出を実質ゼロにするカーボンニュートラル達成のために電動トラックを導入し始めたというニュースが記憶に新しいところです。レンタルサービスを行う企業は、環境への負荷が少ない車両での輸送でなければ利用者は疑問を感じてしまうはず。ル・クローゼットの往復の輸送は郵便局を利用したもので、電気自動車は導入されていません。

 もう一点気になったのは、クリーニングのサービスについて。私のように一度も着用せず返却された場合であっても衣類はドライクリーニングにかけられます。家庭での洗濯よりもドライクリーニングの方が多くのエネルギーを要し、溶剤は大気汚染を助長する有害な成分を含んでいることがほとんどです。レンタルサービスを行う企業は、非毒性で生分解性の洗剤と純水のみを使用するドライクリーナーとの提携であってほしいと感じました。

 今回は“環境的視点でレンタルサービスについて考察する”という目的でしたが、私の結論は、レンタルサービスが環境問題に対する最善策であるかどうかは“未知数”でした。倉庫や配送に再生可能エネルギーを使用し、包装を最低限にして廃棄物を出さない、クリーニングは水洗いか植物由来の溶剤のみを使用することなど、カーボンニュートラルを目指せば環境に優しいサービスだと言い切れるようになるかもしれません。

コロナ禍でどう変わるか

 ほしいと思っていた衣服を選択でき、購入するかどうかの最終決断として試着目的でレンタルを利用するのはとてもいいと思います。しかし、たとえレンタルサービスがサステナブルだという科学的根拠が出ても、個人的には今後利用しないと思います。なぜなら、レンタルした衣服には何の愛情も湧かなければ、それを着用して“自分らしくいられる感覚”を得られないからです。衣服は身を覆うだけが目的ではなく、感情やアイデンティティーと深いつながりがあると私は信じています。所有する衣服と時間を重ねることで生活、人生に深みが増していくもので、人生のあらゆる場面で衣服は重要な役割を持ち、人間性を構成する一部であると思っています。少なくとも私にとって、衣服はとそういう存在です。購入するよりも安くトレンドの衣服をまとえるとしても、私はこの先レンタルサービスとは縁がなさそうです。

 仏新聞「ル・モンド(Le Monde)」紙の取材に答えた「パノプリー」共同創始者アングリッド・ブロシャール(Ingrid Brochard)は、従来の消費スタイルから洋服レンタルのスタイルにくら替えする人が増えている理由について、SNSが背景にあると分析しています。「1、2回着用してSNSに投稿したら満足感を得られる。人々は実生活よりもSNSで人気がある方を好み、写真であれば洋服がレンタルか所有物であるかは見分けられないから利用者が増えている。洋服自体への関心や敬意は減り、自分自身への関心が増しているのだ」。

 とどまるところのないSNSの普及とともにレンタルサービスは成長していくのでしょうか。新型コロナウイルスによる外出自粛で売り上げを伸ばした企業もあれば、大きな打撃を受けた企業もあることは間違いないため、各社がビジネスを今後どのように広げていくのか引き続き注目していきたいです。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける