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極寒を知る道産子が作る最強のメイド・イン・北海道のダウンジャケット 道内で6次産業化も視野に

 凍てつくような寒さを経験している北海道出身者たちが立ち上げた「ホッカイドウ ダウン プロジェクト(HOKKAIDO DOWN PROJECT)」は、ダウンアイテムを軸に道内での6次産業化を目指して結成されたプロジェクトだ。6次産業化とは生産(1次産業)から加工(2次産業)、販売(3次産業)までを取り込み、経営の多角化を図る考え方で、6次とはそれらの数字を合計した呼び名で、地域複合を目指すローカルを中心に広がっている。同プロジェクトのダウンブランド「レタール ヌイ(RETAR NUY)」はクラウドファンディングサイト「キャンプファイヤー(CAMPFIRE)」を介しての受注生産を行っていて、2日間で目標金額に到達した。記録的な暖冬の影響でアウターの売り上げ不振に悩む企業も多く、かつ群雄割拠のダウン業界にあえて挑む理由は何なのか——? 同プロジェクトの責任者で「レタール ヌイ」のディレクターを務める大崎信哉に話を聞いた。

WWD:「ホッカイドウ ダウン プロジェクト」を発足させた経緯は?

大崎信哉(以下、大崎):私が札幌で「ベセル(BetheL)」というショップを立ち上げてちょうど10年経つのですが、地方からファッションを発信する難しさを常に感じていました。そんな中、2年前に札幌パルコの新店オープンを控えた前日に、北海道胆振東部地震が起こったんです。その後3日以上も停電が続き、生活必需品以外の購買に対して自粛ムードも高まり、館内はガラガラ。そのときに、北海道から全国へファッションを通じて自分たちのメッセージを発信できないかと強く思うようになりました。何が自分たちの強みなのかをあらためて考えるきっかけでした。

WWD:具体的に強みとは何でしょうか?

大崎:あれこれと考えて導き出した結果が“寒さへの対策”でした。極寒の冬の生活を知っている自分たちならではの視点でモノ作りをしようと。暖かいウエアを作ることを検討した結果がダウンアイテムでした。安易な発想かもしれませんが、単純なプロダクトアウトではなく、その背景ごとブランディングにつなげようと。それがダウンを軸にした北海道内で完結する6次産業化というアイデアであり、プロジェクト全体の方針です。また、北海道在住者が作るダウンアイテムと聞くと“暖かそう”というイメージは持てても、“ファッション”のイメージは湧きにくい。その中で都会的なデザインで、発信の仕方もブランドからの一方的なコミュニケーションではないアプローチをすることで、洗練されたイメージを持ってもらえると考えています。

WWD:6次産業化を確立するためのアイデアとは?

大崎:北海道の一部は北緯45〜55度にまたがる良質なダウンが採れるダウンベルトにかかっているんです。ですが、日本国内で羽毛の採取を目的とした農場は存在しない。全てが食肉を目的としており、その副産物としてダウンアイテムや布団などに利用されています。であれば、国内初の産業を北海道から生み出せるのではないかと考えたのと同時に使命感も生まれました。1次産業は羽毛の採取を目的とした農場「北海道ダウンファーム」の開拓、2次産業は縫製工場「北海道ダウンフェザー」、3次産業として実際にアイテムを販売するブランド「レタール ヌイ」です。

WWD:ダウンアイテムだけの収益ではなく産業化することでビジネスしていくと?

大崎:ダウンアイテムを作ることがプロジェクトの出発点ですが、その過程で新しい発見もあり、モノ作りのストーリーが固まっていきました。まずは、羽毛の生産に関して、渡り鳥の経由地としても知られる大沼という街に知人がいたので聞いてみると、鳥インフルエンザが蔓延する懸念を理由に断られました。現状は生産農家を探している状況です。鳥インフルエンザで殺処分された鳥を埋却する土地は広大なため、開発コストが膨大ですので、産官学連携で羽毛の生産を目的とした農場の開発を進めていきたいと考えています。一方で食肉を目的としたダックを生産している農場は北海道にもありますので、そのような農場との連携も検討しています。

北海道の生活がモノ作りの基盤

WWD:ダウンブランド「レタール ヌイ」の特徴は?

大崎:ブランド名のレタールはアイヌ語で“白い”、ヌイは“炎”という意味です。白を雪に見立てて、寒い冬を暖かくするというメッセージを込めました。テーマは“街着”。ラグジュアリーとも本格的なアウトドアブランドとも土俵は違うと思っています。当初は北海道という地名から連想する技術力の高さをアピールする方がしっくりくると考えていましたが、巨大ブランドというライバルには太刀打ちできないですし、いずれ自分たちのやりたかった道内での産業開拓ができなくなると感じたんです。そのときにアウトドアという言葉の持つ意味を考えました。私たちにとって一番アウトドアな時間は通勤だったり、買い物だったり、何気ない日常なんです。そうするとプロユース向けのアイテムは完全にオーバースペック。街で着られるダウンの最高峰を作ろうと思い、機能や型数を絞ってその分を素材やクオリティーに投資しました。

WWD:ファーストモデルのポイントは?

大崎:ファーストモデルはオーセンティックなモデル1型に絞りました。時代や流行に左右されずに長く着られるデザインとパターンです。そこに道産子ならではのアイデアをプラスしました。フロントファスナーが曲線を描いた作りになっているのは、首回りにゆとりとボリュームを持たせることで閉じたときにネックウオーマーのように暖かさを確保し、ファスナーを開けた場合でも立ち襟がキープされ、だらしなく見えないようデザインしています。

WWD:北海道での生活がモノ作りの基盤になっている。

大崎:そうですね。北海道の吹雪は強烈です。当然フードをかぶって一番上までファスナーを締める。そのときに感じた顎から首回りにかけての窮屈さを軽減するために何度もパターンを引き直しました。腕回りのフィット感も重要です。袖を通したときに腕が柔らかいダウンに包まれるような感覚を感じてもらえるはずです。これまでラグジュアリー、本格的なアウトドアブランドを問わず、たくさんのダウンジャケットを着てきましたが、ボリュームがあればあるほど、腕や胸周りが窮屈に感じる場合も少なくありませんでした。その圧迫感を軽減することも徹底しました。ほかには、止水ファスナーや丸洗いが可能な点、そして軽さですね。ポーランド産のスーペリアホワイトグースダウン800FPを使用していて、重さはメンズのMサイズで約900gほどです。

WWD:北海道の生活は車社会でもあり、ダウン離れの声も聞きます。

大崎:ここ数年のダウンブームが異常だったのだと感じています。10万円以上するブランドのダウンを着ている人が札幌でも増えましたが、昨年くらいからその傾向も落ち着いてきた印象です。

WWD:では、なぜダウンのプロジェクトを?

大崎:ニッチな客層に向けているからです。事業に共感してくれて、それに見合う製品を開発すれば北海道に限らず顧客はいるはずだと信じています。それに毎回ダウンジャケットだけを作っていくわけでもないですし、サステイナブルな取り組みになるよう進めているところです。狙っているのはリサイクルダウンや、自社で1次産業をプロデュースすることで採れたダウンの副産物を他業種に利用することも徹底させたいと考えています。

WWD:ニッチな客層に向けたアプローチとは?

大崎:「レタール ヌイ」は他のブランドよりも顧客に寄り添いたいと考えています。例えば定期的に顧客との話し合いの場を設け、そこでの意見やアイデアを次シーズンに反映させられるような、濃密なコミュニケーションから新商品が生まれるという考え方です。ファーストモデルを購入してくれた顧客とデザイン会議を設けてもいいでしょうし、実際にSNSで非公開のグループをつくっているので、ファーストサンプルを試着していただいた顧客と意見交換できる仕組みもあります。徐々にそれが価値になって、 “一人ひとりに向けたブランド”というメッセージにつながっていくことが理想です。

WWD:新進ブランドにしては1型のみで8万5000円(税込)という価格設定も攻めていますね。

大崎:生産数の問題もありますが、10万円前後のダウンを作っているブランドと比較しても、素材やクオリティーも劣っていないですし、1シーズン着ていただけたらその理由もわかっていただけると思っています。

WWD:第2弾、第3弾の想定は?

大崎:顧客の声を徹底的に吸い上げたモノ作りをします。試着会では、男性からはスーツの着用を想定したモデルの希望や、女性であればヒップが隠れる丈でもっとタイトなシルエットが欲しい、もう少しボリュームを抑えたアイテムも欲しいといった声がありました。そのような要望に応えられるよう、丈の長いモデルのほか、日本各地の冬の平均気温を考えてエリアごとに最適なボリュームのモデルを作ろうとも考えています。大きなブランドではできないサービスこそ自分たちの強みですから。そのために、卸しや大々的な販路の拡大ではなく、「ベセル」のECと実店舗での販売を検討しています。その考え方にいかに共感を得られるかがこれからの勝負です。