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年間個人販売額は1億円超え! 「ステュディオス」MVP販売員が上海店店長の座をつかむまで

 日本ブランドのセレクトショップ「ステュディオス(STUDIOUS)」を運営するTOKYO BASEは2019年8月、中国本土初の店舗「ステュディオス トウキョウ」を上海にオープンした。東京でいうと青山のような新天地エリアにある店は、2層の作りで売り場面積は約300平方メートル。同社は20年中に北京、深圳への出店も予定しており、上海店は今後の中国事業を占う重要な店舗だ。その店長に抜擢されたのが、18年度の同社のナンバーワン販売員で、入社3年目の尹天沢(イン・テンタク)さん。青島出身で日本語ペラペラ、「青年よ、大志を抱け」を地で行く27歳の尹店長に、上海店や自身の夢について聞いた。(取材は19年年末に実施)

WWD:TOKYO BASEで働いているのはどんな経緯から?

尹天沢店長(以下、イン):親の仕事の都合で14歳の時に初めて日本を訪れ、長崎で過ごしました。その後一度中国に戻って、再度日本に住んだのが17歳の時。大学も大分の立命館アジア太平洋大学を卒業しています。元々服がすごく好きで、大学2年の時に自分でブランドを立ち上げたほど。「シュプリーム(SUPREME)」が好きだけど、高くてなかなか買えないから自分でブランドを作ろうと思ったんです。でも、半年くらいでお金がなくなって続けられなくなっちゃったんですけど。就職活動ではTOKYO BASE以外に、中国でも人気の日本のライフスタイル企業大手から内定が出ていました。周りは口をそろえて「ベンチャーより大手がいいよ」と言ったけど、谷さん(谷正人TOKYO BASE最高経営責任者=CEO)に「将来何がしたいの?」って聞かれて、「もちろん自分のブランドがやりたい」と答えました。「だったら、大手よりこっちじゃないの?」と言われたのが入社のキッカケです。その夢は今も変わっていないですが、この会社の中でもそれはかなえられるし、今は中国子会社のCEOをやりたいとも思っています。

WWD:日本ではどのように働いていた?

イン:17年に入社して、まず配属されたのが福岡店。2年目から原宿店勤務になりました。18年の販売額は年間1億1000万円で全社トップ。1億5000万円を狙っていたから、自分としてはまだまだって感じでしたけど(笑)。中国語が喋れることはもちろん僕の強みですが、中国のお客さまにばかり売っていたわけではありません。当時の僕の顧客は7割が日本の方。人と話すのが大好きで仲良くなるのが早いので、接客が向いているんだと思います。僕は大学を卒業したのが遅くて、入社2年目にはもう26歳でした。谷さんが以前、「30歳までにさまざまな経験を積んでおくべき」という話をしていたので、それにならうと僕に残された時間は4年しかない。「人の10倍努力しなきゃヤバいぞ!」と思って、その年(18年)は自分への“先行投資”として、時間もお金も体力も仕事のためにものすごく使いました。それが今につながっています。

WWD:具体的にはどんな努力をした?

イン:会社がこの先、中国などの海外事業を拡大していくという話は聞いていたので、3連休が取れると北京、広州、上海、深圳などを自腹で視察して周りました。18年は家に居た休日が3~4日くらいしかないと思う。現地のお店を見てまわって、ファッション関係者と仲良くなって一緒に食事をすることを繰り返しました。それがあったから、いざ上海に出店するとなった時に「こういうブランドが売れる」と会社に伝えることができた。現地の雑誌編集者とも親しくなっていたので、上海店オープンの時は複数の雑誌が「ステュディオス」を紹介してくれました。それによって、広告費が800万円分くらい節約できたんじゃないかな(笑)。あとは、これも“先行投資”として18年は年間で服を200万円くらい買ったんです。素材や着心地についてお客さまに自分の言葉で伝えられるようになったことで、売り上げアップにつながった。“スーパースターセールス制度”で年収は1000万になっていたし、こういう形で自分に“先行投資”していけば、いつか会社が返してくれるって考えでやってきました。

スーパースターセールス制度=TOKYO BASE独自の販売員の人事評価制度。年間販売額7000万円、8500万円、1億円達成で、それぞれ年収が700万円、850万円、1000万円になる

「予算設定が低かったら面白くない」

WWD:上海店がオープンして約5カ月。客層や人気のブランドは?

イン:顧客は25~45歳が中心。日本の店舗は大学生の顧客が多いですが、こちらはもっと大人で、外資系金融などに勤めている方も多い。僕は勉強が得意じゃないですが、トップのビジネスマンから聞く話は本で勉強するよりも断然面白いから、接客することが勉強になっています。人気のブランドは「サルバム(SULVAM)」「ベッドフォード(BED J.W. FORD)」「ターク(TAAKK)」などの“モード系”。リサーチの時点ではもっとストリートテイストのブランドが売れると思っていたんですが、他店では買えない“モード系”が「ステュディオス」には求められます。秋冬の客単価は日本だと5万円弱くらいだけど、こちらでは7万~8万円。オープン以来、メンズブランドのみ扱ってきましたが、売り上げの3割が女性客なので、2月からは「アキラナカ(AKIRA NAKA)」「ウジョー(UJOH)」など、日本のウィメンズブランドも販売します。

WWD:米中貿易摩擦により、「中国経済は減速」と日本ではしきりに報道されています。そんな中でも売り上げは取れている?

イン:目標はクリアしています。オープン初月はやや低めに予算を組んでいたんですが、予算の1.6倍くらい売れたので、本社に「もっと予算を上げてほしい」と伝えました。「僕たちを舐めないでください」っていう気持ちですね(笑)。予算が低かったら面白くないから、原宿の本店よりも高い予算を組んでいます。売上高によってスタッフのインセンティブも変わってくるので、負けられません。オープン後、想定以上に売れたことで商品が不足し、急きょ商品を本社から分けてもらいました。通関での遅延もあって若干の欠品期間は発生しましたが、一回経験したので今後はもっとスムーズに運営できる。大きな流れでは中国経済は減速しているのかもしれませんが、ファッション業界としては今はすごくいい時期だというのが僕の実感。化粧品を主戦場にしていたインフルエンサーたちも今続々とファッション分野に進出していて、中国人の間でファッションへの熱が高まっているように思います。

WWD:上海のお客さまには「ステュディオス」の何が支持されている?

イン:接客です。中国のお店って、お客さまが目の前にいても販売員が携帯をいじっているっていうこともザラなんです。そこに日本の「ステュディオス」と同様のきめ細かい接客を持ち込みました。まずは趣味などの共通の話題からお客さまと関係を作って、新作が入ったらメッセージアプリの「ウィーチャット(WeChat)」でお知らせする。お礼などのメッセージもこまめに送る。この接客手法がかなり新鮮なようです。もちろん最初はうまくいきませんでした。日本の「ステュディオス」で働いた経験があるのはスタッフ6人のうち僕だけなので、接客のロールプレーを重ねて少しずつその意図や精神を伝えていきました。オープンから4カ月の時点で、スタッフそれぞれの顧客売り上げは200万円ほどになっています。日本だと、そこまでいくのに平均で半年~1年くらいかかるんじゃないでしょうか。この接客手法は世界中どこでも通用すると思う。

目指すは「世界一かっこいいショップ」

WWD:上海は人件費が高騰して、なかなかアパレル販売員が集まらないと聞きます。スタッフはどのように採用した?

イン:日本語が喋れる女性スタッフが一人いますが、彼女とは上海店オープン前に現地を視察している際に他店で出会いました。僕のことを日本人だと思って日本語で接客してきたから、スカウトしたんです。上海店のナンバーワンセールスの男性販売員は、もともと原宿店時代の僕のお客さま。カナダで友人と一緒に自分のお店を運営していて、よく日本にも遊びに来ていたんだけど、カナダの店を閉めるというから「一緒に働こう」と誘いました。あとは友達の友達などですね。

WWD:将来的に、「ステュディオス」上海店をどのようにしていきたい?

イン:世界で一番かっこいいセレクトショップにしようって、オープン前にスタッフと話しました。世界一かっこいいのに加えて、世界一の売上高で、給料も世界一高いセレクトショップを狙っています。これから北京や深圳などの国際都市に出店していけば、世界中の人が中国で日本ブランドを知って、日本のファッションってこんなにかっこいいんだってと気付くようになると思う。就職する際、大手企業に入社せずにTOKYO BASEを選んで本当によかった。僕は上司の言うことがどんな時でも正しいとは思わないタイプだから、この会社のカルチャーが合っている(笑)。谷さんのこと、本当に尊敬しています。

WWD:具体的に、谷CEOのどんな部分を尊敬している?

イン:谷さんは“見る目”が違うなと思う。人を見る目もそうだし、ビジネスを見る目もそう。中国に進出するタイミングも、さっきも言った通りバッチリだと思う。あと、TOKYO BASEでは自分の好きなことを通して、夢に近付いていくことができるんです。そんなふうに思わせる組織を作ったという点で谷さんはすごい。月間販売額でトップになった時に、僕が前から好きだと言っていた香港の俳優で、メンズブランド「マッドネス(MADNESS)」を手掛けるショーン・ユー(Shawn Yue)に会う機会を作ってくれたのもその1つです。いつか一番の憧れの人であるNIGO(R)さんにも会ってみたいし、それもこの会社ならきっとかなうと思う。でも、次は自分が偉くなって、自分自身の力で会えるようになってやろうっていう気持ちです。