ファッション

ヒップホップシーン随一の“ひねくれ者”、ヴィンス・ステイプルズ 「リリックは書き方次第で何でも共感できちまう」

 昨年の12月初旬、ヒップホップメディア「HIP HOP DNA」が主催するライブイベントのために、アメリカを代表する若手ラッパーのヴィンス・ステイプルズ(Vince Staples)が来日した。

 ヴィンスは、2017年6月に発表した2ndアルバム「Big Fish Theory」が各所で“2017年のラップのベストアルバム”と高い評価を受け、一躍トップアーティストの仲間入りを果たした1993年生まれの若手ラッパーだ。しかし、その実力の一方で大御所ラッパーに対する歯に衣着せぬ発言や、アルコールもドラッグも摂取しないストレートエッジな生活、自身のアンチに対して引退を掛けたクラウドファウンディングの実施、とあるインタビューで「音楽を聴くのが嫌い」と応えるなど、癖の強いアーティストが多いヒップホップシーンの中でも随一の“ひねくれ者”として知られている。

 ライブ直前、同年7月の「フジロック」ぶりに来日した彼にラッパーになった経緯から、楽曲制作へのこだわり、ファッション観まで話を聞いた。

WWD:カリフォルニアのコンプトン出身だそうですが、現在も拠点はコンプトンですか?

ヴィンス:両親がコンプトンの出身だから子どもの頃は住んでいたけど、その後に母親の希望で南のロングビーチに引っ越したから“地元”はロングビーチで、今も住んでいるよ。まぁ実際は、ロングビーチの近くにある誰も知らないような小さな町なんだけどね。そのほうが分かりやすいから。

WWD:両親のルーツは?

ヴィンス:ルーツを聞かれたくないやつもいるよな、俺は平気だけど。母親の祖父母は西インド諸島にあるハイチからの移民で、父親は中米のどこか。どっちもアメリカからそんなに遠くないところさ。

WWD:ラッパーになったきっかけは?

ヴィンス:キッズの頃、友だちとふざけてそれっぽい真似ごとをしているうちにうまくなり、気付いたらなっていたとしか言いようがない。だからラッパーになるのが夢だったとか、なろうと思ってなったとか、そういうわけじゃないんだ。

WWD:幼少期に真似をしていたり、影響を受けた人は誰なんですか?

ヴィンス:そうだな……んー特にいない。俺はあんまりスターに憧れるとかがなくてさ。もちろん、スヌープ・ドッグ(Snoop Dogg、同じくロングビーチ出身のラッパー)のことはすごくリスペクトしているけど、それはラップや音楽的にというよりも、俺たち地元のキッズのためにしてくれたことをありがたく思っているということ。だって世界で最も有名なラッパーの1人なのに、若者向けのフットボール・リーグを作ってくれたり、キッズのために授業を開いてくれたりするんだぜ?彼のそういうところには本当に敬意を抱いているよ。

WWD:では、あなたも将来的に地元に貢献したいと?

ヴィンス:当然さ。いつかそういう立場になれたら、俺が今まで受けてきたことを還元してみんなを助けたいんだ。

WWD:気付いたらラッパーになっていたとのことですが、楽曲制作を始めた頃は覚えていますか?

ヴィンス:はっきりとした時期は覚えていないけど、キッズの頃に曲を作りたいと思ってすぐに作り始めたことだけは覚えている。地元のやつを通してロサンゼルスのいろんなところにコネを持っている人たちに出会い、それが未来につながった。彼らはスタジオを持っていたからすぐに曲作りができたんだ。まぁ人に聴かせられるようなレベルじゃなかったんだけど、とにかく好きだったから趣味としてやっていた。あいつらに出会えたからうまくなれたし、本当にラッキーだったと思うよ。じゃなかったら、今こうして東京でインタビューなんて受けることだってなかっただろうし。

WWD:楽曲制作において、自分なりのテーマやルールはありますか?

ヴィンス:オープンでクリエイティブな姿勢でいること、そして、間違いを恐れずにあれこれ実験してみることが大事だな。あとは、「うまくいかなかったらどうしよう」と心配したり、「ほかのやつらはどんな音楽を作っているんだろう」なんて周囲を気にしたりせずに、“これが好きだ”という自分の直感を信じることにしている。何においても自分を信じて好きなものを作ることって大事だろ?

WWD:日本の音楽シーンでは“(歌詞の)共感”が重要とされることが多いんですが、リリックでは何に重きを置いていますか?やはり実体験?

ヴィンス:毎日の暮らしやそこで感じること、金のために働かなきゃいけないこと、家族や愛する人がいること、近い関係のやつが死んだことーー表面的な違いはあるけれど、根っこにある本質はそう違ったりはしない。リリックは書き方次第で何でも共感できちまうんだ。楽曲を作るうちに、誰かに共鳴してもらえる音楽を作りたいのならば“音楽を消費されやすい形にする必要がある”ということを学んだよ。

人はなぜ音楽を聴くのか、それは共感したいから。この曲はこういう意味だとか、こういう風に聴けとかは俺は言わない。例えば歌詞の内容が、俺の意図とは違って伝わったとしても、君がそう聴いたならそれでいいと俺は思う。何のために音楽を作るかって、みんなに楽しんでもらうためだ。好きに解釈してくれて構わないし、俺はそういうのも含めて楽しんでいる。俺の曲を気に入って聴いてくれているなら、どう楽しんでくれてもいいんだよ。気に入らなかったら、それはそれだ。

2ndアルバム「Big Fish Theory」に収録されている代表曲「Big Fish」

WWD:2ndアルバム「Big Fish Theory」は全体的に暗くて冷たいビートが多いと感じたのですが、これは意識したのではなく好きなように作った結果でしょうか?

ヴィンス:そうだな。世の中には“意識して作ったアルバム”ってのがあるけど、このアルバムは自然とそうなった。音楽を聴くときに癖というか、こういうサウンドが好きっていうのがあるだろ?誰も好みからは逃れられないように、音楽を作るときも同じことが起きるんだ。

WWD:アートワークが個人的にとても好きなんですが、どういう意図が隠されているんですか?

ヴィンス:そう言ってくれてうれしいけど、あれは事故の産物なんだ(笑)。最初は全然違うものを想定していて、透明な水槽で金魚が泳いでいるように、CDケースを水槽に見立ててそこに金魚がいるビジュアルにするはずだったのに、どういうわけか金魚をアップにしたものになっちまった。まぁ出来上がりを見て「あー……もうこれでいこうぜ?」って(笑)。

WWD:3rdアルバム「FM!」のアートワークは、VERDYさんが手掛けていますね。

ヴィンス:彼のことが前から大好きで、友人の紹介で出会ったんだ。いざ会ってみたら、才能あふれるクールなアーティストで、すぐに意気投合して依頼したんだ。

WWD:VERDYさんとはツアーグッズでもコラボしていますね。

ヴィンス:ツアーグッズは、買ってくれるファンにとって何か意味があるものであってほしいと思うし、日常生活で着られず洗えもしないなんてありえない。それに俺は昔から、グッズを売るんだったら利益を出すためにバカみたいに高くするべきじゃないと思っていたし、もし高くするならばそれ相応のデザイン的な価値があるべきだと考えていた。ライブを見に来てくれたファンにはいい音楽だけじゃなくて、いいグッズも購入してもらうことで、より忘れられない体験にしてもらいたいんだ。

WWD:グッズ製作に力を入れているようですが、ファッションは好きですか?

ヴィンス:いや、そこまでファッションは好きじゃない。好きなアイテムはあるけど、デザイナーやブランドなんて全然知らないし、気にしない。誰が作ったとか、どこのブランドってよりも、いいと思ったらなんでも着る、みたいな感じさ。

WWD:USラッパーは派手なファッションやジュエリーを身に着けていることが多いですが、あなたはスタイリッシュでシンプルですよね。

ヴィンス:稼いだら高価で派手なものを身に着けたい気持ちは分かるし、悪いことじゃない。ただ単に、派手な格好は俺の趣味じゃないし似合わない(笑)。

WWD:昨年の「フジロック」に出演した際には、ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)と「ナイキ(NIKE)」の“エア プレスト(AIR PRESTO)”を履いていましたね。スニーカーが好きなんでしょうか?

ヴィンス:“エア プレスト”はもらったから履いただけ(笑)。俺も昔はスニーカーが大好きだったよ。でも今は高すぎる。リセールとかさ、もうこりごりって感じ。だって、たかが靴一足が500ドル(約5万5000円)とか800ドル(約8万8000円)もするんだぜ?マジで高すぎる。俺はそんな大金を払う気にはなれないよ。その金があったらもっと違うものがたくさん買えるし、違うことに使ったほうがいい。

今のキッズは、“こういうものを履かないとクールじゃない”と思わされて大変だよな、かわいそうだよ。大事なのは値段じゃないだろ?ファッションって、自分が好きなスタイルの服を着ることでこういう人間だと表現したり、自分にとって心地いい服を着ることのほうが大事なんじゃないのか?


WWD:以前まで「コンバース(CONVERSE)」と契約していましたね。

ヴィンス:「コンバース」とは2~3年ぐらい契約していたんだけど、正直言うと、契約が終わってからは履いていない(笑)。デザインは好きなんだけど、パフォーマンスするには底が薄くてね。でもコラボは本当にいい経験だったし楽しかったから、またスニーカーブランドとコラボする機会があればいいなと思っているよ。

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