オートクチュール・ファッション・ウイーク開幕前夜の7月5日(現地時間)、ベルギー人デザイナー、オリヴィエ・ティスケンス(Olivier Theyskens)率いる新ブランド「ボロリア(BOLORIA)」がデビューコレクションを発表した。ベルギー発の音楽フェスティバル「トゥモローランド(Tomorrowland)」を運営するエンターテインメント企業ウィー・アー・ワン・ワールド(WEAREONE world)が立ち上げた同ブランドは、2024年にアントワープを拠点に始動。約2年にわたる準備期間を経て、パリで初のランウエイショーを開催した。
1977年ベルギー生まれのティスケンスは、ブリュッセルのラ・カンブル国立美術学校で学び、97年に自身の名を冠したブランドを立ち上げたが、2001年に同ブランドを一時休止。その後は「ロシャス(ROCHAS)」と「ニナ リッチ(NINA RICCI)」「ティスケンス セオリー(THEYSKENS' THEORY)」&「セオリー(THEORY)」のディレクターを歴任した。16年に再始動した自身のブランドは現在も継続しており、新ブランドと並行してコレクション制作と個人顧客向けのオーダーメイドを手掛けている。
ティスケンスの世界観といえば、ロマンチックで神秘的、そして凛としたエレガンスだ。1899年に命名された蝶の一種に由来するブランド名「ボロリア」にも、彼の美学は色濃く反映されている。
ティスケンスらしさは健在
一方で自然体という新機軸
ショーは、真っ暗な会場中央に設置したガラス張りの展示ケースにスモークが立ち込める幻想的な演出で幕を開けた。序盤は、蝶の羽のように腰回りが大きく広がる誇張されたクリノリンを備えたヴィクトリア朝風のドレスや、ドラキュラを思わせる妖しく夢幻的なメンズルックが続く。ティスケンスは、「夢と現実の間を行き来するような物語を通して、強い感情を伝えたかった」と演出に込めた意図を語った。
漆黒やミッドナイトブルーのタフタによるボールガウンが描く幻想から目覚めると、照明もゆっくりと明るさを増し、ルックはテーラリングを軸とした現実のワードローブへと移行した。上質なウールやシルクシャルムーズで仕立てたジャケットやシャツはしっとりとした艶を放ち、コートは裏地に至るまで丁寧に仕立てている。男女で共有する細身のタイドアップのスタイルは、時に透け感のあるカシミヤニットをレイヤードしながら、ネクタイはあえてわずかに着崩し、ウエストからは下着がのぞく。パンツの裾は、急いで家を飛び出したかのように靴下にタックインした。構築と脱構築、緊張感と無造作さがせめぎ合うスタイリングは、完璧に整えることよりも着る人の日常や所作を映し出し、肩の力が抜けたエレガンスを印象づけた。これまで自身のブランドにはあまり見られなかった、自然体の軽やかさが新鮮に映る。
ウィメンズのロングドレスには、彼が得意とするバイアスカットとクチュールの技法による流麗なドレープを随所に取り入れ、身体に沿って流れるような落ち感でほのかな官能性を漂わせる。無造作なヘアスタイルとわずかに乱れたメイクアップを合わせることで、気高いエレガンスに日常性を重ね合わせた。自身のブランドのシグネチャーであるホックのディテールこそ見られなかったものの、憂いを帯びた詩情あふれる世界観は、紛れもなくティスケンスらしい。一方で、「ボロリア」を特徴づけるのは、浮世離れした夢ではなく、より地に足の着いた現実的な感覚だ。自身のブランドの高級プレタポルテとは異なる、アメリカのコンテンポラリーブランド「セオリー」で培った経験も活かされているのだろう。ティスケンスはショー後、「"今"というもの、時代の空気について考えた。そして両親のこと、フランドル地方の平原、ブリュッセルの街並みを思い浮かべていた。ベルギー独特のブルジョワ文化には、フランスとは異なるある種の気品と、現実に根差した感覚がある」と語る。さらに、「伝えたかったのは自由と独立性。特定の商品を見せるのではなく、僕たちの精神や詩情、愛するもの、心を動かされるものを表現したかった」と続けた。
「ボロリア」はエンターテインメント企業がベルギー発ラグジュアリーメゾンをゼロから立ち上げるという異例のプロジェクトだが、ティスケンスは自身の美学を損なうことなく、より現実的なワードローブという新たな領域を切り開いた。クリエイションとビジネスの両立を見据えた「ボロリア」のは、幸先の良いスタートを切った。