PROFILE: チル(Till)/チルウィーブ店主

このほどスタートする連載【学生リポーターが行く!】では、ファッション&ビューティ業界の気になるヒト、モノ、コトに学生が突撃!リポーターとしてインタビューを行う。今回訪れたのは、原宿のビンテージアニメTシャツ専門店チルウィーブ(Chillweeb)。高校生の頃から店舗に通う、現在大学2年生の舟木大河さんが、店主のチルさんを訪問した。
PROFILE: 舟木大河さん/大学2年生

アニメTシャツはダサい?
世間の感覚の変化

舟木大河(以下、舟木):高校生の頃、面白いお店を探していたらたまたまチルウィーブを見つけて。僕もアニメが好きなのでハマってしまい、自分のルーツがチルウィーブで培われたといえます。
そこでまず、チルさんのルーツについてお聞きしたいです。どんなことに影響を受けて、今のようなカルチャーやファッションにたどり着きましたか?
チル:服が好きになったのは小学6年生くらいのとき。それまでは「ギャップ(GAP)」など、服は親に着せられるモノでしかなかったのですが、当時母親が再婚した相手がファッションが好きな人で。その頃は親が買っていた雑誌「スマート(Smart)」を毎月こっそり読んだり、父親に「シュプリーム(SUPREME)」やアメカジ古着などのお下がりをもらうようになって少しずつ音楽やファッションが好きになっていきました。
また、中学生になってから親から型落ちのノートPCを与えられたことも大きいです。当時色々と環境も変わって、内に籠っていた思春期にインターネットやラノベ、漫画が与えてくれる影響は多大で、今の自分のルーツになっていると思います。

舟木:ブームになる前、世間的に見たアニメTシャツはどんなイメージだったのでしょうか?
チル:僕が中学生の頃は、バンドTシャツでさえ「ダサい」と言われていました。僕はメタラーだったし、親からの影響もあってバンドTもよく買っていたんですけど、一般的におしゃれなものという扱いではなかったです。だから、アニメTもファッショングッズというより「ファンのためのもの」って感じ。あくまで原作のマーチャンダイズで売られていて、着る人も「自分の好きなものを着ている」という感覚の人がほとんどだったと思います。それがおしゃれって言われるような時代ではなかったですね。
舟木:僕にとっては、生まれたときから「バンドT=ファッションアイテム」みたいな印象があったからちょっと意外です。
チル:そうですよね。バンドTも当時から「好きな人たちは着ている」という感じのカルチャーだったから、アニメTの流れも似ていると思います。もともとはそういうファンの人たちだけが着ているものだったのが、少しずつ大衆化していったようなイメージかな、と。
海外、国内古着のそれぞれの魅力
需要の高いアニメTシャツとは

舟木:来店される方は、どのくらいの年齢層の方が多いのでしょうか?
チル:大体30代までが7割。40代以上の方は、ビンテージよりも僕らが制作したコラボTシャツを買う人が多いです。古着カルチャーよりはアニメ作品そのもののファンみたいな人たちですね。
舟木:海外から来るお客さんも多いと思いますが、割合でいうとどのくらいですか?
チル:3分の1以上、多い日は半分以上ですね。フラっと入ってくる人もいるだろうし、「何かのメディアを見て来店したのかな?」って人もいます。ただ、その割合に売り上げ比率も比例しているかっていうとそうでもなくて、日本人のお客さんの方が単価は高いです。
海外の人たちから人気なのは、1990年代の名作など、やっぱり現地でメジャーな作品のTシャツ。やっぱり「ドラゴンボール」「ナルト」は王道だし、その一方で「シリアルエクスペリメンツレイン」「パプリカ」「パーフェクトブルー」「ベルセルク」、そしてもちろん「攻殻機動隊」もよく聞かれます。結局、それぞれの世代がリアルタイムで見ていたアニメのTシャツが支持されていくので、今の10〜20代ぐらいが30代くらいになった時には、そのアニメのTシャツの需要が伸びていくと思いますね。
個人的には“THE 萌え”みたいなTシャツは好きなのでもっと増やしたいんですが、市場的に見るとやっぱりまだニッチなので。若い子は着る人も多いんですけど、世の中的にはまだ抵抗感があるのでしょう。
舟木:今となっては、オンラインでの販売も主流になっていると思いますが、あえて店舗を持つことのこだわりとは?
チル:格好つけた言い方みたいになっちゃうんですが、こういう実店舗があることによって、若い子たちや、最近アニメTシャツに興味を持った人たちの入口になり得るんじゃないかって思うんです。現に舟木さんも、僕の店に来てそういうカルチャーをもっと好きになってくれたって言ってくれたのが答えだと思います。そういうきっかけって、店がないと生まれにくいですしね。
ずっとアニメが好きだったファンの人はもちろん、そうじゃない若い人も、おじさんにもアニメTシャツを着てほしい。もっと着る人の幅を広げていきたいし、誰でも胸を張って好きな作品のアニメTシャツを着れる世の中になって欲しいと思っています。フィジカルでの出会いがないと、興味があってもなかなか広がっていかないし、あとは単純に皆さんとアニメや漫画の話をするのが好きなだけなので、直接来てくれる方がうれしいです。
舟木:仕入れや値付けはどのように行なっているのでしょうか?
チル:海外に行って現地のディーラーから仕入れています。チルウィーブで取り扱っている多くのアニメTは海外で作られたもの。仕入れは3、4カ月に一度、タイを中心に行っています。
だから値段も、基本的には仕入れベース。そこに輸送費などの諸経費を足して値段を決めていくのは、普通の古着屋と同じかなと思います。また、僕も10年くらいこの業界を見てきているので、「これは珍しい」「評価したい」と思うものは別枠で考えたりもするし、強気な値段にすることもある。ただ長くやっていると、初めて見るようなTシャツはほとんどないですね。
値段がつくようなアニメTって、アメリカやヨーロッパで作られたものなんです。日本に入ってきてないから、当然価値も高くなる。ちなみに今店頭にあるもので一番価格が高いのは、「うる星やつら」のラムちゃん。税込で約50万円です。

もちろん日本で生産されたTシャツも取り扱っていますが、10万円以上の値段になるかというと難しい。あとはボディーやプリントの手法、薄さ、サイズによっても値段は変わってきます。
舟木:コレクターの人が評価するのは大体XLサイズですよね。最近は2000年代のような細身シルエットが流行っていて、僕もジャストサイズで着るのが好きなんですが、今後小さなサイズの需要も高まるのでしょうか?
チル:そうですね。XLならほとんどの人が着れる分需要が高いし、自然と価値も高くなる。だけど最近はMサイズがいいっていう若い子たちもいるし、アニメTをファッションに落とし込む人も増えてきているから、小さめのサイズも評価されていくのではないでしょうか。
舟木:海外の古着に注目しがちですが、国内のアニメTの魅力はなんだと思いますか?
チル:手頃な価格であること、そして絶対オフィシャルではあるということ。そもそもの作品を手掛ける企業にちゃんとお金が入るし、公式であるということは一番のメリットだと思います。
手に届きやすい価格帯でオフィシャルグッズを展開している、日本製Tシャツの老舗「コスパ(COSPA)」は、デザイン的に見ても少しユニークなものが多いです。キャラクターモチーフを直球でプリントしているもの以外にも、「分かる人には分かる」ような変化球のデザインもあり、アニメTを着ることに少し抵抗がある人も挑戦しやすいと思います。
ブームは今後どうなる?
アニメT市場のこれから

舟木:今後、アニメTシャツの価値、価格的なものはどう変わっていくと思いますか?
チル:一般的にブームとして流行ったものの価値や価格は、その後落ち着いていくことがほとんどですし、今はちょうど落ち着いてきた段階。この先がどうなっていくかはもちろん分からないけど、今後また少しずつ上がっていくのかなって思います。
僕の感覚では昨年の夏あたりがピークだったのかなと感じているんですけど、そこから市場人気がすごく落ちているという感覚もありません。
舟木:先ほど少し話に上がりましたが、最近は士郎正宗先生、ゲーム「沙耶の唄」「スクールデイズ」などさまざまなコラボレーションTシャツを製作、販売されていますよね。そういったビジネスを始めるきっかけはなんだったのでしょうか?
チル:ちょうど原宿に店舗を移転してきて、2年目の時に士郎先生とのコラボレーションをしたのが最初です。偶然、代田橋の店舗から来てくれている常連のお客さんから紹介を受けて、そこからトントン拍子で話が進んで。やっぱり自分が好きな作品のTシャツを自分で作れるなんて、オタクの身からしたら「本当にいいんですか」って感じでうれしくて。あとは、今アニメTシャツの価格がどんどん高くなっていって、どんどん敷居が高くなってしまっているのがちょっと嫌だったので、僕らが作ったTシャツが作品のファンにとっての入り口になったらいいなと思って始めました。
最初はほとんど僕1人が対応をしながら進めていたので、今振り返れば「もっとやれていた」と思う部分もあります。でもそれをきっかけに、他の作品とのコラボもやるようになって、専門知識がある仲間も増えて。色々な人に支えられながらもっと色々なことにチャレンジできるようになって、そうやって組織的に動き出してから最初に作ったのは今舟木くんが着てくれてる「沙耶の唄」のコラボTです。
舟木:第1弾の士郎先生のコラボレーションTシャツは僕も購入しました。コラボTシャツを作る上で、ビンテージショップならではのこだわりはどんなふうに反映していますか?
チル:第一に、僕たちは古着屋としても、コレクターとしても、Tシャツはやっぱりシルクスクリーンプリントで、丸胴(脇に縫い目がない構造)で、しっかりオンス(厚み)があって、という部分にはこだわりがあります。製版のためのデータも自分たちで作ってやっているし、タグはODMのパロディー風。「100% COTTON」の部分を「100% OTAKU」に変えたりして、Tシャツ好きからしたらちょっとニヤけるようなデザインにしています。あとはやっぱり、プリントの部分。多色刷りのシルクスクリーンプリントを対応してくれる業者はほとんどないので、工場探しから始めました。
デザインの部分で言えば、いかにそのアニメ作品の解像度を高くするか。作品の一部をプリントするだけでももちろん良いTシャツにはなりますが、ちゃんとその作品が好きな人に伝わるように作っているつもりです。例えば、舟木くんが着ている「沙耶の唄」のTシャツは、バックプリントに象徴的な肉塊のゲーム画面をデザインしていて。プリントや梱包もLPのサイズにしています。

舟木:ファンにとってグッと来るポイントが抑えられていて、買ったときは本当にテンションが上がります。
僕の体感として、数年前にアニメT市場のピークがあったように感じています。最近はSNSでも「ナードファッション」みたいなスタイルをよく見るようになりましたが、今後そのブームはどのようになっていくと思いますか?
チル:今の時代は、そもそもアニメが大衆に受け入れられてて、ほぼ市民権を得たフェーズだと思っていて。そんな中、少なくとも10∼20代の人にとってはアニメTシャツを着ていても「変じゃない」という価値観だと思うし、その価値観は今後広がっていくでしょう。
でもそうなってくると今度は、「みんなが着てるからもう着ない」みたいな人も現れてくるわけです(笑)。でも大事なことはブームに関係なく好きな人はずっと好きで着続けるってことです。Tシャツは自分のアイデンティティーを伝えるのに一番いいファッションだと思っていて、自分を主張するものとして好きな人はずっと着続けるだろうし、それも含めてスタイルとして定番化していくんじゃないかな。バンドTシャツのように大衆化までするのは少し寂しい気もしますが、ファッション面からでも日本のアニメや漫画が注目されるのは業界として良いことだと思うので。

PHOTOS:KAZUSHI TOYOTA