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北欧発「マリア ブラック」グローバル拡大の理由 ピアスの女神が導き出した革新的モジュラージュエリーとは

PROFILE: マリア・ブラック/「マリア ブラック」創業者兼デザイナー

マリア・ブラック/「マリア ブラック」創業者兼デザイナー
PROFILE: コペンハーゲンでデンマーク人とアイルランド人の両親の間に生まれる。幼少の頃からクラシック音楽や絵画に親しむ。デンマークで金細工を学び、ロンドンに留学。北欧の美意識とエッジが融合したデザインのジュエリーがロンドンで注目を浴び、2010年に自身のブランドを設立。15年からデンマークに拠点を移し、グローバル展開を加速している PHOTO:SYUHEI SHINE

デンマーク発ジュエリー「マリア ブラック(MARIA BLACK)」は、北欧らしく有機的でクリーンなラインのクリエイションで知られている。同ブランドは、金細工を学んだというマリア・ブラックが2010年に設立。ピアスを中心にビジネスを広げ、現在約30カ国で販売している。日本では16年からSESSIONが輸入販売を手掛け、22年に表参道に旗艦店を出店。11月には伊勢丹新宿本店1階にショップをオープンした。素材はシルバー中心で、他にはないモードなデザインと手に取りやすい価格帯で“アフォーダブル・ラグジュアリー”の代表格として存在感を増している。伊勢丹内のショップオープンを機に来日したブラックに、クリエイションやビジネスについて聞いた。

組み合わせ自由、革新的なモジュール式ジュエリーの考案

ブラックは、デンマークで3年間金細工を学んだ後、さらに技を磨くべくロンドンに留学。ポートベローマーケットで自身がデザインしたジュエリーを販売していた。「当時、自分のブランドを持ちたいと思ったわけではなく、某有名ジュエラーのゴールドスミス(金細工職人)になるのが夢だった。私がデザインしたジュエリーを購入したいう声が徐々に増えて偶発的にブランドを始めた」と話す。最初の顧客はロンドンのリバティ百貨店。ブランド創業当時から徐々にセレクトショップがジュエリーを販売するようになり、マーケットで彼女のジュエリーを見つけた店などへ卸販売するようになった。

当時、市場で出回っているジュエリーはフェミニンでロマンチックなものがほとんどだった。シルバージュエリーといえば、古臭いイメージでブランドもなかった。ブラックは、「ジェンダーなどのルールに囚われない遊び心のあるジュエリーが作りたいと思った」と語る。彼女自身、アシンメトリーなデザインが好きで、マーケットで購入した左右異なるピアスを着用していたという。そこで思いついたのが、モジュールのアイデアだ。ピアスを片耳でも購入できるようにしたところ、「何故、ペアじゃなく片耳で販売するのか」と聞かれたという。「シューズではないので、左右デザインが違ってもいいはず」というのが彼女の見解。当時、自由にミックスしたり重ね付けできるジュエリーは革新的だった。

北欧の美意識と制作現場で培った知見でビジネスを拡大

彼女が目指したのは、デザイン、カルチャー、ファッションの交差点にあるジュエリーブランドだ。こだわったのは、クリーンなラインの彫刻的なデザイン。「ミニマルだが強さがあり、静かな知性を感じるデザイン。360度どこから見ても美しいジュエリーにしたいから、ミリ単位までディテールにこだわる」。デザインする際には、自ら試着して見え方やフィット感を試すという。ブラックが持つ北欧の美的感覚と金細工の知識が融合したジュエリーは、ミニマルでモダン、非常に軽量で快適な着用感が特徴だ。「金細工を学んだことで、クラフトへの敬意やプロポーションに対する理解が深まり、長く愛されるモノ作りの精神を培うことができた」。

ブランド創業以来、売上高は安定して成長。ブランド創業時はハンドメードでジュエリーを製造していたが、バンコクのパートナーと協業を始めたのがビジネスの転機になった。タイには、ジュエリー生産工場が多くあり技術力が非常に高いという。「専門的でハンドメードレベルの素晴らしい技術力があるのにも関わらずコストが低い。高品質のジュエリーを手に取りやすい価格帯で提供できる」とブラック。「マリア ブラック」では、長く使える品質を担保するために、デザインごとに合金の配合比率を変えており、それに対応できる専門性と複雑なオペレーションが必要だ。また、パートナーと協業すれば、革新的な技術を取り入れることができる。例えば、エレクトロフォーミング(耐久性のある中空構造)の技術により、彫刻的で大振りなピアスでも驚くほど軽く作ることができる。独自のデザイン性と品質の良さ、それに加えてサステナビリティの観点から、これら工場と組むのがベストという判断だった。ブラックは、自分が表現したいデザイン、着用感や強度の向上できるならと、生産をパートナー企業に委ねた。それにより、実店舗や自社ECをオープンし、本格的なブランドとして成長していった。

“オタク”が提供するラグジュアリーな耳のキュレーション体験

「マリアブラック」では、ピアスをはじめとする耳周りのジュエリーを豊富にそろえている。耳にフォーカスする理由を聞くと、「私自身、ピアスが大好き。耳は顔の次に目に入るし、顔のフレームのような存在。指と比べると形も複雑で面白い」と話す。耳周りのジュエリーは、イヤリング、ピアス、イヤカフ、クローラー、スタッズなどサブカテゴリーが多くある。「ブランドの一番の強みは、ピアス1つで2〜3つ着用しているように見えるデザインを提供できる点。それを私たちは、“耳のエコシステム”と呼んでいる」。“1粒で2度美味しい”デザインを個人差が大きく複雑な形状の耳で実現できるのは、ブラックがジュエリー製造のノウハウを知り尽くしているから。「私は相当な“ジュエリーオタク”。金属や工具、技術革新について研究するのが大好き。だから、製造パートナーと同じ言語で会話ができ、デザインや技術面で限界を押し広げることができる」。

17年には、本格的に“ピアッシング”コレクションを発表し、店内にスタジオを導入したことで、さらにビジネスが加速した。“ピアッシング”とは、ピアスの穴を開けること。「マリア ブラック」のスタジオでは、解剖学的な専門知識を持ったプロが、それぞれの人の顔、耳などのバランスを見ながら施術を行い、14金のピアスを提案する。「“耳の専門家”へと舵を切ることで、ジュエリーを“共有体験”にすることができた。ピアスを反抗の象徴ではなく、洗練された美容儀式として再定義するのが目的だ」。日本では、医療機関での施術が中心で、位置やバランスは考慮されないことがほとんど。そのため、スタイリングの自由度や複数着用した際の美しさが制限されるケースが多い。ブラックは、「審美眼の高い日本人にブランドを通して、ラグジュアリーな耳のキュレーション体験を届けたい」とほほえむ。

ビジョンが導いたグローバルブランドへの道

ブランドを創業してから15年。現在では、「トム・ウッド(TOM WOOD)」や「シャルロット シェネ(CHARLOTTE CHESNAIS)」と肩を並べるコンテンポラリーブランドの代表格へと成長した。ブラックは、「好奇心旺盛なファッション小売向けの小さなシルバーブランドとしてスタートしたが、ファインジュエリーを展開するまでに進化した」と話す。彼女の“モジュラー式ジュエリー”というビジョンが花開き、デザインと技術にサステナビリティの観点が組み合わさったグローバルブランドに成長した。「ブランドを生かすのは、“量”ではなく、“ビジョン”だ。小さな正しい選択の積み重ねをしてきた。アイデアを生み、試し、スピーディーに動くこと、そのワクワク感を大事にしている」。勇気とビジョンを持ってひたすら勤勉に成功への準備を整えるべく歩み続けていくという。

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