ファッション

M/Mパリスの2人が語る「渋谷パルコと新タイポグラフィー論」

 11月22日に開業した新生・渋谷パルコ(PARCO)は、いつもは辛口の小島健輔先生も「奇跡の最高傑作だ!」と評するほど、ユニークなファッションビルに仕上がった。新たなシンボルとなるロゴのデザインやオープニングの広告ビジュアルを担い、個性をさらに色濃く表現する役割を担ったのが、マティアス・オグスティニアック(Mathias Augustyniak)とミカエル・アムザラグ(Michael Amzalag)の2人によるクリエイティブユニット「M/M(Paris)(エムエムパリス)」だ。今回パルコに出店した「ロエベ(LOEWE)」や「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」をはじめ、「プラダ(PRADA)」や「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」、ビョーク(Bjork)やマドンナ(Madonna)など多くのメゾンやデザイナー、クリエイターたちとコラボレーションし、シーズンビジュアルやロゴデザイン、雑誌制作などを手掛けてきた。最近オープンしたパリ・シャンゼリゼの「ギャラリー・ラファイエット(GALERIES LAFAYETTE)」のグラフィックデザインも彼らによるもの。独特のイラストやタイプフェイスに見覚えがある人も多いはずだ。新生・渋谷パルコのオープンに合わせて来日したマティアスとミカエルに、今回のアートワークのストーリーや着想源を聞いた。

―出来上がった新生・パルコを回遊した感想は?

マティアス・オグスティニアック(以下、マティアス):とてもいい店だ。コンセプチュアルさと小売りとしてのリアリティーを融合し、すごくミックス感があるのによくキュレーションされていてクリエイティブだ。グランドフロアが開放的で、いろいろなところからアクセスできるし、外と中がうまくつながっている。壁面に沿ったプロムナードも良い感じだ。中に入るとバーティカル(垂直)に空間や店が広がっていて、ファッションだけでなく上層階のニンテンドートウキョウやポケモンセンター、地下の大阪の商店街のようなカオスなフードフロアなど、知的な部分とノイズが混ざっていて面白い。

ミカエル・アムザラグ(以下、ミカエル):とてもクリエイティブでオプティミスティック(楽観的)な環境だよね。

―今回、新たなロゴや、ビジュアル3部作(シーズン広告、ティザー編、オープン編)を制作した。どのように着想し形づくっていったのか?

マティアス:生まれ変わる渋谷パルコのオープンをビジュアルで祝福するとともに、「これがパルコのアイデンティティーだ」という新しい「パルコ・カルチャー」や「パルコ・ワールド」を築き上げるストーリーを創った。私たちは2014年秋冬シーズンから4年間、パルコの広告を手掛けてきたが、シーズン広告以上に新店舗のオープンは非常に重要なものだと感じていた。渋谷パルコは単なる商業施設ではなく、人々が集い、ファッションやカルチャーやインスピレーションなど、何かを感じたり考えられる場所にしたかった。

新しいロゴは、パルコの5つの文字(P・A・R・C・O)からインスパイアされたもの。新生パルコは「ファッション」「エンターテインメント」「アート」「フード」「テクノロジー」の5本柱で構成するため、P=FASHION、A=ENTERTAINMENT、R=ART、C=FOOD、O=TECHNOLOGYと、5つの要素を表現することにした。バウハウス(BAUHAUS)のモダニズムを参考にしつつ、日本のビジュアルブックなどを見ながらアプローチし、四角と三角、丸を組み合わせたシンプルでベーシックな要素でロゴをデザインした。

ミカエル:コンセプトを聞き、建築中のパルコを見たその日に、スポンテニアス(自然発生的)に大枠が決まったんだ。

―広告ビジュアルでは、ロゴを擬人化しているのもユニークだ。

マティアス:大切にしたのは、新しさと伝統の融合だ。ロゴは新生・渋谷パルコの新しい象徴であり、伝統的なものと人間味を感じさせるものを表現するために、平面だけでなく立体化し、擬人化した。さっき、「渋谷パルコのオープンをビジュアルで祝福する」と話したが、「伝統的なお祝い」といえば、「フェスティバル」「お祭り」だ。その地域にまつわる神の化身や妖精などいろいろなキャラクターが登場するよね。だからこれもお祭りに出てきそうなキャラクターにした。「P」は「ファッション」なので、ドレスをまとったモデルによって表現。他の文字もビッグシルエットのコスチュームを身にまとったパフォーマーたちがそれぞれの意味を演じるようにした。僕らにとっては新しいフォークロア(民俗伝承)の表現でもある。

―広告ビジュアルの撮影場所は? 自然の中のようだが、水辺や、真っ白な雪景色、地層など、背景も印象的だった。

マティアス:とにかく大きな地平線のある風景の中で撮りたかった。もう一つ、日本に似た場所を探したかった。それで選んだのは、自然公園としても知られるカマルグだ。塩の産地として有名だが、フランス有数の米の産地であり、日本との共通点があった。だから、あれは雪じゃなくて塩田なんだ。収穫物である塩や米、それらを生み出す海や大地など、祝福するのにもピッタリの場所だった。新しいパルコのコンセプチュアルな部分と、人間的な部分を、訪れるみんながダイレクトに感じられて祝福を受けられるように、フォトグラファーのヴィヴィアン・サッセン(Viviane Sassen)が解釈して撮影してくれた。シンプルな図形を組み合わせて3Dに立体化した構築的なロゴは硬さがあったけれども、そこにヴィヴィアンや衣装デザイナーが人間的な温かい質感を加えてくれた。ブランドのドレスなどではなくコスチュームにしたのは、単純にファッションを表現するものではなくて、「ファッションとファッションの間」に意味を持たせたかったから。渋谷パルコは垂直に伸びるバーティカルシティであり、そこにはフードコートやファッション、シアター、ガーデンなどが積み重なっている。そんな重層的なパルコを表現したかった。

ミカエル:リアリティーがありつつ幻想的で、自己表現とセンス、ナチュラルとテクノロジーなど、いろいろなものの間で遊ぶ感覚を大切にしたかったんだよね。

―M/Mはドローイングとデジタルとを早い時代から融合させて作品を作ってきた。世の中にもコンピューターグラフィック(CG)などによるデジタル作品などが増えているが、どう感じている?

マティアス:CGは、ニュー・リアリティーであり、クリエイティブのストラテジーとしても使用するし、作品作りには欠かせないし有用だ。だけど、どうしても冷たい感じがする。AI(人工知能)もクールだが、人間的なものに変換させて、デザインを常に進化させ続けながら、もっとエモーショナルなものにしたり、温かみを持たせたい。それによって、イマジネーションと真のリアリティーを表現したい。

―M/Mが2014年に広告ビジュアルを創り始めたころから、「パルコがまた面白くなってきた」と感じる人が増えたように思える。そんな実感はあるか?

ミカエル:学生時代からパルコのクリエイティブのファンで、いつかパルコの広告を手掛けたいと熱望していたので、5年前に協業が決まったときはとてもうれしかった。最初の2回は直観的で自由に創らせてもらった。ファッションも面白く演劇的でドラマチックなものを創った。クリエイティブとしてはイノセンスで天真爛漫でもあったけど、いまひとつリアリティーがなかったかもしれないね。それがだんだんとお互いの信頼関係や基盤ができて、クリエイティブな方向性も確立されてきたところで今回の取り組みに至った。

マティアス:最初は小さくスタートして、それがどんどん大きくなった。日欧の協働プロジェクトで距離的な遠さはあったけれども、仕事というよりも、文化的なコラボレーションができた。アーティスティックな広告ビジュアル作りから始まり、カルチャーチェンジにまで携われた。これだけの規模のことを手掛けたのは初めてのことだ。“ニュー・パルコ”はパルコにとっての大冒険であり、僕たちもパルコと一緒に新しいものを作り上げようとエネルギーを注いだ。

―パルコもM/Mも海外からの評価も高まっている。

マティアス: パルコは日本のエクストリーム的な存在なのだから、もっとインターナショナルに海外に向けても発信すべきだと考えた。だからこそ日本、そして東京を深掘りすることが大事だと考え、それを中心に据えた。パルコの「イメージ戦略に投資をする」という姿勢も素晴らしかった。広告とは未来につながるメッセージであり、コミュニケーションとはブランドを知る手段でもあるからだ。

われわれもいろいろな広告・デザイン関連の賞をもらってきたが、パルコとのクリエイティブでアジアでの受賞が増え、アジアのグラフィックデザインやアート・カルチャーと交わる機会が増えた。AGI(国際グラフィック連盟)のメンバーにも招かれた。パルコとの協業の大テーマは“カルチャー・エクスチェンジ(文化的な対話)”だった。芸術的な対話が新たな展開につながったことと、協業がその場限りのものではなく過去が評価され未来につながったという2つの意味で重要なものだった。仕事自体はとてもローカルなものだけれど、世界に扉が開いた。16世紀にポルトガルから西洋文化が日本に伝わったり、日本の浮世絵がポール・ゴーギャン(Paul Gauguin)の絵画に影響を与えたように、文化の交流によってクリエイションが進化したのと同じような感覚だ。

―では、次にチャレンジしてみたいことは?

マティアス:日本でまた新しいことに挑戦してみたいね。

ミカエル:ソニー(SONY)がいい!ティーンエイジャーのころからソニーが好きで、80年代にウォークマンや、子ども向けのポップなオーディオビジュアルシリーズ「マイ・ファースト・ソニー」などを通じて音楽やカルチャーや日本にアクセスしてきた。僕にとってソニーはユートピアみたいなブランドなんだ。実はPARCOのO=テクノロジーのロゴは、ソニーのポータブルスピーカーから着想しているんだよ。いつか協業できたらいいなぁ。

松下久美:ファッション週刊紙「WWDジャパン」のデスク、シニアエディター、「日本繊維新聞」の小売り・流通記者として、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)

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